どう稼ぐ?どう使う?これからの地方財政戦略

松下 啓一

クラファン型ふるさと納税の事例紹介:北本市の団地再生にみる“持続する事業”

NEW地方自治

2025.12.01

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月刊 地方財務 2025年11月号

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どう稼ぐ?どう使う?これからの地方財政戦略

CF型ふるさと納税事業の最前線③―北本市の団地再生にみる“持続する事業”

松下啓一


 北本市は、新宿駅から湘南新宿ラインで約45分、埼玉県中央部のまちである。平らで小高い丘や急な坂道もないため、1970年代には大規模宅地開発が進み、人口が大幅に増加した。しかし2005年をピークに減少に転じ、2025年7月現在は6万5019人(住民基本台帳)である。

 本稿では、2019年からふるさと納税を活用したクラウドファンディング(以下「ふるさと納税型CF」という。)を開始し、これまで12のプロジェクトを実施している北本市の担当者である大橋様にお話を伺った。

※本稿では、北本市で用いられる通称に表記を揃えた。

1 まちおこし―地域おこしとふるさと納税型CF

松下 自己紹介をお願いします。

大橋 北本市政策推進部市長公室シティプロモーション・広報担当の大橋と申します。2014年に北本市役所に入庁し、現在は主にふるさと納税やシティプロモーション業務に従事しています。

松下 最初の事業は、「雑木林の中に人と人の繋がりが生まれる拠点施設を」ですね。まちづくりの典型的テーマですが、これをふるさと納税でやるというので、役所内ではいろいろな議論があったのではないですか。

大橋 行政としては初めての試みで、制度面や実現可能性、そして市民の皆さまにどう共感していただけるか、といった点が課題でした。しかし、議論を重ねる中で市民の「やってみたい!」という思いを形にすることこそが、市の活性化にもつながり、また行政の役割ではないかという共通認識が生まれ、挑戦することを決断しました。

松下 この時の達成率は23.6%で目標額を達成していませんが、手ごたえがあったということでしょうか。

大橋 目標額には届きませんでしたが、寄付者の皆さまから多くの応援メッセージをいただき、改めて寄付金の具体的な使い道を明確にし、プロジェクトを実施する意義を実感しました。

松下 その後のプロジェクトをみると、まちおこし・地域活性化の要素の強い取り組みが多いですね。特に目立つのは団地を舞台にした取り組みです。政策意図があるのですか。

大橋 特段の政策的意図があって企画したものではありませんが、長年市民の暮らしを支えてきた団地が少子高齢化や団地商店街の空き店舗増加といった課題に直面する中で、「活気を取り戻したい」という思いがありました。団地は多くの世代がともに生活する、地域コミュニティの核ともいえる場所です。そこで生まれる人のつながりを再び活性化させることが、地域全体の賑わいにつながると考えています。そういう意味で団地の取り組みは市民と一緒に「暮らしの場を元気にしたい」という自然な思いから始まったものが多いです。


これまでの取り組み一覧

・美容を学べる・体験できるスクールプロジェクト 美容の力で北本を盛り上げたい! ・北本団地から繋がるWA「まちのダンススタジオ」 ・北本団地商店街で一緒に学び教え合う「コミュニティ工房&シェアスタジオ」をつくりたい 団地商店街に人が集まる工作室を!北本団地商店街・まちの工作室プロジェクト ・地域を諦めないために。郊外団地商店街に、子供たちや若者が活躍できる居場所を作りたい(地元若者が挑む全国初住宅付店舗のMUJI×URによる地域活性化事業) ・古びた商店街に、まちを見直し交流する「暮らしの編集室」を作り、北本で暮らし続ける理由を作りたい!


松下 これまでの団地再生は、老朽化した住宅の維持・改修が中心でしたが、こちらは団地をコミュニティ資源、地域連携資源とする試みで、これはふるさと納税型CFだからできる、1つの可能性といえますね。

大橋 ふるさと納税型CFにより、新しい団地の価値づけに挑戦することができました。寄付を通じて団地の未来に関わっていただけることから、行政だけでなく多様な主体が団地の活性化に関わるきっかけになったのも大きな成果です。

松下 団地内の商店街振興の取り組みも目立ちます。商店街振興は、組合等によるイベント事業が多いですが、商店街を単なる買い物の場ではなく「地域コミュニティの核」として再定義する動きですね。

大橋 商店街は日常的に人が行き交う場所であり、世代や立場を超えて交流できる大切な拠点です。そうした商店街の持つ力を活かし、地域活動や多様な連携の舞台に広げていくことで、単なる商業振興にとどまらず、まち全体の活性化につながると認識しています。

松下 この団地再生や商店街振興の提案者は、若い人が多いのでしょうか。

大橋 比較的若い世代から多く寄せられていますが、地域のベテラン世代の経験や知恵も必要不可欠ですので、世代を超えた協働によって取り組みを進められているのが特徴です。

松下 ふるさと納税型CFは、若者のまちづくり参加にも有効な手法といえますね。

2 福祉とふるさと納税型CF

松下 令和6年度実施の「福祉事業所×地域連携農 商福連携の新たな仕事づくりで地域とつながる架け橋を!地元の木材を活用した地産地消の薪づくりプロジェクト」も興味深いですね。通常のふるさと納税の対象といえば、観光や名産品開発など地域振興的なものが多いですが、ふるさと納税型CFは福祉のような公共的な分野でも適用できますね。

大橋 地元の木材を活用した地産地消の「薪づくり」プロジェクトは、福祉事業所と地域が連携して新たな雇用を生み出すという挑戦であり、地域課題の解決と地産地消の推進を同時に実現するもので、まさにふるさと納税型CFだからこそ形にできた取り組みだと考えています。

