月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2022年10月号 特集:加速する少子化・人口減少への対応と自治体

地方自治

2022.09.28

●特集:加速する少子化・人口減少への対応と自治体

日本社会の大きな課題となってきた少子化・人口減少。これまで地方創生をはじめさまざまな取り組みが進められてきたがコロナ禍の中でさらに加速している。今年6月に厚生労働省が発表した2021年の人口動態統計では、21年の出生数は81万1604人。前年からは2万9231人の減少で、合計特殊出生率も1.33から1.30に低下した。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(17年・中位)を10年早めて、80万人を割り込みそうな状況だ。一方で、高齢化の進展により死亡数は約6万7000人増加。人口は62万8205人減り、人口減少が拡大している。もちろん少子化にはコロナ禍の影響が考えられるが、コロナ禍で変化した社会環境や人の心理が元に戻るとは限らない。こうした中で、日本社会、そして自治体は今、何をすべきなのか。今月は考えたい。

■コロナ禍と人口動態の変化──東京圏における国内人口移動傾向の変化を中心として/小池司朗

COVID–19が人口動態に及ぼした影響として、東京圏内での人口移動傾向は大きく変化したものの、東京圏一極集中の構造はコロナ禍においても基本的に維持されているといえよう。一方で、非大都市圏において転出超過傾向が弱まっていることも事実であり、コロナ禍を契機として東京圏から非東京圏全域へのさらなる転出数増加に期待する声も大きい。そのためには、全面テレワークやABWの実施等により通勤が不要な環境を創出することに加え、東京圏出生者に対して積極的にIターンを促すような施策が求められよう。

小池司朗 国立社会保障・人口問題研究所人口構造研究部部長
2019 年の日本の合計出生率は1.36 であったが、20年は1.33、21 年には1.30 と、コロナ禍において低下傾向となっている。日本の出生力は主要先進国のなかでも低い水準であるが、日本では先の生活に楽観的な見通しを持てる若者の割合が少なく、コロナ禍がもたらした将来への不安感がさらなる出生の抑制につながっているとみられる。

■「予防的社会政策」を基本とした、総合的な「人口戦略」を/山崎史郎

少子化には即効薬はない。出生率低下には様々な社会的、経済的要因が有機的に絡んでいるからである。したがって、人口減少の基調を変えるには、社会経済の構造を変えるような「総合戦略」が重要になる。ただし、多種多様な施策をただ羅列的に並べてメリハリなく資源投入すればよいわけではない。施策の「組み合わせ」と優先順位に即した「手順」が適切に行われないと、効果は上がらない。

■コロナ禍での出生数急減の背景/藤波 匠

新型コロナウイルスの感染が拡大した2年余りの期間(以下、コロナ禍)、わが国の出生数は顕著に減少した。コロナ禍前の2019年に86.5万人であった出生数(日本人)は、21年には81.1万人となり、22年は80万人割れが確実視されている。もっとも、16年以降わが国の出生数は、明らかにそれまでよりも早いペースで減少しており、足元での出生数の減少は、必ずしもコロナ禍の影響とばかりは言い切れない。本稿では、足元で進む出生数減少の背景を探り、今後の少子化対策について考える。

■少子化を止めるために何が必要か/榊原智子

子育てが多難な現代において、全ての親子に当然の権利として「保育」や「伴走型支援」を保障することが孤立を防ぎ、子どもの貧困や虐待などの問題の発生予防につながる。総合的な政策には新たな財源確保が前提となる。高いハードルがあることは間違いないが、少子化を改善し、加速する人口危機に変化をもたらすことを真剣に考えるなら、国民の連帯と合意で乗り越えることが必要なのではないか。

■移民・外国人との共生社会をどう描くか/望月優大

今後の10年、20年で、日本社会はどの国々から、どんな形で、どれほどの数の労働者を受け入れていくのか。すでに日本で暮らしている様々なルーツを持った人々も含めて、この社会をどんな姿に変えていこうとするのか。そこには色々な選択肢があり得るし、その中から私たちがどの道を選ぶかで、今後の日本は大きく変わってくる。日本社会が外国人市民も含めた一人ひとりの権利にどれだけ誠実に向き合えるか、そして人口減少を含む急激な社会の変化をどう乗り越えていけるか、その道筋に関わる極めて重要な問題だ。

