【カスハラ対策】SNSで拡散されたら?対応・削除・法的手段を解説

ぎょうせいの本

2025.06.06

職場に1冊は置いておきたい、カスハラ対策ハンドブック

Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック

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-平時の備えと有事の対応-
編著者名:日本弁護士連合会 民事介入暴力対策委員会
販売価格:3,630 円(税込み)
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2025年4月1日、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(カスハラ条例)が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

「Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック」では、弁護士が相談を受けた “現場の困った要求” への対応をQ&A形式で解説。44のQ&Aで基本から業界別の事例までが理解できます。

本記事では、SNSで拡散されたときの対応を抜粋してご紹介します。
カスハラ対応の参考として、是非チェックしてください!

この記事で分かること

・SNSにおける拡散はカスハラに該当するか
・SNSで拡散されたときの対応
・投稿動画の削除に向けた手続き
・投稿者に対する法的措置について

SNSで拡散されたら

当社の従業員が、顧客に対するクレーム対応をしていたところ、その様子が当該顧客により知らないうちにスマートフォンで動画撮影をされていたようです。後日、その動画がSNSにアップロードされ拡散してしまいました。どう対応すべきでしょうか。

・早急に実際のSNSへの投稿についての証拠を保全した上で、動画投稿の削除、投稿者に対する法的措置を検討します。
・投稿者が不明な場合には発信者情報開示請求を検討します。

 

1 SNSにおける拡散への対応

(1)カスタマーハラスメント該当性

 設問のように本人の承諾なく、姿態を撮影することは、従業員の肖像権やプライバシー権を侵害するものです。そして、そのような様子を伝播性の高いSNSで拡散する行為については、カスタマーハラスメントと判断してよいでしょう。

(2)正確な事態の把握及び証拠の保全

 SNSに動画を投稿して拡散するといった態様のカスタマーハラスメントがなされた場合、まずは、事案を正確に把握し、会社内での情報共有をする必要があります。具体的には、顧客対応を行った従業員の報告のもと、実際に投稿されたSNSの内容を確認します。

 さらには、投稿がされた日時やURL、投稿した者のアカウント名について記録し、証拠を保全する必要があります。証拠保全の方法としては、スクリーンショット機能などを用いるほか、情報量が多い場合には紙媒体で印刷してしまうこともよいでしょう。また、設例のように動画が投稿された場合には、投稿された動画をダウンロードして保存することも必要です。

 なお、SNSの特性として、書き込みが投稿者によって容易に改変、削除されることが考えられます。そのため、問題のあるSNSの書き込みを発見した場合には、早急に上記のような方法で証拠の保全をする必要があります。

(3)組織的対応の重要性

 こうした行為は、上記のとおり、肖像権やプライバシー権など、従業員個人の人格権を侵害するものとして問題となるのはもちろんですが、カスタマーハラスメントに適切に対応するという意味では、会社としても組織的に対応する必要があります。

 このような対応を会社内のどの部署が担当するのか、エスカレーション体制をあらかじめ整備し、対応方法、手順の策定をしておくべきです(第1章総論「第3 組織的対応」参照)。そうでなければ、対応策が分かっていても業務の押しつけあいとなり、早急な対応が取れないことが考えられます。

 

2 投稿動画の削除に向けた手続き

(1)削除請求の手順

 設例の事案では、SNSへの投稿が既に拡散しているものの、これ以上の拡散を防止するために投稿動画の削除を検討すべきです。

 まず考えられる措置としては、規約や問い合わせフォームなどの内容を確認して、SNSの運営者に対して削除依頼をします。

 この依頼で対応がなされない場合には、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会(現:情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会)のガイドラインに基づく送信防止措置の依頼を検討し、それでも削除がなされない場合には、裁判手続を検討します。

(2)裁判上の差止請求

 SNSに投稿された情報の削除を裁判所に対して求める場合には、SNSに投稿された情報がサーバーコンピューターから発信されないように求める差止請求を行うということになります。こうした差止請求については、人格権に基づく請求や、著作権や商標権の侵害による請求が認められています(最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁)。

