政策課題への一考察

月刊「地方財務」

“Well-Being” Based Policy Makingは今後の総合計画の標準形となり得るか?|政策課題への一考察 第122回

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2026.07.09

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月刊地方財務 2026年6月号

月刊 地方財務 2026年6月号
特集:令和8年度地域力創造施策と地方財政措置
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,870 円(税込み)
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【政策課題への一考察 第122回】
“Well-Being” Based Policy Makingは今後の総合計画の標準形となり得るか?
―指標化に伴う問題点に着目して

株式会社日本政策総研研究員
平林 慶之

※2026年5月時点の内容です。

1 はじめに

 人口減少や高齢化の進展に伴い、財政的・人的資源の制約が強まる中で、政策の優先順位づけの必要性は一層高まっている。こうした状況を背景に、根拠に基づく政策立案(EBPM)の考え方が浸透しつつあり、その文脈で近年注目を集めているのがWell-Being指標である。国の「地域幸福度(Well-Being)指標の活用促進に関する検討会」は、従来の総合計画を、既存の政策体系という「枠」の中に施策を整然と配置する「分類学」的な営みとして捉えるとともに、これまでの標準的な政策企画を、組織の所管ごとに施策が形成され、それを財政課が予算上の「枠」にはめ込む構造として整理し、その上で、地域幸福度(Well-Being)指標に基づくリファレンス型ロジックツリーを活用した「選択と集中」による政策体系の刷新を図る必要性を提唱している(1)、そのような背景の中、静岡県、前橋市、三郷町、松川町などでは総合計画や各種戦略にWell-Being指標を取り入れる動きが見られ、静岡県では本国の自治体として初めてチーフ・ウェルビーイング・オフィサーが設置されている(2)

〔注〕
(1)デジタル庁「第6回デジタル田園都市国家構想実現に向けた地域幸福度(Well-Being)指標の活用促進に関する検討会資料3」(2026年4月22日閲覧)

(2)一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「地域幸福度(Well-Being)指標OASIS等研修実施状況/指標活用促進・情宣」(2026年4月22日閲覧)

 他方、Well-Being指標は、市民の主観的な幸福感や生活実感を政策形成に取り込むための指標として重要な意義を有するものの、その活用に当たってはいくつかの課題が残る。

 第一に、主観指標と客観指標の関係が必ずしも明確ではなく、指標上の差異を具体的な政策分析に結びつけにくい点である。Well-Being指標では、例えば「移動・交通」「医療・福祉」「子育て」「地域とのつながり」などの分野ごとに、市民の実感を把握する主観指標と、統計データ等に基づく客観指標を組み合わせて分析することが想定されている。しかし、ある分野において主観指標が低い場合でも、それが客観的なサービス水準の不足によるものなのか、市民への情報提供や認知度の不足によるものなのか、あるいは地域特性や個人属性による感じ方の差によるものなのかを、指標だけから判別することは難しい。

 第二に、客観指標の中には、施策の成果や地域の状態そのものではなく、施策・制度の有無を中心に構成されているものが含まれている点である。例えば、自治体DXに関する指標では、CIOの任命や各種手続のオンライン化の有無などが評価対象となっている。しかし、CIOを任命していることや、オンライン手続を導入していることは、自治体がDXに関する体制整備や取組を進めていることを示すにとどまり、行政手続に要する住民の負担軽減などの成果・影響までは把握できない。

 自治体の総合計画は、SDGsをはじめとする政策トレンドの影響を受けてきたが、その理念的意義は認められる一方、政策管理の実務に十分に組み込まれているとは言い難い。本稿では、現在デジタル庁等が中心となって推進し、自治体において活用が検討されているWell-Being指標に基づく政策立案について、その実現可能性及びあるべき活用方法を考察する。

2 Well-Beingへの注目と本国の行政機関による実践

 WHOによると、Well-Beingとは「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にある」ことを指す概念である。その政策的源流はブータン王国の開発方針・国是に起因し、GNPに代表される経済的な豊かさのみならず、精神的な豊かさや健康までを含めて幸福や生きがいを捉える考え方である。

