月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2021年6月号 特集:コロナ禍の自治体議会──教訓・挑戦・展望
地方自治
2021.05.28
目次
●特集:コロナ禍の自治体議会──教訓・挑戦・展望
2006年5月に北海道栗山町議会が全国初の議会基本条例を制定して15年。同条例の制定数は888(2019年4月1日現在、自治体議会改革フォーラム調べ)と全自治体のほぼ半数に達した。一方で、自治体議会に対する住民の信頼はどこまで高まったのだろうか。コロナ禍の中、自治体議会の活動は二極化したとも言われる。その教訓、そして、真に住民福祉の向上に寄与する自治体議会の方向性を展望したい。
■自治体議会改革の第2ステージ/江藤俊昭
地方議会改革は急展開している。この展開の「取り上げ方(時代の切り方)」=構図を見る目が必要だ。議会改革の急展開を「本史への突入」、それ以前の改革(議会の活性化と呼ばれていた)を「前史」として理解している。その突入への画期(エポック・メーキング)は、議会基本条例の制定である。地方分権による地域経営の自由度の高まり、財政危機による地方政治の台頭が背景にある。停滞はあるものの怒涛の流れとなっている。この本史は、今日第2ステージにバージョン・アップしている。〝議会からの政策サイクル.の発見と実践である。その意義と課題を探るが、コロナ禍を経験した議会の対応を考えることにもなる。
江藤俊昭 大正大学社会共生学部公共政策学科教授
地方議会改革の展開の「取り上げ方(時代の切り方)」=構図を見る目が必要だ。議会改革の急展開を「本史への突入」、それ以前の改革を「前史」として理解している。その突入への画期は、議会基本条例の制定である。
■議会基本条例の制定・検証・改正の特徴と展望/長野 基
2006年5月に北海道栗山町議会が全国初の議会基本条例を制定して15年。その後、議会基本条例は自治体議会間の「競争と共創」の中で進化してきた。そして、議会基本条例の存在は「議会への市民参加」と「議員間討議」という〝議会の文化.ひいてはローカル・デモクラシーのあり方に影響を与えてきた。これらは総体として自治体の財政規律向上に一定の貢献もしている。
■コロナを契機に首長と議会の新しい関係を/福嶋浩彦
全国の自治体ではコロナ禍の中、本会議や委員会での質問制限、時間短縮など「自粛する議会」がかなりの数にのぼった。「新型コロナ対策に追われる首長や行政側に迷惑をかけない」が理由だ。もし本当に迷惑をかけるとしたら、それは従来から議会が、本来の仕事である議員同士の討議をせず、首長(行政)への要望や口利きばかりをやってきたからではないか。コロナを契機に、二元代表制らしい自治体議会を追求したい。
■コロナ禍の議会運営の展望/新川達郎
コロナ禍において、地方自治体の議会の活動は、積極的に対応したところと、自粛に終始したところとに、大きくは二極化したとも言われている。どのような議会運営が妥当であったのかは、歴史の審判を待つべきことかもしれないが、住民福祉のための地方自治という理想を実現するという観点からの議会のあり方を模索することは、いかなる大災害あるいは感染症大流行であれ、その現場にあって対応するべき議会の本来的な義務ということができる。
■コロナ禍の議会報告会・意見交換会の論点整理/牧瀬 稔
新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界に劇的な変化をもたらした。このような状況下では、物事を進める時は「新型コロナがある」という前提に立たざるを得ないだろう。そして、新型コロナの存在を意識した議会活動が求められる。新型コロナの発生により、議会報告会や意見交換会は大きく変わりつつある。現在のコロナ禍は、既存の価値観が使えなくなりつつある。新しい時代に向かっていると前向きに捉え、議会報告会や意見交換会をめぐる論点を考えるいい時期でもある。
■コロナ禍での財政運営と自治体議会/小西砂千夫
コロナ禍では、通常時にはないような財政問題が起きている。それでは、議会議員が、財政についての見識を蓄えるにはどのようにすればいいのか。筆者は、議会での財政研修会では、財政の現状について、当局の立場に立って解説するように努めている。「議会議員も、一度、当局の立ち位置に立って財政を考えてみてください」というわけである。そのような機会を積み重ねていくと、議会の財政についての理解は、格段に深まってくる。
■議員のなり手不足解消の展望/寺島 渉
地方議員のなり手不足問題は全国に広がりつつある。長野県では直近の町村議会議員選挙で無投票が48%、定数に満たない欠員は5町村。最近は無投票が市議会議員選挙、町村の首長選挙にも広がりつつある。町村の首長選挙も直近で58%が無投票。人口減少を背景にした「なり手不足」が議員に加えて首長にも及んでおり、自治の基盤をどう維持し、地域を盛り立てていくか問われている。
