会議の技術

八幡 紕芦史

会議の技術 第7回 会議での反論はウエルカム

キャリア

2019.07.29

こうすればうまくいく!会議の技術
事前準備からファシリテーションまで

第7回 会議での反論はウエルカム

月刊『ガバナンス』2009年10月号

 ある日、田中君は庁内の職員会議に出席した。議長から発言を求められ、日頃から問題に感じていることについて意見を述べた。意見を述べた後、会議室はシーンと静まりかえった。しばらくして、議長が「ありがとうこざいました」と言ったきり、その問題について話し合うことはなかった。

 職員会議は、いつも、こんな風景が繰り広げられる。他人の意見に賛成の意を表す人も、反論する人もいない。単に意見を述べただけで、床の上にボールがポトリと落ちる。議論がキャッチ・ボールにならない。

 

賛成なら賛成と言う

 会議で参加者のひとりが、意見を述べたとしよう。そのとき、周りの参加者は、黙って資料を見ながら、聞いているような、聞いていないような態度でいる。

 発言が終わると、少しの間、沈黙が漂う。その意見に賛成なのか、反対なのか、特に周りの参加者からの反応はない。

 議長が、「ありがとうございました」と言って、「他に意見はありませんか」と、参加者に発言を促す。促されても、しばし沈黙が続く。

 これじゃ、まるでお通夜だ。きっと参加者は苦痛に耐えながら、席に座っていることだろう。これは問題だ。しかし、もっと問題なのは、だれもこの状況を改善しようとしないことだ。

 もし、あなたが、このような状況に遭遇したら、会議を活性化するエンジンになろう。

 議長は、参加者からの発言を受けたら、まず、「この意見に賛成の方はいらっしゃいますか」と投げかける。多くの人は、「別に問題ではないから黙っていよう」と考えている。

 しかし、賛成なら賛成と表現しなければ会議にならない。たとえば、「私は、その意見に賛成です。というのは…」と発言すべきだ。自らの態度を表明してこそ、活発な議論になる。

 もちろん、議長でなくても、会議の参加者として、他の参加者が発言したなら、その意見について、賛成なら「賛成です」と自らの意見を自主的に述べるべきだ。そして、なぜ賛成か、その理由を述べる。

 単に賛成か反対か表明するだけでなく、その理由についても言及することだ。そうすれば、その理由についてさらなる議論が始まり、会議が活性化する。

 もし、あなたが職場の会議をよくしたいなら、まず、他人の意見に対して態度を表明することから始めることだ。

会議に波風を立てる

 もし、その意見に賛成できないなら、「その意見には賛成しかねます」と言うべきだ。

 会議が終わってから、「あれじゃ、無理だよ」などと、反対意見を吹聴する輩がいる。それは言語道断、フェアじゃない。そんな輩に、「反対なら反対と、会議の場で言うべきでしょう」と詰め寄ると、自分のことを言われたものだから、そんなときは反論する。

「いやあ、反対意見を言うと出る杭になるし…」とか、「反対しても、どうせ…」とか、「会議で波風を立てるのはなんだし…」などと言う。

 出る杭になるのが仕事というものだし、「どうせ…」と長い物に巻かれるなら、最初から会議に出席しないことだ。それに、会議は波風が立ってはじめて会議といえる。

 それでも、「そう言われても…」と逡巡しているなら、とっておきの方法を伝授しよう。

 もし、他の参加者の発言が、自分の意見と違うなと感じたら、直接、「反対です」と言わない。まず、質問をしてみる。たとえば、「…と思います」という意見に対して、「なぜ、そう思いますか」と理由を尋ねてみる。

 最初の発言者は、理由を質問されているだけだから、好意的に対応してくれる。たとえば、「その理由ですね。それは…」と、きっと丁寧に質問に答えてくれるはずだ。

 そこで、その理由について「なるほど!」と思えば、「よくわかりました。あなたの意見に賛成です」と言えばいい。それでも、賛同できないなら、理由に反論すればいい。直接的に意見に反論しているわけではないから、感情的にもならない。

 たとえば、「この街並み保存計画は推進すべきだと思います」という発言があったとしよう。それに対して、直接的に、「いや、その計画には反対です」と言うと、感情的に対立するかもしれない。

 そこで、質問をしてみる。たとえば、「なぜ、推進すべきだと思いますか」と。そうすると、「その理由は、住民の7割が賛成しているわけで…」と返事が返ってくる。「アンケート結果では、そうだと思います。しかし、住民にとっては、予算配分の優先順位は低いという結果もありますが」と反論する。

 このように、意見の理由について議論をすれば、会議は活性化する。

反論しやすい環境づくり

 人の意見に反論することは勇気がいる。そこで、議長は、反論しやすい環境をつくることだ。いわば、議長が反論することに、お墨付きを与えるわけだ。そうすれば、参加者は積極的に反対意見を述べる。賛成の意見も大切だが、議長は努めて反対意見を吸い上げる。それは、反対意見が出てくると、議論が活発になるからだ。そして、さらなる創造性のある意見を引き出すことにもつながる。

 参加者の発言に対して、「他に意見はありますか」と投げかけてはいけない。議論のテーマが拡散してしまう可能性があるからだ。そこで、「今の発言に、何か意見はありませんか」と言う。

 さらに、「今の発言に賛成の方、あるいは、反対の方はいらっしゃいますか」と投げかける。そうすれば、参加者は、「この会議は、反対意見を言ってもいいんだ」と思う。

 あるいは、もっと積極的に、「今、このような意見をいただきましたが、これから皆さんには、反対の立場から意見をいただきたいと思います」と投げかける。

 さらに、反対意見の必要性を述べながら、「いただいた意見を検証するために、みなさんに、反対の立場から発言をお願いします」とか、「よりよいアイデアを出すために、この意見に反論してみてください」などと。

 もし、できるなら、参加者をエンジェル・チームとデビル・チームに分けて、人工的に対立的な議論を行う方法もある。

 論理学に「悪魔の弁護士」という議論の方法がある。それは、「私はあなたの意見に基本的に賛成である(弁護士)。しかし、あなたの意見を確認するために、あえて反対の立場(悪魔)から反対意見を述べる。もし、あなたの意見が論理的であれば、全面的に賛成する」というものだ。次の会議で、「本日、私は悪魔の弁護士として、あえて反論しますが…」と前置きをし、胸を張って反対意見を述べてみよう。

著者プロフィール

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

経営戦略コンサルタント
アクセス・ビジネス・コンサルティング(株)代表取締役、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事長、一般社団法人プレゼンテーション検定協会代表理事。大学卒業とともに社会人教育の為の教育機関を設立。企業・団体における人材育成、大学での教鞭を経て現職。顧問先企業では、変革実現へ、経営者やマネジメント層に支援・指導・助言を行う。働き方改革への課題解決策として慣習の”会議”から脱皮を実現する鋭い提言で貢献。著書に『会議の技術』『ミーティング・マネジメント』ほか多数。

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特集 都道府県と市町村──もう一つの分権論

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