議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第88回 住民認知度向上に求められるものは何か?
地方自治
2024.03.14
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
5月末に早稲田大学で開催された新人議員研修会(注1)で、議会、議員に関する立法趣旨と実態の乖離について、講演する機会があった。
注1 ローカルマニフェスト推進連盟主催
今号では、研修会で語ったことに加えて、議会の認知度向上の観点からも論じてみたい。
■議長任期は何年なのか?
一般社会での報道を見ても、議員には公選職との意識はあっても、特別職の公務員との認識は希薄な傾向にある。そこで研修会では、公務員に求められる法令遵守のケーススタディとして、全ての議員が経験する議長選挙に関する話をした。
地方自治法(以下「自治法」)103条2項では「議長及び副議長の任期は、議員の任期による」、自治法93条1項では「議員の任期は4年」と明確に定められている。ところが多くの自治体議会では、議長が法定任期を全うすることはなく、申し合わせによって事実上1、2年に短縮した運用をしている。
もちろん、現職が自主的に辞職し、新たな議長が選出された結果であるので、形式上は違法ではない。だが、機関意思として法規定と異なる申し合わせをして運用することを、世間では「脱法行為」と呼ぶのではないだろうか。
全国を俯瞰しても、法定任期を遵守する議会のほうが少数派という事実は、一般職公務員の規範意識からは驚きを禁じ得ない。
■議長選挙は「闇談合」なのか?
一方、議長選挙には、自治法118条の規定により、公職選挙法(以下「公選法」)が一部準用される。公選法の目的規定では、「その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われることを確保」すると定めており、一部準用であっても目的規定に定める立法趣旨は議長選挙においても遵守すべきものだろう。具体的には選挙プロセスの透明性と信頼性の確保が求められよう。
ところが、住民からは誰が有力候補なのかさえもわからないまま、選挙では特定議員に票が集中して決着する議長選挙が、透明性のある選挙プロセスといえるだろうか。片山善博・大正大学地域構想研究所長は、議場では形式的な予算審議しかせずに、予算案の調製過程で内々に協議調整する実態を、「内々協議は闇談合」(注2)と評するが、議長選挙においても住民から見えない水面下で調整してしまう点は同様であり、「闇談合」の誹りを免れないのではないか。
注2 京都新聞2023.5.30朝刊
公選法の目的である公正さの確保を議長選挙でも実現するためには、該当条項が準用されていなくとも事実上の立候補制度の確立が最低限必要だろう。それは、仮に選挙結果が変わらないとしても、議長になったら何をしたいのか、所信表明を聴いて質疑し、投票行動を決定するという一連のプロセスを、住民に公開すること自体に重要な意義があると考えられるからだ。
■住民認知度向上のために
住民に首長の名前を尋ねれば、多くの住民は答えられるだろうが、議長の名前を尋ねて答えられる住民がどれだけいるだろうか。二元的代表制では執行機関と議事機関は対等とされるが、住民認知度において、その差は顕著である。
その差を埋め議会の認知度向上を図るためには、これまでは水面下で行ってきたことを透明化するだけでなく、住民にさらに積極的な情報公開をすることが、最初の一歩として必要なのではないだろうか。
第89回 『自ら決められない議会に「住民自治」が担えるのか』 は2024年4月11日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。