■コロナ禍における地方選挙の特徴と選挙制度改革の方向性/河村和徳
東日本大震災直後に実施された被災地での地方選挙で気づいたのは、「選挙は土地に縛られている」である。一方、この1年のコロナ禍によって気づいたのは、「選挙は密で成り立っている」である。「ピンチをチャンスに」という言葉があるが、この危機をどう次に活かすのか、という視点が我々に求められる。
■ダイバーシティと自治体議会/吉田利宏
ダイバーシティの視点は国会より自治体議会においてより求められるといっていい。自治体においては、多くの場合、政党というフィルターを通さず首長が自らの価値に基づいて行政判断をする。だからこそ、スピード感ある行政が行えるわけでもあり、行政として住民参加の制度を充実させてきたわけであるが、多様性への理解は首長の感度次第という面があることも事実だ。だからこそ、自治体議会の多様性が価値を持つ。
【キャリアサポート面】
●キャリサポ特集
SDGsを自治体に“実装”する
SDGs(持続可能な開発目標)が注目されるようになって数年が経ちました。目標となる2030年を見据えると、自治体もそろそろSDGsの"実装"を求められる時期に差し掛かっているでしょう。
そこで今回は、組織体制、所管業務、行政計画、政策サイクルなどに焦点をあて、その“実装”に向けた方法を探ってみます。
〈インタビュー〉神奈川県理事(いのち・SDGs担当)・山口健太郎さんに聞く
◆多様な主体との“パートナーシップ”でSDGsを強力に推進
社会的な認知度も着実に上がり始め、2030年の目標年次に向かって、自治体でもいよいよ“実装段階”に入ったSDGs。そのトップランナーの一つが、神奈川県だ。黒岩祐治知事の下、2018年4月にいのち・SDGs担当理事に就任し、SDGsの推進で事務方の中核を担い続けている山口健太郎さんに、SDGsに取り組むポイントや今後の展望などを聞いた。
〈取材リポート〉
◆SDGsの認知度100%に向けて区一丸で取り組む/東京都江戸川区
自治体がSDGsを推進するカギの一つに、所管業務との連動がある。東京都江戸川区は、斉藤猛区長の公約に紐づける形で、区の最上位に位置する条例の新設や改定する中長期計画などとも連動させ、区一丸でSDGsを推進している。また、区議会も超党派のSDGs議連を結成するなど、取り組みの幅は広い。2021年4月に新設したばかりの「江戸川区SDGs推進センター」などを訪れ、話を聞いた。
◆SDGsの視点を行政評価に取り入れ、相対評価などを実施/長野市
SDGsを自治体職員に根づかせるには、どんな方法があるか。所管業務や行政計画に関連づける取り組みは〝正攻法.と言えるが、長野市はそれらに加え、行政評価にSDGsの視点を取り入れる仕組みを導入した。SDGsは、費用対効果や実効性の確保など行政評価の課題を突破する切り札になるのか、注目される。
●連載
■管理職って面白い! ビッグファイブ/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
公務員がアカデミックな活動をする意義/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/上野美知
■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■次世代職員から見た自治の世界/菅 花穗
■“三方よし”の職場づくり/高澤良英
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■新型コロナウイルス感染症と政策法務/澤 俊晴
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
齊藤 栄・静岡県熱海市長
「温泉観光地」として生き残るため持続可能な仕組みをつくっていく
国内有数の温泉観光地・静岡県熱海市。だが齊藤栄氏が市長に就任した06年当時、まちは輝きを失い、市の財政も危機的状況に陥りつつあった。齊藤市長は就任直後に「財政危機宣言」を行って厳しい行財政改革を進め、財政再建に成功。あわせて観光振興にも取り組み、「V字回復」を遂げたが、昨年からの新型コロナ禍により大きな影響を受けてしまう。その中で地域のミライをどう展望していくのか、これまでの道のりとともに、齊藤市長に話を聞いた。
齊藤栄・静岡県熱海市長(58)。コロナ禍の先を見据えて「持続可能な温泉観光地」づくりを進める。背景は熱海の象徴ともいえるサンビーチ。その奥のお宮緑地には自慢の「ジャカランダ遊歩道」がある。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 小早川隆景(二) 父に折られた一本の矢
