政策課題への一考察

月刊「地方財務」

指定管理者制度における人件費・物価スライドの実装を考える(上)― 価格変動のリスク分担をどう設計するか|政策課題への一考察 第124回

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2026.09.08

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月刊地方財務 2026年8月号

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特集:予算編成―財政課の工夫と担当課のホンネ
編著者名:ぎょうせい/編
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【政策課題への一考察 第124回】
指定管理者制度における人件費・物価スライドの実装を考える(上)
―価格変動のリスク分担をどう設計するか

株式会社日本政策総研研究員
松田 睦己

※2026年7月時点の内容です。

1 はじめに

 指定管理者制度の運用は、長らく「指定期間中、指定管理料は原則として据え置く」という運用がなされてきた。この運用は物価や賃金が安定していた時代には、自治体にとっては予算編成の予見可能性を高め、指定管理者にとっては事業計画の安定性を確保する仕組みとして機能してきた。

 しかし、足元では最低賃金、水道光熱費、燃料費、再委託費等の上昇により、この前提が揺らいでいる。とりわけ、人件費比率や再委託比率の高い施設では、指定期間の途中で初年度に組んだ収支計画と実態が乖離するリスクが高まっている。指定期間中の価格変動を指定管理者側に過度に負わせる運用は、応募意欲や履行継続可能性を低下させる一因となる。

 こうした環境の変化を受け、国は官公需における価格転嫁の徹底や、デフレ時代に固定化された制度の見直しを打ち出している(1)。また、総務省も原材料価格やエネルギーコスト、賃金上昇等に関する指定管理者制度・民間委託等の運用上の留意点を累次にわたり示してきた(2)(3)


(1)内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」(令和7年6月13日閣議決定)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2025.pdf
(2)総務省「資材価格の高騰、賃金上昇等への対応状況に係るフォローアップ調査のとりまとめ結果及び指定管理者制度等の運用の留意事項について」(令和7年6月26日)。あわせて、同省「具体的な対応事例(指定管理者制度)」を参照。
https://www.soumu.go.jp/main_content/001017507.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/001017510.pdf
(3)総務省「資材価格の高騰、賃金上昇等に係る民間委託等の運用の留意点について」(令和6年12月5日)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000985591.pdf

 これらを踏まえると、指定管理における物価・人件費変動への対応は、もはや個別自治体の例外的対応にとどまるものではなく、制度運用上、正面から検討すべき論点となっている。その一方で、国が示しているのは主として留意事項や具体的対応事例であり、標準制度が示されているわけではない。

 本稿(上)では、指定管理における人件費・物価スライドが求められる背景、国の動向、先行自治体の制度設計の類型を整理する。次稿(下)では、対象経費、参照指標、財政措置・協定変更との接続、導入ステップを整理する。

2 人件費・物価スライドが求められる背景

 指定管理者制度における人件費・物価スライドが求められる背景として、主に以下の点が挙げられる。

 第一に、指定期間の時間軸の問題である。指定期間は多くの場合3年から5年程度に及び、施設や自治体によってはそれ以上の場合もある。その間に最低賃金、水道光熱費、燃料費等は複数回変動し得る。低インフレ期には許容できた予測誤差が、現在の環境下では、収支計画と実態が乖離する要因となっている。

 第二に、指定管理者の収支構造の問題である。多くの指定管理業務では、人件費、法定福利費、再委託費、水道光熱費、燃料費が運営費の大きな部分を占める。このため、コスト変動の影響を受けやすいという構造的特性がある。

 第三に、人材確保の問題である。最低賃金の上昇と、清掃・警備・施設管理・給食調理等の業務における人手不足は、現場人員の賃金水準を押し上げている。指定管理料が据え置かれたまま賃金だけが上昇すれば、収支構造は次第に悪化する。

 これらにより、応募者数の減少、応募者一者化、辞退、撤退、次期公募への不参加といった形で問題が顕在化するリスクが高まっている。実際、総務省通知等でも、指定管理者制度における応募団体の少なさ、一者のみの応募、適正な指定管理料の設定、コスト上昇への対応等が課題として示されている(4)。ここで重要なのは、これを単なる「事業者の経営問題」として捉えるのではなく、「自治体が履行可能な価格で公共サービスの担い手を確保し続けられるか」という、発注者側の調達機能の問題として位置づけることにある。スライド制度は、まさにこの視点から導入を検討すべきといえる。


(4)一般社団法人指定管理者協会「令和6年度提言」(2024年10月)及び「令和7年度提言」(2025年10月)。令和6年度提言では、令和6年4月1日の総務省通知において示された課題として、応募団体の少なさ、一者のみの応募、指定管理料の設定、原材料価格・水道光熱費等の高騰への対応等が整理されている。令和7年度提言では、表1-14「指定管理者制度における人件費・物価高騰に対する総務省通知一覧」を参照。
https://www.shiteikanri.org/Portals/0/pdf/teigen/R6_teigen.pdf
https://www.shiteikanri.org/Portals/0/pdf/teigen/R7_teigen.pdf