■持続的低密度社会を構想する──人口減少の適応策として/小田切徳美

地方の人口減少問題の議論には「緩和策」と「適応策」の視覚が必要なことは、しばしば指摘されている。後者は「人口減少に耐えられる地域をつくる政策」と言える。適応策は、制度をめぐる議論がなされがちであり、公・共・私のセクターにかかわる「地域社会の構想」が論じられることは多くない。人口減少下における地方圏の地域社会像(イメージ)が、人々の間に共有化されていないことにも要因があるように思われる。現在はその構築過程にあるとも言えよう。

■都市部一極集中を乗り越える逆転の地方創生/藤岡慎二

都市部一極集中が止まらない。コロナ禍で変化の兆しもあったが、都市部に戻ってきており、地方に居続ける人は一握りだ。地方の人口減少を食い止めるほどではない。
本稿では地方から都市部へ人口が移動する理由をモデル化し、人口減少時代の地方創生のあり方を提言する。

■「地域を育てる学力」がつくる高校と地域との協働/筒井一伸

高校現場は一般的には自己完結してしまいがちであるが、その現場を地域に開いていくことが求められる一方、自治体をはじめ地域のアクターにとっては自己都合に即した高校との協働ではなく、高校現場との共通目標をもった取り組みが求められる。その際の一つのキーワードが「地域を育てる学力」である。

 

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
リスキリングでDX時代にキャッチアップ!

ICTやデジタル化など、自治体をとりまく環境は大きく変化しています。そうした中で注目されているのが、「リスキリング」(Re-skilling/学び直し)です。加速度的に進む変化に対応できるスキルをどう学び、どうそれを支援するか。今回はリスキリングについて考えます。

■DX時代の自治体職員に求められる能力と学び直し/辻 琢也

DX時代の自治体職員のリスキリングには、「自ら考え、自ら実施していく」というマインドの醸成により、一人一人の能力向上と全体としての組織力強化が求められている。外部組織への依存度が高い、職員の高齢化が進んでいるなど日本の自治体DXの特徴を踏まえた効果的な方法でリスキリングを的確に進め、「地域」という成果を可視化しやすい舞台で、DXの成果を実感しながら、総合的な地域経営が展開されていくことを期待したい。

■キャリアの可能性を広げるリスキリング術/島田正樹

今なお公務員を「安定した職業」だと考えるひとがいるようだが、本当の安定とは、様々な場所で成果を出せる能力と意志を持ち、自ら働く場所を選べることだと私は考えている。新しい仕事に合わせて新しいスキルを身に付けられる力、つまりは「新しい知識・スキルの学び方」こそリスキリングの最大の果実であり自由への翼かもしれない。

<取材リポート>
■公募のICTコミュニティで職員のリスキリングを推進/愛知県豊橋市

愛知県豊橋市は、『日経グローカル』誌が20年に発表した「市区町村の電子化推進度ランキング」で10位にランキングされるなど、デジタル先進都市として知られる。ただ大きな課題は、技術の進歩に追いつけるだけの人材の質と量を確保すること。そこで、職員のリスキリングを支援するため、この7月に庁内公募で「ICTコミュニティ」を立ち上げた。多様な部署・役職の30人ほどが集まり、現在はそれぞれの職場の課題を出し合ったりしている。
今後は勉強会なども開きながらスキルの向上を図り、将来的にはICTによる業務改善につなげていきたい考えだ。

 

●連載

【新連載スタート】 ■対話する議会・議員 「対話する議会・議員」とは/佐藤 淳
■管理職って面白い! ダブルループ/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
 対話はアイデアをつなぐインフラ/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/宮城節子 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/中西咲貴 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/渡辺幸伸 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/牧瀬 稔(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁 ■もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク/人財育成研究会(群馬県伊勢崎市)

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
小紫雅史・奈良県生駒市長
「ひとづくり」を最優先にした新しい住宅都市のモデルを創る!

