保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!
保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します! 第4回 ②事故と保育園の責任(1)責任・過失・謝罪の考え方
ぎょうせいの本
2022.06.01
目次
連載 保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!
弁護士・春日井市総務部参事
吉永公平
第4回 ②事故と保育園の責任(1)責任・過失・謝罪の考え方
保育園での事故は全て園の責任?
今回は、保育園において法律が関係する場面として第1回でご紹介した①~⑨のうち、②事故と保育園の責任を解説します。まさに法律問題といった分野ですが、法律問題ではない部分も重要です。
保育園の責任の種類
まず、「保育園の責任とは何か」を理解する必要があります。事故が起きた場合、被害者に対して損害賠償義務を負う等という「民事責任」、業務上過失傷害罪等の罪に問われる「刑事責任」、市町村から指導や命令を受ける「行政責任」があります。これらの責任のうち、事故に関して常に問題となり得る「民事責任」が保育園の中心的な責任です。そこで、「民事責任」について解説します。
「法的責任」と「道義的責任」の違い
保育園の「民事責任」(以下単に「責任」といいます。)には、「損害賠償義務を負う」等という意味での「法的責任」と、「損害賠償義務を負わないが心情的に申し訳ない」等という意味での「道義的な責任」があります。この2種類の責任はよく混同されますが、意識的に区別して理解することが重要です。
「法的責任」は、「違法」な行為をした場合に負う責任です。保育園での事故では、保育園に「過失」(落ち度・不注意)があった場合に「違法」となり、「法的責任」を負うことになります。実際に存在する法律に違反した場合だけではなく、「過失」がある場合も「違法」となるのです。
一方、「道義的責任」は、「適法」な行為をした場合でも負うことがある責任です。常識的な観点から、「保育園は無関係であり、何もしなくても構わない」とは言い難い場合に負う責任といえます。「道義的責任」しか負わない場合は、無関心なのは「無責任」ですが、あくまでも「何かをする『法的義務』がある」というわけではありません。
このように、事故につき保育園に「過失」があれば「法的責任」を負います。一方、保育園に「過失」がなければ「法的責任」は負わず、「道義的責任」を負う可能性があるだけです。
「過失」の内容
保育園は園児に対して「安全配慮義務」を負っています。保育園として何をすべきか(義務の内容)、そして保育園がすべきことをしなかったか(義務違反の有無)が問題となります。事故においては、「過失」と「安全配慮義務の違反」はイコールと考えて結構です。単純化すれば、「過失」とは「落ち度」であり、「不注意(うっかり)」です。専門的にいえば、「事故を予見でき、さらには回避できたのに、予見しなかったか、予見しても回避しなかったため、事故が起きてしまった」ということです。
保育園が園児に対して負う「安全配慮義務」には、ⅰ園児自身のケガ(自分で遊具から落ちた等)を防ぐという「安全配慮義務」と、ⅱある園児が他の園児にケガをさせること(ひっかく等)を防ぐという「安全配慮義務」があります。
保育園に「過失」があったか否かは、ケースバイケースの難しい判断が必要となりますので、次回に詳細な解説をします。
謝罪にも種類がある
責任とセットで登場するのが謝罪です。この謝罪にも2種類あります。保育園が「法的責任」を負う(「過失」がある)場合の「非を認める謝罪」と、「道義的責任」しか負わない(「過失」がない)場合の「感情に配慮した謝罪」です。「非を認める謝罪」であれは、「保育園が悪くてすみません」という意味になります。一方、「感情に配慮した謝罪」であれば、「保育園は悪くないのですが、ご期待に添えずにすみません」という意味になります。このような露骨な言い方はせずに、いずれの謝罪でも「申し訳ありませんでした」というフレーズを使います。
保育園が「法的責任」を負う場合に「非を認める謝罪」を行うのは当然です。一方、保育園が「道義的責任」しか負わない場合でも、「感情に配慮した謝罪」は、まさに保護者の感情への配慮であり、望ましいものです。「感情に配慮した謝罪」を行っても、保育園の非を認めたわけではありませんので、謝罪をためらう必要はありません。巷では「自らの非を認めない場合には、安易に謝罪してはいけない」という話を耳にします。しかし、「感情に配慮した謝罪」すらしないと、ぶっきらぼうな対応をしているように保護者に映り、余計に問題がこじれるおそれがあります。
2種類の謝罪の違いを意識した上で行っているのであれば、問題はありませんし、望ましい対応であるといえます。保育園に「過失」があるかわからない場合は、まずは「感情に配慮した謝罪」をしましょう。その後、事実関係の確認を行ってから「過失」の有無に関する結論を出し、必要があれば「非を認める謝罪」に移行すれば結構です。
責任・過失・謝罪の関係を整理すると、次の表のとおりです。
責任の種類 | 法的責任 | 道義的責任 |
---|---|---|
責任の内容の例 | 損害賠償義務を負う | 損害賠償義務を負わないが心情的に申し訳ない |
過失の有無 | 有 | 無 |
適法・違法 | 違法 | 適法 |
謝罪の種類 | 非を認める謝罪 | 感情に配慮した謝罪 |
謝罪の意義 | 保育園が悪くてすみません | 保育園は悪くないのですが、ご期待に添えずにすみません |
とりあえず責任を認めて謝罪すればいい?
多くの保育園では、日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に加入していると思います。この制度は、保育園の「過失」の有無(「法的責任」の有無)を問わずに、被害者に対して災害共済給付金が支給されるものです。そうであれば、保護者の機嫌を損ねないように、とりあえず保育園に「過失」があったと認めて「非を認める謝罪」をし、災害共済給付制度で対応すればいいとも思えます。
しかし、災害共済給付制度は、病院への交通費や慰謝料、物の破損・紛失の弁償代等をカバーしません。また、本当は保育園に「過失」がない場合に「過失」があると認めたら、保育園や事故に関わった保育士の名誉にも影響します。そのため、保育園の「過失」の有無は実務的にも重要な問題です。
中には、災害共済給付金として治療費だけが支給され、それで保護者が納得されるケースもあるでしょう。その場合でも、保育園から保護者に対して「保育園に『過失』はありません」と明言しなくても、保育園としては「保育園に『過失』はあったのか。然るべき責任の取り方と改善策は何であろうか」を考えることが重要です。
次回は、②事故と保育園の責任の続きとして、具体的な事故の例を挙げて、保育園の責任の有無を解説します。
[著者プロフィール]
書籍案内
『ズバッと解決! 保育者のリアルなお悩み200 園児の呼び方から送迎トラブル、園内事故まで』
吉永公平/著
(発行年月: 2022年4月/販売価格: 2,310 円(税込み))
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