議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第12回 議会は「歌を忘れたカナリア」なのか?
地方自治
2020.06.18
議会局「軍師」論のススメ
第12回 議会は「歌を忘れたカナリア」なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2017年3月号)
刀剣と鉄砲
ある研修会に参加したときのことである。詳細な調査に基づく優れた政策提案を、議会の会派から首長に提言書として提出し、前向きに検討されそうだとの発表があった。しかし、内容が良かっただけに、せっかくの研究成果の実現を首長任せにするのではなく、議会提案で条例改正して実現させないのはもったいないと感じていた。そう思ったのは私だけではなかったようで、会場からも同様の質問があった。それに対して発表者からは、「会派からの政策提案であるため会派間調整が困難なことや、条例化する法務能力や執行部との調整能力が議会にないので、首長に委ねることにした」との回答がされた。
だが、そこで諦めていいのだろうか。新たな政策をやらない理由は、いくらでも後付けできる。提言するだけでは、首長に黙殺されれば執行権がない議会は無力である。国において政策を創ることは法律を作ることとほぼ同義であり、広範な条例制定権を持つ立法機関である地方議会でも、そうあるべきだろう。
たとえ話で恐縮だが、議会からの政策提案に関する手法を戦国時代における武器に例えれば、首長に対する提言や決議は旧来からある刀剣、議会による条例制定は新兵器である鉄砲のような関係性にあると思う(条例制定権は元来議会にあり新しくはないが、活用されてこなかったという意味で新兵器に例えている)。刀剣の扱いはノウハウが蓄積されており容易だが、その威力は鉄砲と比べると見劣りする。反面、当時の鉄砲には、弾丸装填に時間がかかることや、火縄を使うため全天候性に欠けるなどの難点もあり、運用方法も確立されていなかった。そのため、当時の武将たちの多くは、鉄砲を主力兵器とはみなしていなかった。
だが、俗説であるようだが、織田信長は有名な鉄砲三段撃ちなどによる、欠点を補う組織的運用によって主力兵器とし、以降、戦術は大きく変貌した。そして、近代における組織戦では、もはや刀剣の出番などはない。
立法機関の本質とは
同様に議会からの政策提案においても、使いこなすのが難しいからといって、立法機関である議会が条例制定権を行使しようとしないのは、「歌を忘れたカナリア」のようにも思える。課題解決にあたっては、より本質に近く、より強みを活かせる順に採り得る解決手法を検討することが、本筋ではなかろうか。
そして、今は少数意見であろうとも、議会が市民福祉向上を実現するには、条例制定によることが常識と言われる時代が必ずくると、私は信じている。それは、直面する行政課題に対して、将来を見据えた政策を実現するためには、事後の個別対応ではなく、実効性ある普遍的ルールを作ることこそが、立法機関たる議会のとるべき王道と考えるからだ。
そして、地方議会は規模の大小によって、法的権能が区別されているわけではなく、小規模議会であっても政策条例の立案ができるよう努力することが必要であろう。なぜなら、執行機関は自治体行政の現在に責任を持たなければならない立場にあり、二元代表制の一翼を担う議事機関こそが、市民とともに自治体の未来についてともに考え議論する「未来を語る議会」であるべきだと思うからである。
そして、未来を語る議会を補佐していくことこそが、これからの議会事務局の主要なミッションではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。