3 人件費・物価スライドをめぐる国の動向

 次に、人件費・物価スライドをめぐる国の動向を概観する。総務省は、累次の通知において、原材料価格、エネルギーコスト、賃金上昇等への対応について自治体に留意点を示してきた。

 令和6年4月には、指定管理者制度等の運用全般の中で、資材価格・賃金上昇への対応が改めて位置づけられ、賃金スライド制度等の具体的な運用事例も紹介された。令和6年12月には、民間委託契約における価格変動対応に関する留意点として、重点支援地方交付金を公共調達における労務費を含めた価格転嫁の円滑化や自治体の施設運営に活用するよう求める通知が発出されている(5)


(5)前掲注(3)を参照。

 令和7年6月には、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」において、官公需における価格転嫁の徹底や、デフレ時代に固定化された官側制度の見直しが掲げられた(6)。同月、総務省は、資材価格の高騰、賃金上昇等への対応状況に係るフォローアップ調査結果と、指定管理者制度等の運用上の留意事項を示している(7)


(6)前掲注(1)を参照。
(7)前掲注(2)を参照。

 これらの流れから読み取れる国の立場は、期中の価格変動を制度運用の中で適切に扱う必要があるという点で一貫している。ただし、指定管理者制度には、建設工事における全体スライド・単品スライド・インフレスライドのような全国共通の標準様式は存在しない(8)。総務省が示した具体的対応事例も、あくまで参考事例であり、各自治体にそのまま適用できる統一モデルではない。


(8)国土交通省「技術調査‥各種スライド条項(全体スライド、単品スライド、インフレスライド)について」
https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000101.html

 このため、各自治体は、対象施設をどう絞るか、対象経費は人件費に限るか水道光熱費等も含めるか、どの統計指標を用いるか、算定結果を翌年度予算・補正予算・年度協定変更にどう接続するか、実績確認をどう行うか等の具体的な運用方法は自前で設計する必要がある。つまり、人件費・物価スライドの必要性は共有されつつある一方、具体的な運用はこれから詰めるべき段階にある。

図表 人件費・物価スライドの制度設計パターン
制度設計パターン
出典:筆者作成

4 先行自治体の制度設計の類型

 指定管理における物価・人件費変動への対応は価格調整方法の切り口から、「(1)協議・見直し条項型」「(2)スライド型」に大別できる。さらに「(2)スライド型」は、一定以上の変動があった場合に算定式を適用する「① 発動条件付き算定・スライド型」、一定以上の変動という発動条件を置かず毎年度算定する「② 毎年度算定・スライド型」、毎年度算定しつつ一定のリスク控除を置く「③ 毎年度算定・リスク控除付きスライド型」に分類できる。

(1)協議・見直し条項型

 協議・見直し条項型は、物価・人件費の著しい変動、不可抗力、特別の事情等が生じた場合に、指定管理料の見直しについて協議できることを定める制度である。この型には、単に「必要がある場合は協議する」と定めるものだけでなく、「大幅な物価変動」「災害その他指定管理者の責めに帰すことができない外的要因」「協定時に見込まれていない特段の事情」など、協議に入る契機を一定程度具体化しているものも含まれる。

 協議・見直し条項型は対象経費、参照指標、算定式、控除率、反映年度等をあらかじめ定め、見直し額を機械的に算定する仕組みではないため、厳密な意味でのスライド制度ではない。この型の代表例として、島根県の取扱いが挙げられる。同県は、総務省の具体的対応事例において、物価上昇等に伴う指定管理料の見直しを基本協定上の不可抗力条項との関係で整理した事例として紹介されており、指定管理者との覚書、事業報告書における人件費・施設維持管理費の決算額比較、翌年度補正予算による過不足調整を組み合わせて対応している。これは、単なる白紙協議ではなく、協議・見直し型の中では制度化が進んだ事例である(9)


(9)島根県の取扱いについては、総務省「具体的な対応事例(指定管理者制度)」中の島根県事例を参照。
https://www.soumu.go.jp/main_content/001017510.pdf

(2)スライド型

 スライド型は、対象経費、参照指標、発動条件、算定方法、反映方法をあらかじめ定め、指標変動に基づいて指定管理料の見直し額を算出する制度である。協議、予算措置、年度協定変更等の手続を経る場合であっても、協議の前提となる客観的な算定ルールが存在する点に特徴がある。

 スライド型の内部にも設計差がある。特に重要なのは、価格変動リスクを指定管理者と自治体の間でどのように分担するかである。一定範囲の価格変動を指定管理者の通常リスクとして残すのか、指標変動を毎年度指定管理料に反映するのか、あるいは毎年度算定しつつ一定額を控除するのかによって、制度の性格は異なる。

① 発動条件付き算定・スライド型
 発動条件付き算定・スライド型は、賃金・物価水準を示す指標に一定以上の変動があった場合に限り、あらかじめ定めた算定式に基づいて指定管理料を増減する型である。一定水準に達しない変動については制度を発動せず、指定管理者の通常リスクとして残すため、事業者負担は相対的に大きい。一方で、自治体側から見ると、小幅な変動を毎年度反映しないため、財政負担を制御しやすい。代表例としては、令和9年度以降に指定期間が開始する施設への適用を予定している埼玉県のスライド制度が挙げられる(10)


