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【新刊】『自治体職員のための 入門 デジタル技術活用法』(ぎょうせい 2020年6月刊)の紹介
地方自治
2020.09.18
【新刊】『自治体職員のための 入門 デジタル技術活用法』(ぎょうせい 2020年6月刊)の紹介
(株)ぎょうせいはこのほど、『自治体職員のための 入門 デジタル技術活用法』を発刊しました。AI、RPA、IoT、ブロックチェーン、ドローン、自動運転 など、さまざまなデジタル技術が日々取りざたされており、自治体のデジタル化もまさに「待ったなし」の状況にあります。本書はこれらデジタル技術の基本知識、導入方法、注意点、展望 を項目ごとに解説しています。ここでは、本書の「はじめに」を抜粋掲載し、本書が取り扱う範囲や狙い、想定される読者について紹介したいと思います。(編集部)
自治体のデジタル技術活用とその課題
日本社会は、少子高齢化と生産年齢人口の減少が深刻化する人口縮減時代に差し掛かり、従来の存立基盤が大きく揺らぎつつあります。自治体の運営もまた、社会保障やインフラ維持に係るコストの増大、税収や働き手の減少などに伴って厳しさを増しており、多くの小規模自治体が消滅可能性都市と目されるに至っています。こうした中、自治体業務の生産性と住民サービスの水準を維持・向上しつつ、社会構造の多様化・複雑化に伴って発生する地域課題に的確に対処していくためには、これまでの延長線上にはないアプローチも選択肢として考えていくことが必要となります。その切り札の一つとして、近年、自治体での関心が高まっているのが、AI(人工知能)やロボティクス(ロボット技術)、IoT(インターネット・オブ・シングス)などのデジタル技術の活用です。
これらのデジタル技術は従来のICT(情報通信技術)とは大きく異なります。従来のICT には、情報システムの導入を通じて業務やサービスの効率化を図るという一定の方向性がありました。このため、必ずしも課題認識や目的が明確でなくとも、自治体職員に情報システムの利用を徹底できれば、大抵はそれなりの効果を出すことができました。これに対し、デジタル技術は、技術の種類、用途によって、方向性が全く異なってきます。活用に当たってはそもそも何が課題なのかを探索し、定義しなくてはならず、解決に向けたアプローチも無数にあります。そこを曖昧にしたままサービスを開発しても、ほぼ確実に失敗します。他方で、AI を利用した議事録作成システムのように、利用機関ごとに一から開発を行う必要のない、用途が明確な、パッケージ化されたサービスを利用できる場合もあります。この場合は通常のモノやサービスと同様に、費用対効果で購入の有無を決めれば済みます。
このようにひと言で括れないほど多様で、掴みどころのない技術であるがゆえに、それらを活用していくためには、どんな技術が、どんな場面で役立つのかについて、一定程度の知識が必要となります。しかしながら、こうした知識については、AI、IoT、といったように技術ごとに様々な記事やレポート、書籍が刊行されているものの、自治体職員の目線で技術の全体像を俯瞰し、比較検討できる形では整理されていません。自治体職員は手探り状態の中で、断片的でバイアスのかかった情報をもとに検討や判断をせざるを得ず、結果として、事業開始後になって、選んだ技術が課題解決に役立たないことが判明したり、前提条件の軌道修正を重ねる中でプロジェクトが骨抜きになる、といったことが起きています。しかも、これらの技術を活用するためには、新興のデジタル技術だけを理解すれば済む訳ではなく、既に広く普及しているデジタル技術、例えばスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイス、LINE やFacebook、Twitterなどのソーシャルメディア、ビッグデータ解析なども視野に入れる必要があります。そこまでを個々の自治体職員が独力で調べて身に付けるのは、かなり難しいと言わざるを得ません。自治体職員は技術知識の習得ばかりに時間を割くわけにはいきません。
本書の狙いと構成
本書はこうした状況下にある自治体職員に対し、デジタル技術活用の検討に最低限必要になると思われる基本的な知識を、ひと通り体系的に身に付けていただくために書いたものです。本書をひと通り目を通していただければ、現在、どのようなデジタル技術が、自治体のどの用途で利用可能になっているのかを俯瞰できるようになり、デジタル技術というものに対して、かなり見通しが利くようになるはずです。また、目次から必要な箇所のみを参照いただくだけでも、関係する部署で業務・サービス改善を検討するに当たっての助けになると思います。
・File 1 では主要なデジタル技術ごとに、自治体職員として最低限知っておくべき基本知識を整理しています。といってもテクニカルな内容ではなく、あくまで技術の利用者としての自治体職員の観点からの解説となっています。
