最新法律ウオッチング
最新法律ウオッチング―生殖補助医療法(2020年12月11日公布)
自治体法務
2021.06.09
最新法律ウオッチング 第109回 生殖補助医療法
(『月刊 地方財務』2021年1月号)
生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律
2020年の臨時国会において、生殖補助医療法が成立した。
近年、我が国では生殖補助医療の技術が進展し、生殖補助医療を受ける者も増加しているが、生殖補助医療については、法律上の位置付けがなく、懐胎・出産をすることとなる女性の健康の保護や当事者の意思の尊重、生まれる子の福祉への配慮といった共有されるべき理念も法定されていなかった。
また、現に生殖補助医療により生まれた子は相当数に上り、今後も生まれることが見込まれるところ、生殖補助医療により生まれた子の親子関係については、最高裁判例や解釈によって一定の方向性が示されているものの、法律上明確な規律がないため、その子の身分関係が不安定となり、その利益を害するおそれがある状況が続いていると指摘されていた。
このようなことから、個人の人権に配慮した生殖補助医療に関する法整備が求められている等の生殖補助医療をめぐる現状等に鑑み、生殖補助医療の提供等に関し、基本理念を明らかにし、国や医療関係者の責務、国が講ずべき措置について定めるとともに、生殖補助医療の提供を受ける者以外の者の卵子や精子を用いた生殖補助医療により出生した子の親子関係に関し、民法の特例を定める法案が、参議院の議員立法として提出され、成立した。
生殖補助医療法
●生殖補助医療の提供等
生殖補助医療とは、人工授精(男性から提供され処置された精子を女性の生殖器に注入する)や、体外受精(女性の卵巣から採取され処置された未受精卵を、男性から提供され処置された精子により受精させる)・体外受精胚移植(体外受精により生じた胚を女性の子宮に移植する)を用いた医療をいうこととした。
その上で、生殖補助医療の提供等に関する基本理念を明らかにし、①不妊治療として心身の状況等に応じて適切に行われるようにするとともに、懐胎・出産をすることとなる女性の健康の保護が図られるべきこと、②実施に当たっては、必要かつ適切な説明が行われ、各当事者の十分な理解を得た上で、その意思に基づいて行われるべきこと、③精子や卵子の採取、管理等の安全性が確保されるべきこと、④生まれる子について、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとすることとした。
また、生殖補助医療の提供等に関する国や医療関係者の責務について定めるとともに、国が講ずべき措置として、知識の普及等、相談体制の整備、法制上の措置等について定めた。
●親子関係に関する民法の特例
生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例として、女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産したときには、その出産をした女性をその子の母とするとともに、妻が夫の同意を得て夫以外の男性の精子を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、夫は、民法の規定にかかわらず、その子が嫡出であることを否認することができないこととした。
●検討
国会で検討が行われることを前提に、生殖補助医療の適切な提供等を確保するための事項として、①生殖補助医療やその提供に関する規制の在り方、②生殖補助医療に用いられる精子、卵子、胚の提供・あっせんに関する規制の在り方、③他人の精子や卵子を用いた生殖補助医療の提供を受けた者、当該生殖補助医療に用いられた精子や卵子の提供者、当該生殖補助医療により生まれた子に関する情報の保存、管理、開示等に関する制度の在り方等について、おおむね2年を目途として検討が加えられ、その結果に基づいて法制上の措置等が講ぜられるものとした。
●施行期日
この法律は、一部を除き、公布の日(2020年12月11日)の3か月後から施行される。
国会論議等
国会では、生殖補助医療の提供を受ける者以外の者の卵子や精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の出自を知る権利をどのように担保するかについて質問があり、法案提出者から、出自を知る権利については重要な論点と考えているが、卵子や精子の提供者の情報を開示することについて国民のコンセンサスが得られている状況ではなく、法律に基づく検討の中で議論していきたいとの説明がされた。
また、基本理念の「心身ともに健やかに生まれ」が優生思想につながらないかとの質問があり、法案提出者から、すべての子が安全に良好な環境で生まれることを意図したとの説明がされた。
参議院と衆議院の各法務委員会では、生殖補助医療に関する各種の施策を政府に求めるとともに、法律に基づく検討に当たり、出自を知る権利の在り方、代理懐胎の規制の在り方等を対象とすべきとの附帯決議が行われた。