(3)会社による差止請求

 設例とは異なりますが、名誉権は法人にも認められているため、SNSへの投稿が会社の社会的評価や信用を低下させるものである場合には、名誉権を根拠に、会社が差止請求を行うことも考えられます。

 また、法人には、法人の業務に従事する者の人格権を内包する業務遂行権が認められており、業務遂行権を根拠に、会社が差止請求を行う余地があります。

 この点、顧客から損害保険会社に対して、対応を受任した弁護士への連絡も拒否して、多数回、長時間の架電がなされた事案において、法人には上記業務遂行権があることを判示した上で、①当該行為が権利行使としての相当性を超え、②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、これら従業員に受忍限度を超える困惑 ・ 不快を与え、③「業務」に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合には、この行為は「業務遂行権」に対する違法な妨害行為と評することができ、当該法人は、当該妨害の行為者に対し、「業務遂行権」に基づき、当該妨害行為の差止めを請求することができると解するのが相当であると判示し、電話応対又は面談強要の差止請求を認容した裁判例があります(東京高判平成20 年7月1日判タ1280号329頁)。

 

3 投稿者に対する法的措置

(1)法的措置の検討

 SNSへの投稿により会社の業務に支障が生じている場合、動画を投稿した者に対する民事上、刑事上の法的措置を検討することが考えられます。

 動画を投稿した者に対して、前項で記載した削除請求を行うほか、動画の拡散によって会社に損害が生じていることが認められる場合には、民事上の措置として、不法行為(民法709 条)に基づく損害賠償請求をすることも検討すべきです。

 さらに、会社を特定できるような状態でSNSへの投稿を行い、著しく信用を低下させた場合には刑事上の「名誉毀損罪」(刑法230 条1項)が成立する可能性がありますので、告訴等の刑事上の措置も考えられます。

(2)投稿者の特定

 上記の措置を執るためには、投稿者の特定が必要となります。動画を投稿した者が判明していない場合には、SNSの管理者に対して、情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示手続を行って、投稿した者の氏名や住所を特定することが考えられます。

 例えば、XやGoogle、Facebookの場合は、発信者情報開示命令で最近接時刻ログインIPアドレス、アカウント開設時IPアドレス、タイムスタンプ、電子メールアドレス、電話番号の開示を求めることができます。これらの情報から投稿者を特定することになります。 なお、通常、発信者は、接続プロバイダを経由してSNSへの投稿を行っており、発信者を特定するためのログには保存期間があるため、接続プロバイダにおけるログ保存期間内に特定を行う必要があることに留意が必要です。

 発信者情報開示請求についても、前述したプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会のガイドラインに基づく方法と、裁判手続を行う方法があります。

 この点、インターネット上のウェブページによる不正競争事案において、営業上の利益侵害を根拠に、発信者情報開示を命じた裁判例があります(東京地判平成26年12 月18日)ので、前述した人格権のほか、営業上の利益を根拠に、会社が発信者情報開示請求を行うことが考えられます。

 

4 専門家への相談

 SNSへの投稿に対して法的対応を検討する場合には、会社の権利侵害や取り得る法的措置について、専門的知識が必要となります。早い段階で弁護士等法律の専門家への相談も検討するとよいでしょう。

 

5 設例の場合

 設例では、従業員による顧客対応の様子が無断で撮影され、SNSに投稿されたというものです。この場合、従業員のプライバシー権や肖像権等の人格権が侵害されたということになりますので、人格権に基づく差止請求権を行使する主体は、従業員個人となります。会社としては、従業員による請求を補助することになります。また、会社の業務遂行権等に基づく差止請求等も検討に値するでしょう。

 

『Q&Aカスタマーハラスメント対策ハンドブック』では
他にも次のような内容を読むことができます。

土下座を要求されたときの対応
・土下座をしてしまった後の対応
・フルネーム、自宅の開示を要求されたら
出入り禁止にする手順
録画・録音されたら?
・業界別対応
(小売業/食品・飲食業/旅館・ホテル/病院・介護/コールセンターなど)
ほか

 

弁護士が相談を受けた“現場の困った”要求にどう対応するか(業界別に)分かる!!

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