松下 福祉の場合は応援者が多いのもいいですね。

大橋 特に福祉事業所の関係者の方々が中心となって支援してくださったことが印象的で、現場の方々の熱意やネットワークの力を改めて感じる機会となりました。

松下 福祉の分野でも、この仕組みを使ってほしいと考えていますが、どんなプロジェクトが可能ですか。

大橋 例えば、地域福祉の拠点の整備や地域福祉活動のための物品購入、高齢者や障がい者の就労支援につながる商品づくりなどが挙げられます。ふるさと納税型CFは共感や応援を形にできる仕組みですので、地域と福祉の新しいつながりを生むきっかけとして、大きな可能性があると考えています。

松下 なるほど、では逆にふるさと納税型CFがやりにくい分野はありますか。

大橋 専門性が非常に高く一般には馴染みのない研究や、成果が長期的でみえにくい事業などは、ハードルが高いといえます。こうした場合は寄付者に取り組みの意義や成果を具体的に伝える工夫が重要となります。

3 実施にあたって

応募にあたって

松下 採択は毎年1〜2件程度ですが、応募はどのくらいあるのでしょうか。

大橋 応募件数もおおむね同じくらいの状況です。応募の段階からプロジェクトの具体性や実現可能性を慎重に見極めるため、採択に至る件数は限られています。その分、採択されたプロジェクトには十分な準備や計画が伴っており、着実に実施できるようになっています。

松下 提案型事業は、最初はいいのですが、新たな提案が出ずにすぐに行き詰まりがちです。ふるさと納税型CFではどうですか。

大橋 実際にそのようなことはなく、毎年新しい提案が継続的に寄せられています。ふるさと納税型CFは、寄付者の共感や応援が直接プロジェクトの実現につながる仕組みであることから、提案者の意欲を高め、新しいアイデアの創出を促しているのだと考えています。

松下 行政側でも、プロジェクト創出のための働きかけは何かしていますか。

大橋 具体的な働きかけ(プロジェクト立ち上げに至るまでをサポートする講座ほか)は行っておりませんが、ふるさと納税パンフレットや広報きたもと(広報紙)、SNS等でのプロジェクト紹介を通じ、ふるさと納税型CFを周知しています。現状は、プロジェクトの発起人となった方やプロジェクトの場で生まれたつながりから、新たなプロジェクトが創出されることが多くあります。

松下 では、提案者との事前調整やアドバイス、あるいはサポートのようなことはしているのですか。

大橋 クラウドファンディングの募集ページの制作や、寄付を募るための広報活動を通じて、より多くの方にプロジェクトの趣旨や魅力を伝えられるようお手伝いしています。

寄付者について

松下 普通のふるさと納税と比較して、寄付者の違いのようなものはあるでしょうか。

大橋 北本市で実施しているふるさと納税型CFは返礼品を伴わないものなので、北本市内にお住まいの方も寄付することができるのが最も大きな違いです。また、単に寄付をするだけでなく、プロジェクトの意義に共感し、地域の課題解決や活動の応援につながるといった、参加型の寄付が生まれやすいのが特徴です。

松下 寄付者は市外からもあるのでしょうか。またテーマによって違いはあるのですか。

大橋 寄付者は市外の方が多く、全体の7割前後を占めています。ただし、昨年度実施した「薪づくり」プロジェクトのような福祉活動に関わるプロジェクトでは、市内の方々が中心となって応援してくださるケースがみられます。

採択にあたって

松下 ふるさと納税の税制優遇を受けるので、提案内容の公共性等が重要になると思います。選定・採択するにあたって、どのように対応しているのでしょうか。

大橋 採択にあたっては審査会を設置し、提案者からのプレゼンテーションを受け、提案内容の公共性・公益性や実現可能性、地域への波及効果などを総合的に検討し、公平かつ透明性の高い判断を行うことを心がけています。

松下 説明責任成果報告は大事ですね。

大橋 採択されたプロジェクトは、プロジェクト終了後に成果報告書や活動報告を作成し、寄付者への郵送やウェブサイトの公開で情報を共有しています。

返礼品の設計

松下 通常のふるさと納税との違い、あるいはふるさと納税型CFならではの特徴はあるのでしょうか。

大橋 ふるさと納税型CFでは、通常のふるさと納税のような物品の返礼品はありません。その代わりプロジェクトの趣旨に応じて、完成した施設や成果物のお披露目会への招待、体験イベントへの参加など、寄付者がプロジェクトの成果を直接感じられる機会を提供することがあります。

4 事業終了後

松下 採択され、ふるさと納税型CFで寄付金を集めただけでは意味がありません。この12事業の実施とその後はどうなっているのでしょうか。

大橋 例えば、昨年度実施した『薪づくり』プロジェクトでは、寄付により必要な設備導入が実現し、その後はカインズ北本店での販売にまでつながりました。
 購入された市民からは『自分の寄付が地域の資源循環に役立っていると実感できた』との声が寄せられ、プロジェクト提案者からも『地域内外からの応援をきっかけに新たなつながりができ、事業の励みになっている』といった反応がありました。

松下 なるほど、事業が一過性で終わらないための工夫が大事なんですね。

大橋 プロジェクトの審査の段階から地域や関係団体との連携を意識し、実施後の活動が継続できる仕組みづくりを重視しています。また、採択されたプロジェクトの成功事例は、次の取り組みへの参考や改善点として活かすことで、より持続可能で地域に根づいた活動へとつなげています。

松下 ありがとうございました。引き続きがんばってください。

 

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