新・地方自治のミライ

ガバナンス編集部

危ない土地のミライ|新・地方自治のミライ 第116回

NEW地方自治

2026.09.14

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出典書籍:『月刊ガバナンス』2022年11月号

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本記事は、月刊『ガバナンス』2022年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 国の安全保障上重要な土地の利用を規制するため、対象地域の選定が始まっている。まず第1弾の候補地として、国は5都道県の58か所を2022年10月11日に提示した。地元自治体の意見聴取を経て、年内に指定を行う方針という(注1)

(注1) 時事ドットコムニュース。2022年10月11日19時13分配信。

 全域が区域指定される無人の国境離島を優先的に選んだという。国境としての重要性が高いことに加え、現地状況の把握が困難であることが理由としている。今回はこの問題を自治の観点から検討してみよう。

安保重要土地規制の経緯

 国境離島や防衛関係施設周辺などの土地の所有・利用をめぐっては、安全保障上の懸念が示されてきた。「経済財政運営と改革の基本方針2020」(7月17日閣議決定)を受けて、内閣官房に「国土利用の実態把握等に関する有識者会議」が設置された。同会議の提言を踏まえて、「安保重要土地規制法」(「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」、以下「法」)(注2)が2021年6月に制定・公布された(注3)。目的は、防衛等重要施設および国境離島等の機能を阻害する土地等の利用の防止である。

(注2) 政府による略称は「重要土地等調査法」であって、「規制」は明示されない。また、正式名称・略称ともに「安全保障」などの理由は法律名称には明示されない。
(注3) 内閣府ウェッブサイト。ホーム>内閣府の政策>重要土地等調査法。
https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/index.html

基本方針

 2022年9月16日に閣議決定された基本方針には、①重要施設および国境離島等の機能を阻害する土地等の利用の防止に関する基本的方向、②注視区域および特別注視区域の指定に関する基本的な事項(経済的社会的観点から留意すべき事項を含む)、③土地利用状況等の調査に関する基本的事項、④利用者に対する勧告・命令に関する基本的事項(勧告・命令に係る行為の具体的内容に関する事項を含む)、⑤その他重要施設機能・離島機能を阻害する土地利用防止等に関して必要な事項、が盛り込まれた。留意事項は、個人情報保護への充分な配慮と、必要最小限度とすることである。

区域指定と規制措置

 ①注視区域は、❶重要施設の周辺と❷国境離島等である。重要施設とは、防衛関係施設、海上保安庁施設、生活関連施設(政令指定重要インフラ:原子力施設・空港)であり、周辺とは当該施設敷地の周囲概ね1㎞の区域である。国境離島等は、国境離島と有人国境離島地域を構成する離島の区域である。❶❷いずれも告示で個別指定する。②特定注視区域とは、注視区域のなかでも、機能が特に重要なものまたは阻害することが容易であるものであって、 他の重要施設による機能の代替が困難であるものを、告示で個別指定する。

 規制などの措置は、以下の通りである。①事前届出:特別注視区域には、一定面積以上の土地取引について、売主・買主ともに、氏名・住所・国籍・利用目的・所在・面積などを事前届出義務が課される(刑事罰あり)。②調査:注視区域・特別注視区域ともに、土地・建物の所有者・賃借人などの氏名・住所・国籍や、利用状況を調査する。そのために、 現地・現況調査、不動産登記簿・住民基本台帳等の公簿収集、所有者等からの報告徴収(注4)(刑事罰あり)する。③利用規制:他法令に基づく措置、機能を阻害する利用の中止の勧告・命令(刑事罰あり)、国による損失の補償、国への買入れの申出である。国は買取の努力義務がある。

(注4) 上記の公簿収集を行った結果、なお必要があると認めるとき。

現代日本の土地の宿痾

 現代日本は人口減少・経済停滞という縮減社会となり(注5)、土地への需要は低下し、土地は「負動産」化しつつある。このため、所有者自身が土地に費用を掛ける合利的理由がなく、土地の利用・管理は放棄される。さらに、相続などが発生しても、分割協議や所有権移転登記も進まない。従って、土地所有者が土地を利用・管理するはず、という前提が成り立たなくなっている。しかも、財産権は、国政権力が強力に保障してきたため、自治体は管理できない。こうした状態が、辺境・過疎部を中心に生じる。