(10)埼玉県「指定管理者制度におけるスライド制度」、同「指定管理者制度におけるスライド制度運用の手引き」。同手引きでは、適用開始時期は令和9年度以降に指定管理期間が開始する指定管理者とされている。
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0104/kaikaku-shitei/shiteikanrislide.html
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/281036/slideseidounyoutebiki080428.pdf

② 毎年度算定・スライド型
 「毎年度算定・スライド型」は、一定以上の変動という発動条件を置かず、毎年度、参照指標の変動率に基づいて見直し額を算定し、翌年度以降の指定管理料に反映する型である。発動条件付き算定・スライド型が一定範囲の価格変動を指定管理者のリスクとして残すのに対し、毎年度算定・スライド型は指標変動をより直接的に指定管理料へ反映する。したがって、指定管理者側に残る価格変動リスクは相対的に小さい。代表例としては、指定期間2年目以降、毎年度、雇用形態別の賃金水準指標に基づいて見直し額を算定し、翌年度の指定管理料に反映する横浜市の賃金水準スライド制度が挙げられる(11)


(11)横浜市「指定管理者制度における賃金水準スライドの手引き」
https://www.city.yokohama.lg.jp/tsuzuki/kusei/shiteikanrisha/20230621204951667.files/0006_20230726.pdf

③ 毎年度算定・リスク控除付きスライド型
 毎年度算定・リスク控除付きスライド型は、毎年度算定を行いつつ、一定率または一定額を指定管理者の負担分として控除し、その残額をスライド額として扱う型である。毎年度、指標変動を把握する点では毎年度算定・スライド型に近いが、算定額の全てを指定管理料に反映するのではなく、一定範囲を指定管理者の通常リスクとして残す点では発動条件付き算定・スライド型に近い。したがって、指定管理者のリスク負担は、発動条件付き算定・スライド型より小さく、毎年度算定・スライド型より大きい中間的な水準に位置づけられる。

 代表例として、札幌市の賃金スライド制度が挙げられる。同市は、選定時に計画した人件費に賃金水準の変動率を乗じて算出した金額から、1年目の人件費計画額の1%に相当する控除額を差し引いてスライド基準額を算出する(12)。これは、通常想定される賃金変動を指定管理者のリスクとして残しつつ、それを超える変動を制度上調整する考え方に基づくものである。


(12)札幌市「賃金スライド制度」「札幌市指定管理者制度における賃金スライドの手引き(令和7年4月版)」
https://www.city.sapporo.jp/somu/shiteikanrisha/contens/chingin.html

 以上の類型整理は、優劣を決めるものではなく、価格変動リスクをどの程度まで指定管理者に残し、どの程度から自治体が調整するのかを明確にするものである。協議・見直し条項型は柔軟性が高い一方、算定ルールが明確でなければ、協議の都度、判断が属人的になりやすい。スライド型は客観的な算定ルールを置くため予見可能性を高めやすいが、対象経費や参照指標をどう設計するかによって、制度の実効性と事務負担が大きく変わる。

 また、スライド型における各類型の違いは、単なる手続の違いではない。小幅な変動を指定管理者の通常リスクとして残すのか、毎年度の指標変動を原則として指定管理料に反映するのか、あるいはその中間として一定の控除分を見るのかという、リスク分担の考え方の違いである。したがって、制度選択に当たっては、財政への影響、指定管理者の履行継続可能性、施設の労務費比率・水道光熱費比率・再委託比率等を踏まえ、総合的に判断する必要がある。

 この整理を踏まえると、最初に確認すべきことは、現在の協定書や運用ルールがどの型に近いかである。既に協議条項はあるものの、協議の契機や算定方法が明確でない場合は、まず協議・見直し条項型として入口を整えることが現実的である。一方、応募者数の減少や人材確保上の課題が顕在化している施設では、客観的な算定ルールを伴うスライド型の導入を検討する必要がある。

5 おわりに

 本稿(上)では、指定管理における人件費・物価スライドが求められる背景、国の動向、先行自治体の制度設計の類型を整理した。

 「複数年の指定管理料はおおむね据置き」という運用前提が、現在の物価・賃金環境のもとでは維持しにくくなっている以上、価格変動への対応を契約・財政制度の中に位置づけることは避けて通れない。指定管理者制度には全国共通の標準手法は存在しないため、協議・見直し条項型からスライド型まで、各自治体が自らの施設特性や財政運営に応じて制度を設計する必要がある。

 続く次稿(下)では、対象経費の範囲、参照指標、財政措置・協定変更との接続、望ましい導入ステップを整理し、制度を実務上運用可能な形に落とし込むための論点を検討する。

*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

本記事に関するお問い合わせ・ご相談は以下よりお願いいたします。
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https://www.j-pri.co.jp/about.html

 

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