
自治体債券運用のイマ
【自治体債券運用のイマ 第6回】全国に先駆けてサステナブルファイナンスを推進し日本再興へ向けた「ゲームチェンジ」を図る/東京都庁
NEW地方自治
2025.11.28
(『地方財務』2025年12月号)
【特別企画】自治体債券運用のイマ 第6回
全国に先駆けてサステナブルファイナンスを推進し
日本再興へ向けた「ゲームチェンジ」を図る/東京都庁
東京都は、2017年度(平成29年度)に環境施策の推進等を目的にした全国自治体初のグリーンボンドである「東京グリーンボンド」を発行し、その後、社会的な課題解決を目的にした「東京ソーシャルボンド」、外債によるサステナビリティボンドを発行。さらに今年度は、このサステナビリティボンドをバージョンアップして、資金の用途をTOKYO強靭化プロジェクトの対象事業に特化した「TOKYOレジリエンスボンド」を発行し、気候変動対策をはじめ、持続可能な社会や災害に強いまちづくりを進めている。このように、東京都は、持続可能で強靱な社会の実現を金融面から支えるため、「サステナブル・レジリエントファイナンス」のリーディングシティを目指している。
人口約1,426万3,000人(令和7年9月1日時点)。区部(特別区23区)、多摩地域(26市と西多摩郡3町1村)および島嶼部(2町7村)からなる日本の首都。立法・行政・司法の中枢機能をはじめ外国の大使館、金融機関、大企業などが多く置かれており、また超高層ビルから歴史ある寺院まで、近代的な要素と伝統的な要素が融合している。令和6年度一般会計決算(見込み)は約8兆9,628億円、令和7年度一般会計予算(6月補正後)は約9兆2,009億円。

1990年竣工。地上48階、高さ243m。
25年度のSDGs債発行は1300億円
東京都の25年度一般会計予算(6月補正後)は9兆2009億円。特別会計や交通・上下水道等の公営企業会計などを含めると年間17兆円超となっている。歳入に占める起債の割合を示す起債依存度は2.2%で、国や他自治体と比べて低い水準を維持しており、健全な財政運営が図られているといえる。
そのような状況の中、財務局主計部公債課は、都債、民間資金利用の調整及び宝くじの発売など資金調達に関する事務を所管。都債に係る業務は、①都債の企画・発行に関する「計画管理業務」、②都債の管理・償還に関する「公債管理業務」、③一般会計・特別会計・公営企業会計の起債に係る届出等や、政府資金・政府関係金融機関からの借入れに関する「起債業務」、④外貨債の発行に関する「外債業務」の4ライン体制で進めている。
公債などの資金調達に関する計画では、25年度の市場公募債は、11月時点で年間6100億円程度の発行を予定。10年債を基幹年限とし、10月まではシ団方式による毎月200億円の発行を基本としつつ、8月は主幹事方式で390億円発行した。11月以降は毎月300億円程度の発行を予定している。公債発行における東京都の特徴は、17年度に環境施策の推進等を目的とした全国初の「東京グリーンボンド」を発行して以降、サステナブルファイナンスに取り組んでいることだ。25年度は「東京グリーン・ブルーボンド」などのSDGs債を総額1300億円程度発行することを予定している。
「その他にも、定例発行の外債、年限を定めずにスポットで活用するフレックス枠も設けています。定例的に海外市場で外債を発行している自治体は東京都だけです。最終的には税収動向や資金需要を見定めながら、市場公募債の発行額を柔軟に決めていきます」と東京都財務局主計部公債課の橋口牧子課長は説明する。
率先して国内グリーンボンド市場を活性化
17年度に「東京グリーンボンド」を発行した背景と経緯について、橋口課長は次のように話す。
「脱炭素による持続可能な社会へ向けて、16年当時、海外ではグリーンボンドの発行が始まっており、日本の投資家からも注目されていました。しかし、国内の発行事例はほぼ無く、日本の投資家の資金は海外の環境対策に充当されている状況でした。そこで、東京都が率先してグリーンボンドを発行して国内投資家の資金の受け皿となり、調達した資金を国内の環境対策に活用することで、国内のグリーンボンド市場を活性化しようというのが発行のねらいでした。17年度以降、毎年グリーンボンドを発行し、好評を博しています」
24年度には、「東京グリーンボンド」を、海洋保全などに資する事業を加えた「東京グリーン・ブルーボンド」にバージョンアップ。25年10月に第9回目の「東京グリーン・ブルーボンド」を機関投資家向けに100億円発行し、22件の投資表明を得ている。東京都がグリーンボンドを発行したことについて、大和証券(株)サステナビリティ・ソリューション推進部の根岸真美部長は、市場で大きなインパクトをもって迎えられたと話す。
「グリーンボンド発行の前年度に東京都はトライアルの位置づけで『東京環境サポーター債』を発行し、市場関係者の間では、次に本格的なグリーンボンドが発行されると期待感が高まっていました」
17年3月に環境省から「グリーンボンドガイドライン」が発表され、4月からグリーンボンド発行の支援が始まるなど、国内での環境整備も進められていた。
「そのような中で東京都がグリーンボンドを発行したことにより、日本でもサステナブルファイナンスが始まったことを実感しました。その後も継続的に発行したことで、ブームに乗った一時的なものではないことを市場関係者に印象づけたのも大きかったです。他自治体のグリーンファイナンスの取り組みを後押しする役割を果たしました」と根岸部長は振り返った。

