新・地方自治のミライ

ガバナンス編集部

首長不信任のミライ|新・地方自治のミライ 第117回

NEW地方自治

2026.09.16

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出典書籍:『月刊ガバナンス』2022年12月号

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本記事は、月刊『ガバナンス』2022年12月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 戦後日本の自治体は、いわゆる首長制=「大統領制的」と考えられている。首長が住民から直接公選されるからである。しかしながら、「議院内閣制的要素」として、議会が3/4の特別多数決によって、首長を不信任することができる。このときに、首長は辞職するか、議会を解散するかが可能である。解散後の選挙の結果、再度不信任が可決されれば、首長は失職に追い込まれる。

 首長不信任議決は、頻発する現象ではないが、全く稀有な事態というほどでもない。近年では、(東京都)あきる野市長の不信任議決があった。今回は、この問題を実例に採り上げて、首長不信任問題を検討してみたい。

あきる野市の経緯(注1)

(注1) 東京新聞2022年10月31日付朝刊。

 2019年10月に市長選挙があり、新人市長候補が、旧秋川高校跡地への特別養護老人ホームの建設、現職が進める武蔵引田駅北口の区画整理の見直し、市長公用車や退職金の廃止などを訴え、現職市長を破り、初当選を果たした。しかし、20年には、市審議会が「(特養の)整備は必要ない」と判断した(注2)

(注2) あきる野市介護保険事業計画策定委員会第4回(2020年12月10日) 議事要旨。同『中間報告 計画(素案)』2020年12月22日。あきる野市役所ウェッブサイト。

 にもかかわらず、12月に市長は、審議会の意向に反して、特別養護老人ホームの誘致推進を表明した。21年3月には、市議会は「介護老人福祉施設の創設に関する調査特別委員会」を設置して、この問題について議論した。6月の市議選を挟み、7月に市議会は、市長が特養の建設場所に想定する市有地の貸与や売却に議会の議決が必要とする議決事件追加条例を制定した。

 22年4月に、市広報紙に、特養の事業者募集の記事が掲載された。市長は条例の手続を経ないことを公言したとされる。そこで、6月16日に、市議会が「条例を無視して、議会に諮らずに特養の誘致を進めようとした」として市長の不信任決議案を賛成多数で可決した(議長を含む21人のうち20人が賛成)(注3)。6月23日に市長は市議会を解散した。記者会見では、市長は市議会が市長の執行権を侵害する可能性が高いという趣旨の主張をした。

(注3) 朝日新聞デジタル版2022年5月21日10時30分配信、2022年6月17日9時56分配信。

 7月25日に市議選が行われ、市長不信任決議に賛成した前職18人、反対した前職1人、新人2人が当選した。28日には、市議会は、市長の2回目の不信任決議案を賛成多数で可決し、市長が失職した(議長を含む21人のうち19人が賛成、1人が反対、1人が退出棄権)。市長は記者会見で、福祉政策を進めようとしたが、理解を得られず残念、議会の行為は市長の執行権への侵害、地方自治法への抵触、議会の立法権の乱用に当たる、旨を主張した。

 8月18日には、失職市長として、決議取消を求める提訴を東京地裁に起こした。9月4日に出直し市長選挙が行われ、失職前市長と前市議会議長の争いとなったが、前市議会議長が当選した。新市長は、失職前市長の方針を撤回し、市長公用車や退職金も復活することを表明した。

市長暴走と不信任議決

 市長が、審議会の意向を無視し、議会の同意も得ずに、特別養護老人ホームの誘致に邁進した暴走を、議会が不信任議決によって阻止したという意味では、権力分立によるチェックアンドバランスが機能し、功を奏したようにも見える。しかし、話は単純ではない。

 そもそも、一般に審議会などの有識者委員会は「行政の隠れ蓑」であり、事務局を握る行政担当課による人選や振り付けがなされているのは、公知のことである。本件において市長の意に反する審議会の結論が出たということ自体、市長が行政担当課を掌握できていなかった、つまり、前市長や市議会多数派勢力の残像がある状態を解消し切れていなかったことを示す。普通は、説得・議論や指揮監督や人事権を使って、行政職員に対して、市長が政治指導を発揮して、行政担当課の政策を徐々に転換させ、それを受けて、事務局として行政担当課に審議会の運営を変えさせていく手練手管を使う。

 議会も同様である。行政担当課や議会事務局に対して、市長の方針を徐々に浸透させて、議会対策を進めていく。また、議員に対して、首長の予算編成権や口利きへの配慮、報道や冠婚葬祭での発信・露出、その他の権限・権力を行使することによって、手懐ける。