 本国の先進事例として、荒川区が2005年に「GAH(荒川区民総幸福度)」を提唱し独自指標を策定するなど先駆的取組を進め、2013年にはその取組に共鳴した全国各地の市町村による自治体連携組織「幸せリーグ」が発足したとともに(平井:2024(3))、国においても2010年の新成長戦略でWell-Being指標の作成が位置づけられ、その後2021年に公表された政府の骨太の方針にて、各種の基本計画等についてウェルビーイングに関するKPIを設定することが明記されている。そして、2023年の骨太の方針では、政府の各種の基本計画等におけるKPIへのWell-Being指標の導入を進めることが明記され、全省庁的な動向となっている。こうした背景の中で、前述のとおり、現在デジタル庁等が中心に進める地域幸福度指標の取組では、指標活用団体に該当する自治体件数が2022年度の24団体から、2025年6月には183団体まで右肩上がりで増加している(4)

〔注〕
(3)広井良典『ウェルビーイングと公共政策』、全国市町村国際文化研修所「国際文化研修2024年秋第125号」

(4)デジタル庁「第8回地域幸福度(Well-Being)指標の活用促進に関する検討会資料2」より(2026年4月22日閲覧)

3 地域幸福度(Well-Being)指標の活用方法とその問題点

(1)デジタル庁らのガイドブックによる本指標の活用方法

 ここからは、前述のWell-Being指標について、その効果と課題を検討する。デジタル庁及び一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが示す「地域幸福度(Well-Being)指標利活用ガイドブック」によれば、同指標は主観指標と客観指標を組み合わせることで、各地域の政策と、その成果としての市民の幸福感との関係を把握する枠組みとして位置づけられている。主観指標は全国アンケート及び自治体ごとの任意調査により収集され、これに客観指標を重ねて分析が行われる。両者は共通の因子構成を採用しており、幸福度・生活満足度に関する4つの設問と、「生活環境」「地域の人間関係」「自分らしい生き方」の3因子群、計24カテゴリーから構成される。

 主な活用手順は図1のとおりである。具体的には、デジタル庁のダッシュボード上でレーダーチャート化された主観・客観データを用い、因子別スコアに基づき市民の幸福度を俯瞰し、関連因子を把握する。この際、レーダーチャートの凹凸や主観指標と客観指標の乖離、他自治体との比較や経年変化に着目する。次に、これらの分析結果を踏まえ、データの背後にある市民の課題やニーズを掘り下げ、改善の方向性をシナリオとして整理する。この過程では、データ分析のみに依拠するのではなく、地域固有の情報や文化も踏まえつつ、幸福度向上に関する仮説を構築することが求められる。こうして整理された仮説に基づき、庁内検討、民間委託、官民共創、市民との対話などを通じて具体的な施策を検討し、目標設定後はその達成状況をモニタリングする。以上が一連の地域幸福度の活用フローである。なお、デジタル庁は本指標の活用支援として、ワークショップのファシリテーターの紹介・派遣も行っている。

図1 一連の分析プロセス(5)
一連の分析プロセス

図2 (参考)市民の幸福感を高める因子の特定に当たっての考え方(6)
考え方

〔注〕
(5)デジタル庁・一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「地域幸福度(Well-Being)指標利活用ガイドブック」より

(6)同上

(2)地域幸福度の意義とその問題点

 本指標を採用する主なメリットとして、市民意識調査や市民ワークショップを政策立案過程と関連づけて活用できる点が挙げられる。従来の総合計画策定においても、これらの取組は広く実施されてきたが、その結果の活用方法が明確でない場合も多く、形式的な実施にとどまることも少なくなかった。また、市民ワークショップは議題が抽象的になるほど具体的な示唆を得にくいという課題があったのに対し、本指標の活用方法では、幸福度や各種指標のレーダーチャートを前提としたワークショップの進め方や分析様式が整理されており、政策の方向性の具体的な検討につながる議論が可能となる。