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「天空の丘」は消えるのか【11年目の課題・川俣町山木屋(上)】
原発事故、続く模索
阿武隈高地に抱かれた福島県川俣町の山木屋地区は、町の中心部から標高にして400mも登った「天空の丘」のような場所にある。原発事故では町内で唯一、避難指示区域となった。そうした地形であるがゆえに帰還が進まない。町役場は「もはや400人を超える帰還は見込めない」と異例の見込みを立てて再生を図るが、「このままでは廃村になる」と漏らす住民が少なくない。
□現場発!自治体の「政策開発」
里親会母体のNPO法人で支援と養育力の向上を図る
──包括的な里親家庭支援事業(静岡市)
静岡市は、児童相談所設置以降、里親制度の普及・啓発と里親家庭の支援に力を入れている。静岡市里親会が母体となって設立したNPO法人静岡市里親家庭支援センターに里親支援業務を委託し、児童相談所・里親家庭支援センター・里親会が密接に連携して事業推進体制を構築しているのが特徴だ。同支援センターは包括的な里親支援を行うフォスタリング事業実施機関として、全国から注目を集めている。
□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
4年間の実行計画「未来への羅針盤2023」を定期的にチェックし、着実に実現へ
──神奈川県横須賀市議会
神奈川県横須賀市議会は2020年3月、市議会の4年間の実行計画「未来への羅針盤2023」を策定。今年4月には前期2年間の進捗報告を行った。実行計画は3か月ごとにチェックし進捗管理表を更新。4年間で着実に政策立案、議会改革の成果を上げていく構えだ。
●Governance Topics
□職員本を読み解き、深め、活かす!──自治体職員書籍のABD+出版記念イベント
近年、自治体職員が著者の書籍が多く出版されているが、4月末にそうした著者を囲んでの二つのオンラインイベントが開催された。自主研活動にもかかわりのある著者とともに楽しく本を読み解きながら、自分の仕事や活動に活かしていこうというものだ。
●Governance Focus
□急速に進んだ集落過疎化、被災体験の風化……
──熊本地震から5年。南阿蘇村で浮かび上がる課題と展望/葉上太郎
熊本地震(2016年4月発生)から5年が過ぎた。山の崩落で埋もれたJR線や国道が開通し、谷底に落ちた橋の架け替えも済んだ。残る大工事は第三セクター鉄道の全線復旧程度だ。一方、被害が大きかった地区では大学が村外移転したほか、人口流出も著しい。地域をどう維持していくか。早くも風化し始めた被災体験の伝承も欠かせない。課題はハードの復旧から、ソフトの戦略へと、新たなステージに移りつつある。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□今からはじめる!自治体マーケティング/岩永洋平
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□From the Cinema その映画から世界が見える
『狼をさがして』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『社会的弱者にしない自治体法務』鈴木秀洋]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
現役の長老が室町時代以来の味を伝える
──政所茶栽培(滋賀県東近江市奥永源寺地域)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
広い空と輝く緑、産業遺産、そして熱い温泉。
四季折々の感動エリアにようこそ──北海道上士幌町
□山・海・暮・人/芥川 仁
先祖から引き継いだ田んぼをいつものように耕す──熊本県球磨郡球磨村神瀬
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
伝統的な傾斜地農耕システム
──徳島県にし阿波地域(美馬市・三好市・つるぎ町・東みよし町)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/中野大好きナカノさん(東京都中野区)
□クローズ・アップ
熊本地震から5年が過ぎても──/南阿蘇鉄道。絶景路線の復旧は道半ば
【特別企画】
□市と社会福祉法人の協働で無縁遺骨問題などの対応に乗り出す
──神奈川県座間市
■DATA・BANK2021 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
*「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。