包括外部監査の分析と評価

染矢 尭志

【令和7年度 包括外部監査】テーマの傾向と構造的課題を分析〈全47都道府県一覧〉

地方自治

2026.07.13

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 令和7年度の包括外部監査について振り返ってみたいと思います。監査は問題を発見すること自体にとどまらず、その後の改善に結びつくことではじめて意義を持つものです。したがって、公表が出そろった段階で全体像を俯瞰しておくことにも意味があると考えます。

 本稿では、47の都道府県の報告書を対象として、包括外部監査の傾向を整理します。個別のテーマや指摘件数に着目するだけでなく、その背景にある構造や共通課題に目を向けることで、実務において参考となる視点を提示したいと思います。

 

社会課題のテーマが目立つ

 令和7年度は、環境(東京都、山梨県、香川県、熊本県)、人口減少(山口県、長崎県)、子育て支援(宮城県、埼玉県)、防災(島根県、福岡県)、労働力不足(徳島県)といった近年の社会課題に関連するテーマの選定が目立っており、社会課題に関するテーマは一定のボリュームを持つ一群を形成するまでになっています。これは単に社会的関心が高いという理由にとどまらず、行政が継続的に予算を投入せざるを得ない領域であることを示唆しているといえます。

 社会課題に関する施策は、一般に解決が容易ではありません。人口減少であれば、雇用、子育て、教育、住環境、地域産業など複数の要因が複雑に絡み合っており、単一の施策で改善できるものではありません。労働力不足についても、人材確保だけでなく、生産性の向上や働き方の見直しといった多方面からの対応が求められます。環境分野においても、短期間で成果が可視化される施策ばかりではなく、長期的な取り組みが中心となります。

 このような即効性のある、決定的な対策が存在しにくい分野は、結果として政策的・裁量的な予算が投入されやすくなる側面があります。これらの支出は、その必要性自体は否定しにくい一方で、効果や有効性の検証が難しく、成果指標が形式的、または曖昧になりやすいといった特徴があります。

 

定番のテーマも並ぶ

 一方、例年どおり個別の事業や施設を対象としたテーマも一定数を占めていました。病院事業(滋賀県、大阪府、鳥取県)、水道(群馬県、愛知県)、試験研究機関(神奈川県、兵庫県)、公の施設・公有財産(新潟県、栃木県、和歌山県、高知県)などがこれに該当します。これらは対象範囲が比較的明確であり、事務の執行状況や事業管理の適否を検証しやすい領域といえます。また、補助金(長野県、大分県)、未収金や貸付金等の債権・税収(石川県、京都府、鹿児島県)といった財務事務の適正性に着目した基礎的なテーマも複数見られます。これらは行政実務の基礎的な領域であり、制度運用の適切性や内部統制の実効性を点検するという意味で、安定的に選定されやすいテーマといえます。

 公の施設の管理や病院事業といったテーマは、前述の社会課題の影響が顕在化した領域といえます。人口減少や高齢化の進展により、需要構造が変化する中で、過去の人口規模を前提として整備された施設や事業は、収支バランスや稼働率が不安定になってきています。公有資産については、人口減少が進む地域が増加する中、耐用年数の経過による陳腐化、稼働率の低下や遊休化、保全コストの増大といった問題が顕在化しています。これらは個別の施設管理の問題というよりも、過去の需要を前提に形成された資産ストックと、現在の利用実態との乖離に起因する構造的な問題です。施設は容易に廃止や縮小ができず、維持管理費は継続的に発生するため、利用者の減少と相まって単位当たりコストは上昇し、財政負担は重くなります。

 病院事業についても、地域医療を維持する必要性と経営の持続可能性との間で調整が求められるなど、構造的な制約を抱えています。人材確保の難しさや診療報酬等の改定などにより、収支の均衡を図ることが難しい状況が生じやすくなっています。これらの分野においては、個別の業務改善やコスト削減といった対応だけでは限界があり、配置や規模、機能の見直し、すなわち統廃合や再編といった抜本的な対応が論点となります。しかしながら、これらは住民サービスへの影響も大きく、行政内部だけでは判断が難しい側面を有しています。

