
どう稼ぐ?どう使う?これからの地方財政戦略
クラファン型ふるさと納税の事例紹介:春日部市の新庁舎建設にみる“財源支援型市民参加”|どう稼ぐ?どう使う?これからの地方財政戦略
地方自治
2025.12.08
出典書籍:月刊『地方財務』2025年12月号
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月刊 地方財務 2025年12月号
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どう稼ぐ?どう使う?これからの地方財政戦略
CF型ふるさと納税事業の最前線④―財源支援型市民参加の可能性
松下啓一
市庁舎(新庁舎)建設にCF型ふるさと納税を導入するケースがみられるようになった(沖縄県石垣市、東京都国分寺市、東京都府中市、群馬県大泉町など)。
これは財源支援型市民参加といえるもので、この方式を取り入れた庁舎建設は、今後増えていくと思われる。
1 CF型ふるさと納税を取り入れた新庁舎づくり
春日部市の新庁舎の概要
春日部市の新庁舎は2023年9月に竣工した。本庁舎は地上6階地下1階、付帯施設として、コミュニティ棟、レストラン棟、まちなかひろば等が併設されている。行政の場という従来の市役所機能に加え、「市民のいばしょ」として機能する新しい市役所庁舎を目指すものである。総工費は全体で約113億円だった。
CF型ふるさと納税
この庁舎建設のなかで、春日部市は、「みんなが集い、交流する、にぎわいのある市役所をつくりたい!」というタイトルで、CF型ふるさと納税を採用した。
寄付募集期間は2023年6月1日〜同年8月29日までの90日間。目標金額は3000万円であったが、実際の寄付金額は、5591万6000円、支援人数895人、達成率は186.3%となった。
2 春日部市管財課に聞く
なぜCF型ふるさと納税なのか
松下 こんにちは。自己紹介をお願いします。
小峯 春日部市財務部参事兼管財課長の小峯と申します。1997年に建築技師として入庁しまして、今年で29年目となります。新庁舎については、2019年度の実施設計から2023年度の庁舎完成までを行い、2024年度からは庁舎の管理をしています。
松下 庁舎全体の設計コンセプトは、「市民のいばしょ」としての市役所ですね。CF型ふるさと納税はその展開の1つで、財源支援型の市民参加という意味合いを持っていますね。
小峯 そういうことになります。
松下 今では、新庁舎づくりに、CF型ふるさと納税を採用するケースが増えてきましたが、春日部市が始めた頃は、まだまだ珍しい取り組みといえます。そのなかで、これをやろうと考えたきっかけはどんなことでしたか。
小峯 市長が視察で北海道旭川市に行ったとき、庁舎建設のクラウドファンディングを行っていることを知り、
本市でも検討を始めました。
クラウドファンディングの狙い
松下 クラウドファンディングを行う動機は、いくつかありますが、まず財源確保ですね。ただ実際には、春日部市の場合でも、総工費は約113億円であるのに対して、寄付目標額は3000万円なので、建設費のほんの一部です。市民の寄付で庁舎建設ができたら面白いですが、ね。
小峯 多くの方々にご支援いただくためには、1口あたりの寄付額の設定を考える必要があります。また、銘板の設置スペースにも限度がありますので難しいものと考えます。
松下 春日部市の場合は、このクラウドファンディングは市庁舎に対する市民の共感・愛着をメインにおいています。シビックプライドの実践ですね。
小峯 タイトルにもあるように「みんなが集い、交流する、にぎわいのある市役所をつくりたい!」というコンセプトに対して、多くの方々から共感が得られたものと思います。
目標金額と達成
松下 目標金額は3000万円と、他の自治体の庁舎建設と比べて一桁多い金額ですが、設定した理由はなんでしょうか。
小峯 目標金額の設定は、銘板の設置場所が新本庁舎の総合案内付近の壁となっており、壁の広さおよび銘板の大きさから、個人1口2万円以上で1000件、法人または各種団体1口10万円以上で100件の設置が可能であったため、合計で3000万円としたものです。
松下 寄付募集をかけても目標額を達成できない場合もあります。春日部市の場合、「目標額に達しなかった場合でも、寄附金はすべて本事業に活用」との明記がなされているので、担当者は多少気が楽だったかもしれないけど、やはりプレッシャーとなるでしょうね。
小峯 特にプレッシャーはありませんでしたが、なるべく多くの方々からご賛同をいただければという気持ちで取り組んでいました。
松下 なるほど。実際、目標金額3000万円に対して、実際の寄付金額は、5591万6000円。見事に達成しました。
市民の市役所
松下 市庁舎の基本コンセプトは「市民の居場所」です。市庁舎は、本来、市民のためのものですが、実際には職員の働く場所くらいに考えられがちですね。
小峯 せっかく大規模な費用をかけて庁舎を建設するのですから、今までどおり行政手続きを行うだけの市役所ではなく、土日祝日も開放され、市民の皆様が集える「市民の居場所」となるよう計画しました。
松下 そうですね。この基本コンセプトにあわせて、クラウドファンディングのタイトルも市民参加、市民共感を前面に打ち出すものとなりますね。