 他方で、いくつかの課題が残る。第一に、指標の政策分野が概括的であるとともに、主観指標と客観指標の関係が明確でなく、どのような政策が不足しているかの特定につなげにくい点である。曽我謙悟は、Well-Being指標が人々や社会の状態と主観的な幸福度の双方を測定している一方で、その関係が示されておらず、主観的評価が客観指標よりも低いことを踏まえて何らかの取組を実施したとしても、必ずしも全体的な幸福度の向上につながらない可能性を指摘する(宇佐美:2025:曽我2024:18~19頁(7))。この指摘のとおり、政策分野ごとの概括的な指標のみでは、どの取組をどのように改善すべきかを具体的に特定することは困難であり、結果として、課題の把握や施策の立案は、データの背後にある市民の状況を想定した定性的な解釈に依拠せざるを得ない。なお、この点は、早期からWell-Being指標の活用に取り組んだ荒川区の事例研究でも指摘されており、Well-Being指標で重視される傾向のある主観指標で把握できることは漠然としたものとなる傾向があることや、Well-Being指標を設定・調査したからこそ発見できたといったような真新しい政策が導き出されているとは言い難い側面があることが指摘されている(森田:2024(8))。

〔注〕
(7)公益財団法人山梨総合研究所 宇佐美淳「Vol.324-2総合計画とWell-Being(ウェルビーイング)―山梨総研流の活用術―」より

(8)森田修康『第2章自治体のWell-Being指標の政策の改善・立案への活用に関する課題と展望』、一般財団法人地方自治研究機構「ウェルビーイング指標に基づく自治体政策に関する調査研究令和6年3月」より

 その他、主観的評価の限界として、注目度の高い報道などによりその評価が上下する可能性が否定できず、この点からも政策の効果が検証しがたいと言える。

 第二に、特に客観指標に関しては、指標化の過程における過度な単純化という問題がある。本取組では、都道府県版及び市区町村版の客観指標を定義し、「暮らしやすさ客観指標のカタログ」として整理しているが、本ガイドラインにおいては、その一部について施策や制度の有無を0・1で評価し、合計値によって指数化する手法が採用されている。例えば、自治体DX指数は、CIOの任命や各種手続のオンライン化の有無などを基準として算出される。しかし、このような手法では、施策の実施有無自体は把握可能である一方で、その結果としてどの程度課題が解消されたのか、あるいは政策の実施水準や質がどの程度であるのかといった点までは十分に捉えることができない。さらに、客観指標を構成する各指数の内容に着目すると、その妥当性にも検討の余地がある。図3に示されているとおり、デジタル生活指数における「Code forの団体の有無」や「ファブラボの有無」、さらにはウォーカブル指数などが指標として用いられているが、これらは当該分野の政策を積極的に推進する自治体にとっては一定の指標性を有するものの、すべての地域において共通して志向されるべき政策目標とは言えない。

図3 暮らしやすさの客観指標の例(10)
客観指標の例

 第三に、統計調査の観点での課題も存在する。全国調査のサンプル数は2022年度の3万3610件から2024年度には10万1498件まで拡大しているものの、2024年度時点でもサンプルサイズが100を超える自治体は668団体にとどまり(9)、年代別などの集計ではサンプル数が1桁となる場合もある。この取組は2022年度に開始され、現時点でも試行段階にあり、中長期的には改善に向かうと想定されるものの、少なくとも現状の精度で地域の幸福感を定義することには疑問が残る。

〔注〕
(9)デジタル庁「第6回デジタル田園都市国家構想実現に向けた地域幸福度(Well-Being)指標の活用促進に関する検討会資料3」4頁

(10)同上

(3)Well-Being指標の限界と総合計画への位置づけの再検討

 以上のとおり、主観指標及び客観指標の双方に構造的な課題が存在することを踏まえると、これらの指標から直接的に政策課題を導出し、それを起点としてロジックツリーにより政策体系を構築することは妥当とは言い難い。特に、主観指標と客観指標の対応関係が明確でない中では、指標上の差異がどの政策要因に起因するのかを特定することが困難であり、この段階で政策の優先順位や因果関係を整理すべきではない。したがって、本稿の問いである「“Well-Being” Based Policy Makingが総合計画の標準形となり得るか」という観点においては、現時点では慎重に評価せざるを得ない。