東京都財務局主計部公債課長・橋口牧子さん。
レジリエンスボンドにバージョンアップ
東京都はグリーンボンドに続いて、21年度に社会的な課題解決に資する事業の資金調達に向けて「東京ソーシャルボンド」を発行し、24年度には外債によるサステナビリティボンドを発行するなど、サステナブルファイナンスの取り組みを広げている。
「ソーシャルボンドの発行は、コロナ禍からの復興に際し、持続可能な生活を実現するサステナブルリカバリー推進の一環として、支援が必要な都民や事業者を社会全体で支えるのがねらいでした。また、国内に加えて海外からも幅広く投資資金を呼び込みたいという思いから、海外市場でサステナビリティボンドを発行しました。ともに、自治体による発行は全国初です」と橋口課長。
さらに東京都は、都市の強靱化を強力に推進し、安全・安心で快適に暮らせる東京を実現するため、22年12月に「TOKYO強靭化プロジェクト」を策定。その後、TOKYO強靭化プロジェクトを財政面から下支えするため、「TOKYOレジリエンスボンド」を25年10月に海外市場で発行した。
「気候変動適応策への資金投入が気候変動緩和策に比べて世界的に不十分という認識があったことから、サステナビリティボンドの発行で得た知見を活かし、『TOKYOレジリエンスボンド』にバージョンアップして発行しました。TOKYO強靭化プロジェクトを財政面から下支えすること、海外市場での発行によって国際社会へ向けて東京都の強靱化への取り組みを強く発信すること、そして、投資が少ないレジリエンスへ世界的な投資を促進することがねらいです。レジリエンスボンドとして世界で初めて国際認証を取得したこともあり、非常に好感触を得ています。これらの取り組みによって『サステナブル・レジリエントファイナンス』のリーディングシティを目指すと、小池百合子知事も述べています」と橋口課長。
根岸部長は、東京都はレジリエンスボンド発行に当たっては様々な角度からリスクや理想の形を検討するなど周到に準備していたとし、「国際認証はイギリスの非営利団体のクライメート・ボンド・イニシアチブの認証を取得していますが、その前段から海外のレジリエンス等を目的にした債券の発行機関と直接対話しています。日本は災害が多い国で、特に東京都は人口が多い。その対策にかける投資は非常に大きいので、レジリエンスボンドは注目度が高い債券の一つだと思います」と話す。

大和証券(株)サステナビリティ・ソリューション推進部長・根岸真美さん。
「TOKYOレジリエンスボンド」で調達した資金は、局地的な集中豪雨等による溢水を防ぐための調節池の整備や、平均海面水位上昇による浸水を防ぐための防潮堤の嵩上げなどTOKYO強靭化プロジェクトの6つの事業に充当する予定。また、25年度に「東京グリーン・ブルーボンド」で調達した資金は、都有施設における太陽光発電設備の導入やZEVの導入、水辺空間における緑化の推進、ブルーインフラの整備などの事業に、「東京ソーシャルボンド」で調達した資金は、特別支援学校の整備、道路のバリアフリー化、公営住宅建設事業、水道施設等の自家用発電設備の新設・増強などの事業に充当予定だという。
東京都での「サステナブル・レジリエントファイナンス」の取組(令和7年度:1,300億円程度)