市民と一緒に汗をかいてまちづくりを進める「自治体3・0」の提唱や、職員の副業の促進、プロフェッショナル人材の採用など先駆的な施策に取り組む小紫雅史・奈良県生駒市長。コロナ禍からの「超回復」を目指し、複合型コミュニティづくりなどを進めている。

小紫雅史・奈良県生駒市長(48)。市政50 年から次の50 年を見据え、「新しい住宅都市」づくりを進める。「大変な時代になるが、それを面白いと感じることができる職員や市民と新しい住宅都市のモデルを創っていきたい」という。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
伊達政宗(五) 水沢会議の目的

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
 人の姿が見えないという現実──福島県双葉町、11年半後の帰還開始
原発事故、続く模索㉛

東京電力福島第1原発が立地している福島県双葉町の一部地区で、政府の避難指示が解除された。爆発・火災事故から11年半が経過して、初めて町民が帰れる土地になったのである。だが、役場が町内に戻ったということ以外、目立った変化はない。避難指示が解除された区域を歩いても住民の姿はなく、長期の避難が突き付ける現実をまざまざと見せつけられる。

□現場発!自治体の「政策開発」
 官民連携で公園を活用し賑わいと交流の場を創出
──Park‒PFI制度+中小規模公園活用プロジェクト(東京都豊島区)

東京都豊島区は、まちづくりと防災の拠点となるフェーズフリーな公園を開園している。設計・施工と管理運営を一体的に発注し、Park-PFI制度を導入して運営しているのが特徴だ。リニューアルして魅力を高めた池袋駅周辺の公園との結びつきも強め、池袋中心街の賑わいを創出。また、区内に点在する中小規模公園を地域住民のコミュニティの場として活用するプロジェクトも推進し、公園を核にしたまちづくりを進めている。

 

●Governance Focus

□西日本豪雨。増える平屋での再建──岡山県倉敷市真備町、逃げ遅れは絶体絶命の危機に/葉上太郎
西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町。深さ5m以上の浸水となり、51人が犠牲になった。あれから4年が経ち、家々の改築や住民の帰還が進む。だが、跡取りのいない高齢世帯では平屋での再建が増えた。浸水時は2階で首まで浸かりながら九死に一生を得たり、2階の屋根に上がって救助されたりした人が多いのに、平屋で安心できるのか。「選択」の理由を探っていくと、これから全国で起きるだろう問題の先読み図であることに気づく。

 

●Governance Topics

□“ごみ屋敷問題”を切り口に地域課題解決のヒントを探る──第6回地域創生実践シンポジウム
地域課題の解決に向けた実践的な研究を行っている関東学院大学の地域創生実践研究所は9月11日、第6回目の「地域創生実践シンポジウム」を横浜市の同大キャンパスで開催した。テーマは「『誰一人取り残さない』ための地域創生」。いわゆる「ごみ屋敷」問題を切り口に、現場からの報告も踏まえて実践的な議論を行った。

 

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □注目映画情報/『秘密の森の、その向こう』『裸のムラ』 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『ペアレントクラシー ──「親格差時代」の衝撃』志水宏吉]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
銅おろし金職人の〝手加減〟──銅おろし金職人「江戸幸・勅使川原製作所」(東京都葛飾区)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
太陽の恵みと清らかな水が育むすべての「食」がそろう/山梨県北杜市
□山・海・暮・人/芥川 仁
ここで生きているのも捨てたもんじゃない──宮崎県高千穂町三田井上川登
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
たたら製鉄が生んだ奥出雲の農・林・畜産業──たたら製鉄に由来する奥出雲の資源循環型農業(島根県奥出雲地域(奥出雲町)
□クローズ・アップ
高知のカツオが美味しい理由──高知県中土佐町。生に向く、向かないを分けて料理に


■DATA・BANK2022 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!


【特別企画】 □幕張メッセで3年ぶりの実地開催──自治体DXが切り拓くアフターコロナの世界
/地方自治情報化推進フェア2022
□自治体現場における人材育成のミライ
「インバスケット」研修で職員の問題解決力を高める──東京都練馬区


※「From the Cinema その映画から世界が見える」「人と地域をつなぐご当地愛キャラ」は休みます。

 

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加速する少子化・人口減少への対応と自治体

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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