・File 2 からFile 4 では、自治体職員にとっての課題を起点に、それぞれの課題を解決するためにどのようなデジタル技術が活用されつつあるのかを、主要な用途を一通りカバーする形で解説しています。
・File 5 では、実際に読者がデジタル技術活用のプロジェクトに携わることになった場合に必要となる検討のアプローチについて、エッセンスをまとめています。
・File 6 では、すべての自治体職員に関わってくる、デジタル時代における自治体職員の人材確保・育成の在り方を論じています。
・末尾には用語集も付けています。自治体職員の利用を想定してオリジナルに作成したものですが、一般的な利用にも耐え得る内容にはなっているはずです。行政の文脈において、それぞれの技術がどんな意味を持つのかを一言で知りたい方の参考になると思います。
本書の想定読者は、第一に、自治体において現状の業務・サービスの見直しに関心を持っている職員の方です。業務・サービス改善の課題はあらゆる部門にあるので、関心さえお持ちであれば、どの職種の方にも参考にしていただけると考えています。既にICT に詳しい方には、部分的には易しすぎて物足りないと感じられるかもしれませんが、ユーザー目線での知識の抜け漏れを補完する上では一定の役に立つのではないかと思います。このほか、自治体職員以外でも、自治体の業務・サービスに何らかの形で関わるIT 企業やコンサルティング会社、研究機関、NPO 法人等の方々にとっても、自治体の業務・サービスのあり方を自治体職員目線で考えたり、改善を提案したりする上での一助になると考えます。
本書を読んでいただくに当たってICT に関する予備知識は特に必要ありません。これからのデジタル技術は、情報部門だけのものではなく、すべての部門の職員にとって必要な基本リテラシーとなっていきます。様々な部門の方が本書を利用して自治体の業務・サービス改革に向けた一歩を踏み出していただければ、筆者として望外の喜びです。
2020 年5 月
一般社団法人 行政情報システム研究所
主席研究員 狩野 英司
本書の目次(抄)
File1 デジタル技術の基本知識
File1.1 なぜ今、デジタル技術なのか
File1.2 デジタル技術とは何か
File1.3 AI(人工知能)技術
File1.4 RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
File1.5 ロボティクス(ロボット・自動運転運航技術)
File1.6 IoT(インターネット・オブ・シングス)
File1.7 SNS等双方向コミュニケーションアプリ
File1.8 AR(拡張現実)/VR(仮想現実)
File1.9 ブロックチェーン
File1.10 基盤デジタル技術(クラウドサービス、API、ビッグデータ分析)
File2 庁内業務の効率化
File2.1 議事録作成を自動化する[音声認識AI]
File2.2 パソコンの定型作業を自動化する[RPA]
File2.3 手書き文字をテキストデータ化する[AI-OCR]
File2.4 膨大な事例の中から回答候補を抽出する[最適解提示AI]
File2.5 保育園入園割り振りを自動化する[数理手法]
File3 住民サービスの向上
File3.1 市民や職員からの質問に対応する[チャットボット][SNS/アプリ]
File3.2 文章の要約を自動化する[自動要約AI]
File3.3 外国語に対応する[翻訳AI][チャットボット]
File3.4 ケアプランの作成を自動化する[最適解提示AI]
File3.5 住民の属性に応じた働きかけを行う[予測AI]
File4 地域課題の解決
File4.1 公共インフラの問題を早期発見・解決する[市民通報システム][IoT]
File4.2 社会的問題の発生予測[予測AI]
File4.3 コミュニティ内の取引・処理記録を保全する[ブロックチェーン]
File4.4 ヒトやモノを届ける[ドローン、自動運転]
File4.5 災害から住民を守る[AI] [IoT][SNS/ アプリ] [AR / VR]
File5 デジタル技術の導入・活用の進め方
File5.1 デジタル技術導入上の課題
File5.2 デジタル技術導入のアプローチ
File5.3 3つのD① デジタル化
File5.4 3つのD② データマネジメント
File5.5 3つのD③ デザイン思考
File6 おわりに~デジタル時代に求められる人材とは
File7 用語集
著者Profile
■狩野 英司 /一般社団法人 行政情報システム研究所 主席研究員
中央官庁、大手シンクタンク、大手メーカーを経て現職。行政のデジタル化に関する調査研究、業務改革、システム構築に、ユーザー/コンサルタントの両方の立場で携わる。「月刊 J-LIS」ほか専門誌への寄稿、政府・自治体・企業等への講演・講義等多数。筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了。