そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室

関根健夫

【公務員カスハラ対策】隣人トラブルで板挟みになったら?|クレーム対応悩み相談室9

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2025.05.21

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出典書籍:月刊「ガバナンス」創刊20周年記念別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』
※本書は月刊「ガバナンス」2019 年4月号〜2020 年4月号までに掲載した連載をまとめたものです(一部加筆・修正)。

自治体職員のためのトラブルの対処法を学ぶ!カスハラ対応図書特集

Chapter9 隣人トラブルで板挟みになっています


2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

本連載では、月刊『ガバナンス』の連載をまとめた別冊付録『そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室』の内容を引用して掲載。
人材教育コンサルタントの関根健夫さんが自治体でのクレーム対応術を解説しています。

今回は隣人トラブルで板挟みになったときの対応をご紹介します。
カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!

この記事で分かること

・隣人トラブルへの対応方法
・トラブル当事者への説明内容の例
・解決が難しいときの対応方法・例文

市営住宅を担当しているHさんは、隣の住人が動物を飼っているので何とかしてほしい、というクレームに対応しています。

人材教育
コンサルタント
関根さん

① 現実に解決しない問題でも、具体的な説明を繰り返す ② 様々な事例を紹介して視野を広げてもらう


努力を具体的に説明する

H 市営住宅の担当をしています。ある住民が、隣の人が動物を飼っているので何とかして欲しいとトラブルになっています。臭いや毛が飛んでくる、迷惑していると。

関根 市営住宅では動物の飼育を禁止しているんですか。

H もちろんです。なので指摘されたお宅を訪問して事情を聞こうとしましたが、本人は飼っていないの一点張りで、玄関先にも入れてもらえませんでした。

関根 本当はどうなのですか。

H 強制的に入り込むことはできませんし、見ていないので何とも言えませんが、飼ってるのではないかという感覚はあります。

関根 クレームを言ってきた人はどうなのですか。

H その後も何度も言ってきて、この状況が3年も続いています。

関根 その間、役所はどのように対応してきたのですか。

H 掲示板に飼育禁止のポスターを貼ったり、チラシを配布したりしています。ただ、これ以外にもこういった状況は複数あるようなのです。訪問しても実態を確認できない、本人は預かっているだけだと主張する、飼育をやめるとの誓約書を取っても反故にされるケースが多く、こちらも困っています。

関根 他の市でも良く聞きますね。先ほどの方には、どのような対応をしているのですか。

H ポスターやチラシのことは話しています。でも飼育実態は変わっていないのが現実です。この方も主張が先鋭化し、最近は「飼育は入居の条件に違反するのだから退去させろ」と言っています。

関根 話を聞く限り、悪意はなさそうですね。むしろ、臭いや毛などに3年も悩まされていること、そもそも規則違反の住民が許せない、明らかに違反する居住者がいるのだから役所はなぜ退去させないのか、ということですから、言い分には正当性がありそうです。

H でもどうしようもないので……。

関根 そう言ってしまっては、元も子もありません。こういったケースはなかなか解決しないのが現実であっても、こちらの努力は具体的に説明するほうが良いでしょうね。

H どういうことでしょうか。

関根 単に「やっています」ではなく、いつ、どのようなことを、どのように行ったのか訪問の実績や、これまで以上にポスターやチラシに工夫を加え、何回出したなど、こちらの努力を具体的に説明するのです。

H 納得するでしょうか。

関根 分かりません。でも、説明することはこちらの責任です。例えば、退去させる場合の手続きも説明してはどうでしょうか。動物を飼うことはルール違反ですからその住民を退去させることができる、これは理屈としては正しいですが、最終的には裁判に持ち込む必要があること、一般的には居住権が強いこと、それを覆して退去を勝ち取ることの難しさ、判決が出るまでに相当の時間と裁判費用がかかること、などですかね。

現実を説明しながら、話し合いを続ける

H 私もそこまでの経験はありませんが、言う必要がありますか。

関根 必要かどうかは何ともいえません。でも、それも説明の一部です。経験がなければ、調べたらどうでしょうか。住宅のトラブルは、全国に相当数あるはずです。

  例えば、動物の飼育に限らず、隣人の不当な行為について、裁判になっている例もあります。総じていえば、隣人の行為が受忍限度を超えていることを証明できれば、裁判所が判決を出してくれる可能性があります。しかし、現実に受忍限度を超えている事実を証明することは難しいようです。

H そうですか。

関根 また市営住宅は福祉の意味合いが強いので、仮に退去の命令が出ても、次の住まいを探すことが困難という場合もあります。動物の飼育をやめてもらうのが一番ですが、そのために何ができるのかです。ルールで縛るよりも、クレームを言ってきている人と動物を飼っている人、第三者の立ち会いも含めて、「迷惑ですからやめてください」と話し合うことのほうが現実的かもしれませんね。

  そういう意味でも、役所としてすべきこと、できることは何か、現実に何をやっているのかを説明しましょう。

H 物件が多くて、全てのお客さまに応対する時間がありません。とにかく忙しくて……。

関根 それも分かります。しかし、それを言ってもお客さまは納得しないのではないですか。

  全てに対応することができないけれど、あなたの申し出を決して軽んじているわけではないこと、今年は別の問題に重点を置いている、などと現実を説明しながら、話し合いを続けるしかないでしょうね。最終的には、住民同士の話し合いで解決すべきこともあるのだという現実を分かってもらう、視野を広げてもらうことです。とにかく、通り一遍の説明で片付けないことですね。

H ありがとうございました。

 

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