 新市長当選直後は、前市長または対立候補を応援した市議とはしこりが残るので、しばらくは対立状況が続く。とはいえ、現職有利な2期目に向けて再選が見込まれれば、市議は擦り寄ってくる。そもそも、再選見込みがなければ、大した施策・事業が進められるはずはない。また、無理に進めても、次期市長によって停止・転覆される。

 このように、市長暴走を市議会がチェックしたというよりは、単に市長の技量があまりに稚拙であった自損自爆に近い実態である(注4)

(注4) 第4回策定委員会議事要旨の事務局発言によれば、以下の経過である。「第2回(中略)委員会を7月 29日に開きました。……市長から、御堂中学校西側市有地に特別養護老人ホームを誘致したい旨の話がありました。……第2回及び第3回の策定委員会で……「施設整備をする以前に、市内の介護施設等に十分に介護人材が配置されて人材不足に問題がなくなった段階で、新たな施設の整備を検討すべき……新たな特別養護老人ホームの整備は必要ない……各施設、1年間の退所人数が 20~30人くらいあるので、単純計算で年間200床くらいの空床が出ている……広域型特別養護老人ホームは十分あるので、それよりも29床で地域住民のみが利用する地域密着型特別養護老人ホームを整備した方がいい……広域型特別養護老人ホームはどの施設も90~95%の稼働率であり、どの施設も5床程度の空きは常にある……」などの意見が出されました。そして11月4日に、市長・副市長に策定委員会の中間報告をさせていただきました。しかしながら、「この報告では受け取れない。介護人材の確保と並行して、特別養護老人ホーム誘致も進めてください。正・副委員長にお会いして、説明したい」という回答を市長からいただきました。……副市長から、正・副委員長に市長の意向を伝えると、「市長は、策定委員会の意見を尊重しないのか。時間を費やして検討していることが無駄になってしまう。策定委員会の存在理由についても考え直す必要があるのではないか」などのご意見をいただきました。……翌日、副市長から市長に、正・副委員長の意向を報告しましたが、特別養護老人ホーム誘致の意向は変わらないことを確認いたしました。同日……委員長より副市長に、臨時策定委員会を開催し、委員間の情報共有と意向の確認をしたい旨のご意見があり、本日に至りました。……」。

市政暴走と円満議会

 真に市政が暴走するのは、市長と市議会などとの対立が表面化しないときに起きる。市長の技量が一定水準以上であれば、徐々に行政職員、有識者、議員を手懐けていき、円滑に事業は進んでいく。さらには、関係利害団体や町内会・自治会などの了解も取り付けていく。

 気骨のある職員は、いつの間にか「定期人事異動」によってどこか視界の外に飛ばされ、飛ばされるのが怖い忖度能力の高い職員が担当課の施策を立案する。担当課は「わきまえ」ている審議会を「振り付け」して、市長方針に「お墨付き」を与える。こうなれば、すでにレールは敷かれる。議員は利権の「おこぼれ」に与ろうとするか、反対できずに唯々諾々と同意するしかない。反対する市民団体の声は届かない。こうして何事もないかのように事業は進み、市長は市民などに対して成果をアピールする。

 政治家の技芸としては、政策過程を「円満」に操縦し、自らの望む事業・施策を実現することは望ましいであろう。しかし、市民にとっては、必ずしもそうとはいえない。非常に問題のある事業・施策であるにもかかわらず、異論なく実現する。市長暴走ではなく、市政の多様な有力関係者「ぐるみ」の市政暴走が起きる。戦後日本の自治運営の多くは、このような市政暴走型である。

 不信任議決・解散・出直し選挙と、その結果による首長・議会の対立の解消という制度モデルも、市政暴走には無力である。市長が行政職員や議会多数派と対立がなければ、市政暴走は止められない。不信任議決の制度的可能性がある限り、首長は失職を招く論争を起こさず、多数派の掌握によって、論争を回避することが、通常の形態になる。

論争の継続と首長制

 不信任議決による対立の解消の方策がなければ、首長と議会の対立は、交渉・妥協がなされない限り続く。ときには、4年に一度の首長選挙・議会選挙が、対立解消の契機になることはあろう。ともあれ、首長制は、少なくとも4年間は現状の当事者によって、異なる政策方針が示され、政策論争が可能な仕組といえよう。

 首長制は、首長と議会の対立を制度的には決着させない。首長が求める施策・事業は、議会の条例・予算などの了解が得られなければ、実現しない。同時に、議会多数派が求める施策・事業も、首長が納得しなければ執行されない。

 多くの政治家は、自らの成し遂げたい施策・事業を心に持っているものであり、自らの公約実現のためには、政策論争を続けざるを得ない。政策的な相違を可視化させ、政策論争を活発化させることが、首長制の機能である。とするならば、首長と議会の対立を解消させる目的での不信任議決制度は、本来は必要ないものであろう。

 

著者プロフィール

東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき


1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。

主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。

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