巻頭言 税制鳥瞰図 公共サービスを支える税制を築けるか

地方税・財政

2022.08.02

目次

     

    巻頭言 税制鳥瞰図
    公共サービスを支える税制を築けるか

    帝京大学経済学部経済学科准教授 古市将人

    『月刊 税』2022年1月号

     筆者に課せられたテーマは、「長引くコロナ禍から考えるこれからの(地方)税制の在り方」である。本稿では、コロナ禍で機能した既存の制度と顕在化した課題を指摘した上で、今後の税制議論に関連する論点に言及したい。

     コロナ禍の発生から約1年間において、政府は約88兆円程度の財政支出を実施している。既存のセーフティネットの特例措置や生活保護制度の弾力的運用などが、人々の生活を支える役割を果たした。これらの制度のいくつかはリーマンショックをきっかけに整備されていた。現在のセーフティネットの機能を検証した上で、セーフティネットの強化に向けた議論が必要だろう。それが、次の危機への備えになる。

     コロナ禍において顕在化した課題の一つが、エッセンシャルワーカーの待遇である。現在、看護・保育・介護の担い手の収入引き上げなどを目指した議論が、公的価格評価検討委員会において始まっている。対人社会サービスは、我々の生活の基盤を支えている。対人社会サービスの担い手の待遇を改善することは、人材確保やその役割に見合った賃金の確保の観点からも重要である。社会保障に対するニーズは今後ますます高まっていくため、対人社会サービスの整備とその担い手の待遇改善は必要な政策だと考えられる。

     以上のセーフティネットの強化や公的価格の引き上げに必要な財源確保は、税制改正で対応するべきだろう。これまで、現物給付の改正の際、利用者負担の引き上げや複雑化が実施されてきた。近年では、全世代型社会保障検討会議の最終報告において、一定の所得をもつ後期高齢者の医療費窓口負担を2割にする改革の方向性が提示された。背景の一つに、少子高齢化の進展と若年世代の負担上昇を防ぐことがある(全世代型社会保障検討会議『全世代型社会保障改革の方針』2020年12月15日)。公的価格の引き上げが行われるのであれば、その財源は利用者負担ではなく税であるべきだろう。負担能力に応じて個人に負担を課すのに優れているのが税だからである。

     以上を踏まえて、本稿では、今後の税制議論に関連する論点を2点のみ指摘したい。

     第1に、コロナ禍で経済格差が増大した点に注目するのならば、税制の再分配機能の強化や金融所得と資産に対する課税が考えられる。例えば、総務省「家計調査」を用いた浦川邦夫の分析によれば、2019年から2020年にかけて平均年収を低下させたのは下位40%収入階層であり、収入のジニ係数が増加していた。また、同期間において1世帯当たりの1か月間の「金融資産純増額」が増加し、低所得層よりも中高所得層の増加率が拡大していた(浦川邦夫「所得階層間で異なる影響コロナ下の格差拡大」『日本経済新聞』2021年11月16日記事)。

     第2に、公共サービスを支える地方団体の財源を確保することが必要である。コロナ禍において、地方団体はさまざまな役割を果たしてきた。それを財政面で支えていたのが、地方団体の財源を確保する財政移転制度である。既存の財政移転制度を所与としつつ、地方税制の安定性を強化する議論が必要だろう。なぜならば、今後も、地方団体は公共サービスの主な実施主体として、さらなる役割が期待されているからである。

     少子高齢化、人口減少といったコロナ禍以前からの問題もあるため、税制改正は容易なことではない。しかし、対人社会サービスの強化やセーフティネットの拡充に寄与する税制改正ならば、人々の同意を得られるのではないだろうか。公共サービスを支える税制を構築する議論が進むことを期待したい。

     

     

    Profile
    古市 将人 ふるいち・まさと

    帝京大学経済学部経済学科准教授
     1983年生まれ。法政大学経済学部卒業、横浜国立大学国際社会科学研究科博士課程後期修了。博士(経済学)。2018年より現職。共著書として、高端正幸・伊集守直編『福祉財政』(2018年・ミネルヴァ書房)、論文として「財政調整制度導入以前の地方財政―1883〜1917年の道府県・市・町村財政の検証―」(安藤道人・宮﨑雅人との共著・2020年・『立教経済学研究』)など。

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