(出典)「東京都財務局」HP
日本再浮上のための「ゲームチェンジ」を行う
東京都はサステナブルファイナンスの推進において、個人投資家や機関投資家、海外投資家に対し、定期的なWebセミナーの開催や個別のIR活動などを通じて東京都の財政状況やSDGs債の発行等に関する取組内容を紹介している。
「投資をしてもらうには市場や投資家と丁寧に対話する必要があります。その上で東京都と投資家の橋渡しを担う金融機関、特に証券会社の力添えは必要不可欠なものだと認識しています」と橋口課長。それに対して根岸部長は、「調達した資金によってどのような改善効果が生まれたかを投資家にレポーティングしなければならないのですが、東京都のレポーティングは写真付きで詳細に説明しており、分かりやすいと高く評価されています。小池知事がメッセージを出している点も好評です。トップメッセージは東京都全体で取組にコミットしている意思表示になるので極めて重要なのです」と話す。
16年7月に初当選し、真っ先にグリーンボンドに取り組むように指示するなど、サステナブルファイナンスは小池知事のコミットメントが高いプロジェクトになっている。そこからは、地球温暖化防止や持続可能な社会づくりへ向けた決意と、国際金融都市として日本をリードしていく矜持と覚悟が読み取れる。
「小池知事は、東京から日本の明るい未来を切り拓いていきたいという発想を持っています。知事はまた、しばしば『ゲームチェンジ』が必要という主旨の発言もしています。失われた30年で日本の地位は国際的に落ち込みましたが、現在、世界の情勢が大きく変わってきており、確かに、『ゲームチェンジ』をして日本が再浮上するチャンスであると感じます。職員一人ひとりが、自治体や国内レベルだけではなく、国際的な視点で様々な施策に取り組んでいかなければなりません」と橋口課長は強調する。
シンガポールやベトナムでの駐在経験がある根岸部長は、リーマン・ショック以降、日本の金融市場の立ち上がりに対する海外からの期待はあったものの、低金利政策で海外の資金が流入しづらい環境が長く続き、日本の存在感が落ちていることを実感していたと話す。
「しかし帰国後、日本の金融政策が変わったことがあるかもしれませんが、ここ2年くらいは海外の資金がまた戻ってきていることを感じています。かなり力強い復活を感じており、1980年代の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が再来するのではないかとの期待感を高めています。その牽引役を担うのが東京都だと思います」
令和7年度東京都のSDGs債への投資を表明した都内自治体
(出典)「東京都財務局」HP

*下線は各HPにて「基金運用によるSDGsへの取り組み」の一環として投資表明を掲載している自治体
より慎重かつ柔軟に起債運営を図る
サステナブルファイナンス市場では、発行体はグリーン、ソーシャル、サステナビリティなどのラベルに限らずテーマを細かく設定するようになっており、投資家もテーマを追求する深掘りの段階になってきたという。
「その理由は、例えばレジリエンスに損害保険会社が投資するのは、レジリエンスへの投資が行き渡れば、自分たちが支払う保険料を低減できるからです。林業関係者はネイチャーポジティブに投資することで、森林と林
業が守られることを期待します。つまり、自分たちの経済利益と投資を結びつけて考える方向性に動いており、サステナブルファイナンスの中でテーマを深掘りする流れは続いていくのではないかと思います」と根岸部長は今後の市場動向をみている。
今後の資金調達の方向性について東京都は、先行き不透明な市場環境において、いままで以上に市場の動向や投資家の声を踏まえ、より慎重かつ柔軟に起債運営を図っていくことが重要になると考えている。
「特に投資家の皆様の声が大事だと考えており、その声を踏まえ、証券会社からの助言もいただきながら、発行年限の多様化や、SDGs債をはじめとする都債の商品性の向上に引き続き努めていきます。多様な投資機会を提供していきますので、債券運用のご担当におかれては、前向きに購入を検討いただけるとありがたいです」と橋口課長は語っている。

(左から)東京都公債課長・橋口牧子さん、大和証券(株)・根岸真美さん。
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