 その意味で、これらのテーマが選定されている背景には、単なる事務の適正性の確認にとどまらず、財務体質の改善や資産の持続可能性といった、より根源的な課題を可視化したいという意図が行政側にもあることが推察されます。外部監査は、これらの構造的な問題に対して、現状の管理や意思決定がどのような前提の下で行われているのかを明らかにし、今後の議論の土台を提供する役割を期待されているといえます。

都道府県 テーマ
北海道 北海道と北海道信用保証協会との損失補償契約
青森県 青森県警察に係る事業管理及び財務事務の執行について
岩手県 観光の振興に関する施策に係る財務事務の執行について
宮城県 子ども・子育て支援事業に関する財務事務の執行について
秋田県 観光に関する施策の財務事務の執行について
山形県 県が設置している高等教育機関に係る財務に関する事務の執行及び事業の管理について
福島県 保健福祉事業の財務事務の執行及び事業の管理について(障がい福祉施設及び介護人材確保事業を中心に)
茨城県 農林水産部の財務に関する事務の執行及び経営に係る事業の管理について
栃木県 公の施設の指定管理事務の執行について
群馬県 水道事業及び下水道事業に係る財務事務の執行及び事業の管理について
埼玉県 子育て支援の充実に関する事業の管理及び財務事務の執行について
千葉県 社会教育施設の維持管理運営及び社会教育事業に係る財務事務の執行並びに関連する出資団体の出納その他の事務の執行について
東京都 環境局の事業に関する事務の執行及び公益財団法人東京都環境公社の経営管理について
神奈川県 試験研究機関の財務事務の執行について
新潟県 県有施設(文化及びスポーツ関連施設等)の管理に関する財務事務の執行について
富山県 地方創生事業に係る財務事務の執行及び事業の管理について
石川県 貸付金(関連する未収金を含む)及び債務保証・損失補償に関する事務の執行について
福井県 障がい福祉事業に係る財務事務の執行について
山梨県 環境保全対策に関する財務事務 (林政に関する事務・事業を除く)の執行について
長野県 一般会計における補助金等の事務の執行について
岐阜県 外郭団体に対する事務の執行について
静岡県 DX推進の施策に係る財務事務等について
愛知県 工業用水道事業に関する財務事務の執行について
三重県 県営住宅に関する事務の執行について
滋賀県 病院事業(県立病院)に関する 財務事務の執行について
京都府 収入確保策と未収金管理に関する事務の執行について
大阪府 地方独立行政法人大阪府立病院機構に関する財務事務の執行及び経営管理について
兵庫県 県立試験研究機関に係る財務事務の執行及び事業の管理について
奈良県 観光振興施策及び産業雇用振興施策に係る財務事務について
和歌山県 和歌山県公共施設等総合管理計画の実施状況及び県有資産の維持管理運営に関する事務の執行について
鳥取県 県立病院に関する財務事務の執行及び 事業の管理運営について
島根県 防災に係る事業に関する財務事務の執行について
岡山県 特別会計に関する財務事務の執行について
広島県 広島県の産業イノベーション推進に関連する事業に係る財務事務の執行及び事業の管理について
山口県 人口減少を克服する産業・地域振興関連施策に係る財務事務の執行について
徳島県 労働力不足対策に関する事業全般について
香川県 環境の保全に関する財務事務の執行について
愛媛県 産業振興政策に係る財務事務の執行及び管理について
高知県 公有財産の管理及び有効活用について
福岡県 防災に関連する事業に関する財務事務の執行及び事業の管理について
佐賀県 農業行政に関する財務事務執行及び事業管理について
長崎県 人口減少対策に関する事務の執行について~社会減対策を中心に
熊本県 環境保全対策に関する財務事務の執行について
大分県 県単独事業(補助金及び委託料)に係る財務事務の執行について
宮崎県 教育及びその振興に関する事務の執行について
鹿児島県 県税の賦課徴収に係る事務の執行及び管理状況について
沖縄県 沖縄県PDCAの検証内容について

 

 

 

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貞閑公認会計士共同事務所 公認会計士

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