マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会

山口 利恵

第23回 カフェ発 なぞの請求 宅配便の連絡と迷惑メール(後編)

ICT

2019.06.26

第23回 カフェ発マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会

なぞの請求
宅配便の連絡と迷惑メール(後編)

『自治体ソリューション』2018年2月号

偽サイトへ誘導される

 ある日のお昼前、都内の文教地区、文田区にあるカフェデラクレ(Café de la clé)。外は冬の風が吹きはじめたころ、店内では、常連のお婆さん里中と、マスターの加藤、アルバイトの絵美が話をしていたところだった。

 カランカラン♪

「こんにちは、だいぶ寒くなってきたね。」

 常連の竹見が入ってくると、ほぉっと息をついた。

「あ、竹見先生、いいところに。」

 里中が言った。竹見は、近くの帝都大学の教授を定年退職した、IT 系の専門家である。

「何かトラブルですか?」

 竹見は、いつもどおり笑顔でカウンターに向かってきた。

「あっ、そうなんですよ。」

 そういうと、絵美はグラスに水を入れつつ、事情を説明し始めた。

 里中は、孫との会話のために、ネットショッピングを始めたが、スパムメールがたくさん来るようになって困っていた。

「ほほぅ。」

 竹見は、じぃっと話を聞き、声を出した。加藤は、竹見からのオーダーを受けることなく、いつものコーヒーをいれはじめていた。

「荷物は無事に届いたんですか?」

 竹見は尋ねた。

「ええ、届いたわ。」

「どんな風に注文して、そのあといつメールが来ましたか?」

「ええと…思い出すわね。」

 里中は、首をもたげながら考え始めた。加藤が竹見に向けていれたコーヒーの良いにおいがしてきたところで、里中は口を開いた。

「ええと…まず、プリンセス柄のテーブルクロスとフェイスタオルを買ったの。あと、孫にあげたいと思うものがあったんだけど、結局キャンセルしたりしてね。で、注文画面が出たから、名前とかを入れたの。」

 加藤が、竹見の前に湯気の出ているコーヒーカップをおいた。

「そこで、クレジットカードの番号とか、住所を入れたんですね。メールアドレスも。」

 竹見は、加藤にほほえみ、会釈をしながら里中に引き続き尋ねた。

「ええ。で、注文ボタンを押したら、注文の確認メールが来たわ。」

「そのあと、どういうメールが来ましたか?」

「そこからは、配送しました、っていうメールが2日後ぐらいに来たわ。」

「その間に迷惑メールは来ましたか?」

「いいえ、来なかった気がする。」

 里中は言った。

「なるほど。そのあとは?」

「そのすぐあとに、配送の確認をしたいときはこちら、っていうメールが来たわ。それで、確認のボタンを押したの。」

「ほほう。」

 竹見は、ゆっくりコーヒーに口をつけた。

「そこで、また、メールアドレスとか聞かれたから、色々入れたわ。」

「アマゾネスからのメールでしたか?」

「ううん、パンダ便っていう宅配便の会社からのメールだったわ。でも、操作が間違ったみたいで、途中で諦めちゃった。」

「なるほど。」

「あっ、そういえば…」

 里中が何かに気づいたようだった。

「配送はパンダ便で来るんだ、と思っていたのよ。でもね、十津川急便で来たの。」

「あぁ…そこですね。」

 竹見は、何かが腑に落ちたようだった。加藤も顔をあげた。

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山口 利恵

山口 利恵

東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任准教授

2003年津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学)、独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て2013年から現職。主な研究テーマである「ライフスタイル認証・解析」に関する各種講演やセミナーの登壇者として、また、「Society5.0を見据えた個人認証基盤のあり方懇談会」構成員を務めるなど、多方面で活躍中。

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