(注5) 拙編著『縮減社会の合意形成』第一法規、2018年。

 土地所有者にとっては、利用目的・価値を問わず、土地購入・借入をしてくれる主体は好都合である。地域に役立たない迷惑施設のための用地であっても、買主さえ来れば売却する。こうして、大都市圏や国政や経済権力にとって必要な迷惑施設を、辺境に立地させてきた。例えば、基地、発電施設、廃棄物処分場である。辺境に「負動産」が発生することは、政治経済権力にとって非常に好都合な構造であり、自治体や地域社会がどんなに困ろうと、放置されてきた。同様に、カルト集団(注6)、国内外資本、「怪しい」移住者など、自治体や地域社会に迷惑であろうと、地権者にとっては大歓迎である。

(注6) 例えば、オウム真理教は山梨県上九一色村に施設を立地した。また、熊本県波野村では、土地購入から施設建設が始まったため、村当局・村民が阻止しようとして尽力した。

国のご都合主義と迷惑加重

 この構造にもとづき、基地・発電所など迷惑施設を周辺に押しつけてきた国政為政者であるが、いざ、その辺境区域に国政為政者にとって都合の悪い勢力が土地利用を始めると、急に懸念を抱く。これが安保重要土地規制である。

 地域社会・周辺住民にとって迷惑で国政にとって有用な迷惑施設は、社会経済的に弱い辺境に立地する傾向がある。しかし、辺境であるがゆえに、容易に第三者も取得できる。その第三者が国政にとって〈迷惑〉であるとして、国は迷惑施設などの周辺土地所有者に「後出しじゃんけん」の規制を加えた。こうして、迷惑施設は、さらに地域社会にとっての迷惑度を増す。

 迷惑施設などは周辺土地の権益を侵害するから、補償や買取が筋である。辺境の土地なので、「負動産」所有者は喜んで売る構造にある。しかし、国の買取価格は、第三者の提示する買取価格に比べれば安価であろう。国は買取らなくても規制できるから、買取の理由もない。また、利用してきた所有者からすれば、迷惑の加重である。

自治体と地域社会の軽視

 ある土地がどのように所有・利用されるかは、地域社会や自治体にとっても、重要な関心事項である。所有者が管理を放棄し、または、所有者が迷惑な人物に譲渡することで、地域社会に迷惑が及ぶ。そもそも、上記のような迷惑施設が立地してきたこと自体が、あるいは、特定の国境線や国際情勢の悪化事態が、地域社会や自治体にとっての迷惑である。しかし、自治体はこうした迷惑への対抗手段を持たない。国政為政者は、地域社会や自治体への迷惑は顧みず、あるいは、迷惑を推進しやすい構造を放置してきたが、自身にとっての迷惑には敏感で、対処措置を作った。本来は、自治体もこうした迷惑への対抗措置が必要である。

 しかし、安保重要土地規制の仕組は、自治体の出番はほとんどない。地区指定に関して自治体には、事実上の陳情・要望や意見照会の機会はあるとしても、自治体には権限がない。区域指定が告示されたら通知があるだけである(法第5条③・第12条⑤)。自治体は国から情報提供を強制される(法第7条)。国が必要と認めるときには、国は自治体に対して、資料提供、意見開陳その他の協力を求めることができる(法22条)。自治体の意見開陳は、国から求められた協力の範疇に過ぎないし、権限として保障されてもいない。

おわりに

 自治体や地域社会としても、迷惑な土地所有者が現れることを懸念しており、国に対応を求めても来た。しかし、国は一般的に地域社会に配慮することなく、安全保障という国政の狭い関心にのみ対処した。

 自治体も、国境最前線の圧力を感じている場合には、国政と利害が一致することもある。とはいえ、そうではないときには、国の安全保障・外交の利害に翻弄されて、地域振興や国際交流などが阻害される。自治体にとっての迷惑は、安全保障の他にも多々ある。迷惑を掛けてくる主体には国政も含まれうる。本来は、自治体が地域社会・住民の利害に沿って土地利用・管理に対して措置を執れなければならないが、そのようにはなっていない。この点でも自治体はミイラ化しつつある。

 

著者プロフィール

東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき


1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。

主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。

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