小峯 できるだけ多くの方々に賛同をいただけるように「みんなが集い、交流する、にぎわいのある市役所をつくりたい!」というタイトルにしました。
松下 市民の共感や市民を巻き込むために、どんな取り組みを行ったのですか。
小峯 多くのご寄付をいただけた要因ですが、1点目は、にぎわいのある市役所に生まれ変わるというコンセプトに対して多くの方々が共感され、新本庁舎建設を応援したいと思っていただけたことです。その結果、当初100件の寄付を見込んでいた法人または各種団体において倍以上の261件の寄付をいただけました。
2点目は、さまざまな媒体を通じて、より多くの方々に、このクラウドファンディングを知っていただけたことです。具体的には市の広報誌や市公式ホームページの掲載をはじめ、SNSへの配信、公共施設や商業施設へのポスター、チラシなどの配架、庁舎内や商業施設のデジタルサイネージや駅の電光掲示板などへの掲示を行い、周知を行ってきました。また、複数の新聞に記事として取り上げられ、これらの周知により多くの寄付をいただき、目標金額を達成できたものと考えています。
広報戦略
松下 そうすると広報戦略も重要になりますね。
小峯 そのとおりです。なるべく多くの方々に知っていただけることが大変重要と考えます。
松下 その他、特に効果的だった広報手段はありましたか。
小峯 SNSだけですとご覧にならない方もいますので、市内の各種団体などにチラシを持って直接伺い、クラウドファンディングの周知を行ったことも効果があったものと考えます。
関係人口
松下 関係人口へのアプローチですね。広報手段もWebやSNSを使うので、市内の住民だけでなく、全国の人たちもターゲットに入ってきますね。
小峯 過去に春日部市にお住まいになっていた方などからもご寄付をいただきました。
松下 市外からの応募者はどのくらいいるのですか。
小峯 個人の寄付件数は629件となっており、そのうち市外の方は90件(約14.3%)でした。
公共性・公平性への配慮
松下 庁舎建設は公共の基本インフラづくりなので、一般的なふるさと納税とは違って、CF型ふるさと納税の制度設計では、より公共性に配慮したものが求められますね。
小峯 そのとおりです。そのため、今回のクラウドファンディングでは、旧庁舎における老朽化や耐震性能が不十分、狭あい化、窓口の分散、バリアフリーが不十分といった課題を解消するとともに、たくさんの人が集い、交流し、にぎわいのある庁舎をつくることを目的として、ご支援をお願いしました。
事務手続きの進め方・難しさ
松下 CF型ふるさと納税を始めるにあたって、難しかったり、知恵を絞ったりしたのは、どんなことですか。
小峯 クラウドファンディングは本市で初めての取り組みでしたので、募集までの手続きが大変でした。また、多くの方々にしていただくためには、支援してもいいと思っていただけるようなポスターやチラシを作成しなければならないので、その点も苦労しました。
松下 では、事務手続きのなかで、手間がかかったところはありますか。
小峯 寄付希望者に高齢の方が多かったため、ポータルサイトを使わない方が多く、郵便局からの振り込みが7割近くになったことで、ふるさと納税管理システムへの入力など事務手続きが非常に増えました。
また、受領証明書やワンストップ特例申請など、ふるさと納税の仕組みを理解せず申し込んだ人が多く、申告時期に問い合わせが多くなるとともに、申告に必要な書類をなくした人も多く、再発行に手間がかかりました。
松下 新庁舎の建設寄付者に年配者が多いというのは、なんとなくわかるような気がしますね。
寄付者対応・信頼性の確保と返礼品
松下 寄付者への説明責任を果たすことも重要ですね。どんなことをやりましたか。
小峯 最終的な寄付件数や寄付額等については、市公式ホームページにおいて公表を行いました。コンセプトに合った新庁舎を完成することができたことが説明責任を果たすことになったと考えています。また、開庁前の2023年12月には、寄付者の皆様を招待して新庁舎の見学会を開催しました。
松下 希望者には銘板(寄付者名を刻んだもの)を庁舎の壁面に掲示するというお礼を設定していますね。
小峯 銘板は返礼品ではなく、あくまで市からの感謝の気持ちとして設置したものです。ふるさと納税の返礼品は市内の方々へは送れませんので。
松下 なるほど。ふるさと納税を使うとそういう制約があるのですね。また、先着1000名という限定ですが、これは早く寄付しようという動機づけになりますね。
小峯 そうですね。先着順としたことも多くのご支援につながったものと考えます。
3 成功のポイント
春日部市の市庁舎建設のためのCF型ふるさと納税は達成率が186.3%となり、支援者も895人になった。いくつかの成功のポイントを指摘できる。
① 目的の明確化
「市民が集う庁舎」像を明確に打ち出したことだと思われる。「防災拠点」「交流空間」「にぎわい創出」といった理念を明示した。これによって、単なる行政施設でなく市民の庁舎というコンセプトが明確になり、共感を得ることができた。
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