ガバナンスTOPICS【イベントレポート】
【公共の未来】これからの地域課題を解決する「連携」について議論/イベントレポート
NEW地方自治
2025.03.26
目次
(『月刊ガバナンス』2025年3月号)
【連載一覧はこちら】
【ガバナンス・トピックス】
これからの地域課題を解決する「連携」について議論
──『公共の未来』出版記念イベント~産官民学連携による地域の課題解決と公共の未来~
グラビス㈱は12月17日、同社代表取締役・古見彰里さんの著書『公共の未来──2040年に向けた自治体経営の論点』の出版記念イベントを東京で開催した。当日は自治体関係者、民間企業の関係者、学識者らが登壇し、本書のテーマである“公共の未来”について、各領域間の連携を軸に話し合った。
これからの公共サービス
『公共の未来』出版記念イベントはリアル参加限定の形式で、福岡市・大阪市・札幌市・東京都中央区の全国4都市で開催された。
「これからの公共サービスの提供スキームを考える」をコンセプトに、パネリスト・参加者問わず、“公共の未来をともに考える同志”と出会える場を目指したイベントです。

今回の東京開催でのセッションテーマは「産官民学連携による地域の課題解決と公共の未来」で、当日は官民問わず多くの人たちが会場に集まった。
2040年に向け、これからの公共を考える場となった。
『公共の未来』著者・古見彰里さんによる開演挨拶
プログラムは、『公共の未来』著者の古見彰里さん(グラビス・アーキテクツ代表取締役)による開演の挨拶から始まった。高齢者の絶対数がピークを迎える2040年ごろには、生活保護や孤独死などの社会問題が急増し、これに対応する公共サービスのニーズが高まるだろうと指摘。そのうえで、「近年、地域コミュニティや親族間のつながりなど、人間関係が希薄化してきている。それらが担っていたセーフティネットとしての役割を今は行政が代替しているが、職員のなり手が年々減っている中でこの状態を維持し続けるのは難しい。公共サービスの新しい供給体制をつくっていく必要があるだろう」と問題提起した。これを踏まえて、「行政だけが公共サービスの担い手になるのではなく、民間の方々・地域の方々も一緒に供給側に回り、サービスを維持していく形が求められるのでは」との見解を示した。
“ひと”が主役 みんなでつくる“としまの未来”
続いて、高際みゆき・東京都豊島区長が登壇。「“ひと”が主役 みんなでつくる“としまの未来”」と題し、豊島区における官民共創の取り組みについて説明した。
高際区長はまず、区政の基本姿勢として
①(これまでの区政の継承・発展)大事なものを大切に未来につなげる
②(子ども・若者・女性の)声を受け止め声をつなげる
③(誰も取り残さない)人・地域・企業がつながり今日を超える
──の“3つのつながる”を紹介。
例えば②では、「待っていても声(情報)はやってこない」として、まず行政側からの情報発信を積極的に行うことや、若者とより距離が近い大学生との協働等を通じ、声を届け・拾いにいく体制を整えているという。
さらに、区の具体的な取り組みである子どもレター、区民による事業提案制度、すずらんスマイルプロジェクト、「TEAMとしま」、池袋エリアプラットフォームなどを紹介。
このうち「TEAMとしま」は、区内の305の企業や団体が集まり、区をよりよくするため何ができるかを考える産官学連携コンソーシアムで、行政と企業のみならず企業同士でもタッグを組みながら、多くのアイデアを創出しているそうだ。チームの活動をとおし実現したものの一つが、ブレイクダンスやMCバトルなどのストリートカルチャーを集めた祭典『TOSHIMA STREET FES』。高際区長は「行政だけでは思いつかない発想」と、共創の手ごたえを示した。
地域のあり方を考える
産官民学連携
次に武蔵大学社会学部教授の庄司昌彦さんが、産官民学連携をテーマに発表を行った。庄司さんは古見さんの論点と重なる部分も示しつつ、「2040年には社会の前提が変わる。デジタルインフラ等のソフト面・道路や建物等のハード面の両方で、行政と民間とのパートナーシップが重要になっていくだろう。
DXでもX(トランスフォーム)が大事だとよくいわれるが、もののあり方を変えるのは非常に難しいこと。2040年までの残り15年、先頭に立って社会を変えていくのは、国ではなく地方や民間なのだという意識をもって取り組まないといけない」と力を込めた。
武蔵大学教授の庄司さんは、情報社会学の観点から議論を展開。
自治体組織の課題・副市長時代に行った施策
続いて、民間での勤務を経て、公募から大阪府四條畷市の副市長を務めた経歴をもつ林(小野)有理さん(有理舎主宰)が、自治体組織の課題と、副市長時代に行った施策等について説明した。企業において“経営戦略”にあたるものを自治体組織内部で掲げ、そこに政策とデータを紐づけ回していくことで、社会増や採用基準・人事評価方法の刷新、働き方改革、デジタル化の推進など、多くを実現したという。
林さんはそうした四條畷市での成功事例を多くあげる一方で、「自治体はその規模や地域特性により、人材要件と組織要件の課題感がまるで異なる。民間の方々には、そうした違いを理解し、その土地に合った官民連携のあり方を考えてもらえたら」とつけ加えた。
登壇者全員でのパネルディスカッション
最後は登壇者全員でパネルディスカッションを実施。林さんがモデレーターを務め、いくつかのテーマについて話し合った。
パネルディスカッションの様子。いくつかのテーマ分けて意見を交わした。
消滅可能性都市脱却と官民の連携
2014年、豊島区は東京23区で唯一の「消滅可能性都市」になった。当時の思いや対策について聞かれた高際区長は「衝撃的な内容だった。とにかく子どもが育てやすいと思ってもらえる区を目指した。民間との共働も多く行う中、重要だと感じたのは『行政ができないこと』をしっかり伝えていくこと。その困りごとに対して『できます』と手をあげてくれた民間の声をのがさないよう、積極性とスピード感をもって動くこと」と話した。
古見さんは民間の視点から「連携のうえでは行政がミッションを明確にし、手段は民間と一緒になって考えていくことが大切だろう。他方で民間には、利益の追求にとどまらず、主体的に地域を考えていく姿勢が求められる」と論じた。
官民学が連携・分担した社会問題の解決
このテーマでは、“ミッション・ビジョン・バリューを明確化するには?”という問いがあがった。これに対し庄司さんは、「明確というのはつねに問いかけているということ。社会構造が変化する中、“本当にこれでいいのか”と疑い、吟味しながら考え続けることが明確化につながるのでは」と考えを示した。
新しい公共とデジタル
このテーマにおいても庄司さんは、「自治体での生成AIの利用事例等を見ていても、面白いと感じるものは少ない。人口が減っていく中、テクノロジーを活用する。その仮説形成に必要な発想力は、人間の側がしっかりと磨かなくてはいけない」と、独自の目線で指摘した。
本イベントは公共の未来について、職種や立場を超えて議論し、共有し合う場となった。
(本誌/森田愛望)