 そのため、本指標の意義は、政策体系や評価指標の中核を担うことにあるのではなく、各政策に対する市民の受け止めや課題認識を補足的に把握する点にあると整理すべきである。例えば、前述のとおり、市民ワークショップの議題として活用し、特定の政策分野ごとのより詳細な意見を得ることや、客観指標と主観指標の乖離に着目し、政策に対する市民の認知度や実感としての受け止めを把握する手段として活用することが考えられる。後者については、特に事業廃止の検討や市民協働事業の推進、あるいは市民の意識変容を目的とした取組などにおいては、政策自体の合理性だけでなく、ステークホルダーである市民の受け止めも重要であり、取組とその受け止めの乖離の分析が一定の示唆を与える可能性がある。

 また、客観指標については、政策改善に向けた指標とするために、改めて行政評価の基本的な枠組みに立ち返る必要がある。すなわち、政策・施策の実施量を把握するだけでなく、どの属性で課題が生じているのか、政策実施前にどのような課題状態が存在するのかを明確にした上で、その状態が施策によってどの程度改善されたのかを検証できる構成とすることが重要である。例えば、公共交通政策を例にとれば、バスの運行本数や利用促進事業の実施回数といったアウトプットだけでなく、政策実施の前提として、移動手段の不足により通院や買い物等の日常生活に支障が生じている住民がどの程度存在するのかを、状態指標として把握する必要がある。その上で、移動支援策の実施が、こうした移動困難の改善にどの程度寄与したのかを測定・分析することで、施策の有効性や優先順位を検討することが可能となる。もっとも、すべての分野でこのような指標設定が適しているわけではない。法定受託事務や内部管理業務等のように、一定の基準に沿って着実に実施すること自体が重視される分野では、アウトカム指標よりも、進捗状況や処理件数、処理期間等を把握するアウトプット中心の管理が有効な分野もある。

 重要なことは、指標を形式的に整備すること自体に意味があるのではなく、当該自治体が何を政策課題として捉え、どのような変化を目指すのかに応じて、指標を選択することである。例えば、ウォーカブルなまちづくりを政策目標として掲げる自治体にとっては、ウォーカブル指数は有意味な指標となり得る一方で、同様の政策志向を持たない自治体にとっては必ずしも有効な指標とはならないように、指標を形式的に整備すること自体に意味があるのではない。前述のとおり、当該自治体における課題を具体的に定義し、その変化を通じて政策の妥当性や有効性を検証し、取組内容の見直しに活用することが重要である。

4 おわりに

 本稿では、デジタル庁等を中心に推進されるWell-Being指標について、その指標化に伴う問題点に着目して論じた。地域幸福度指標による政策立案は、従来のスマートシティの取組で見られたICTツール中心の側面を見直し、人間中心の設計を起点としている点に特徴があり、この政策思想自体は重要である。特に、行政内部の論理や供給側の発想だけではなく、住民が地域での暮らしをどのように受け止めているのかを政策形成に反映しようとする点には、一定の意義が認められる。

 他方で、住民の幸福や実感を政策に反映することと、それを政策体系の中心に据えることは、分けて考える必要がある。そもそも総合計画には、「選択と集中」の観点が求められる一方で、長期的な視点から各分野の政策・施策を体系的・計画的に進めるための指針としての性格もある。そのため、「今解決すべき課題」と関係の深い施策から鍵となる取組を抽出し、それに関連する施策を選び抜くという本取組の方法では、総合計画が本来有すべき「総合性」を十分に担保できない可能性がある。

 以上より、地域幸福度指標は、総合計画の体系の代替的枠組みではなく、住民の実感を把握し、個別施策の改善に示唆を与える補助的指標として活用することが望ましい。

 

〔参考文献〕
・デジタル庁「地域幸福度(Well-Being)指標の活用促進に関する検討会」第1回~第10回配布資料
・宇佐美淳(2025)「Vol.324-2総合計画とWell-Being(ウェルビーイング)―山梨総研流の活用術―」公益財団法人山梨総合研究所
・森田修康(2024)「第2章自治体のWell-Being指標の政策の改善・立案への活用に関する課題と展望」一般財団法人地方自治研究機構『ウェルビーイング指標に基づく自治体政策に関する調査研究』

*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

本記事に関するお問い合わせ・ご相談は以下よりお願いいたします。
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https://www.j-pri.co.jp/about.html

 

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