「新・地方自治のミライ」 第56回 議会選挙のミライ

NEW地方自治

2024.07.05

本記事は、月刊『ガバナンス』2017年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 第2次安倍内閣は、2017年9月28日に衆議院を解散し、10月10日公示、10月22日投票の総選挙が行われた。市区町村を中心とする自治体は、実質的な国の下部機関として、選挙の執行をしなければならない。このため、様々な自治体の業務は阻害される。もちろん、国政選挙の執行は重要であり、選挙事務の負担の観点から、総選挙をすべきでないとはならない。民主主義に費用はかかるのはやむを得ない。しかし、ある程度の時間的な見通しを含めた段取り(予見可能性)の保証は、為政者の責任である。ともあれ、今回は総選挙について、自治体との対比関係という視点から論じてみたい。

解散権濫用制限法理

 戦後日本では、解散権は「首相の専権事項」などと呼ばれ、いわゆる7条解散が常態化している。しかし、もともと議会解散とは、専制君主が自由主義・立憲主義的に異論を唱える議員に対して、懲戒解雇(散)的に行うものである。その意味で、先進諸国では、首相の専制的・恣意的な議会解散権を縛る「解散権濫用制限法理」とでも呼ぶべき制度が構築されてきた。

 通常、西欧の議院内閣制では、次期選挙の時期が予定される。そもそも、戦後日本でも解散権は合議制の内閣にあり、首相個人にはない。また、アメリカのような権力分立型の大統領制の国では、そもそも議会解散が想定されない。議会は任期ごとに自動的に選挙となる。

 実は、日本の自治体でも同様であり、議会解散権は首長には専権的に与えられていない。あくまで、首長不信任を議決したときのみ、首長には解散権が認められる(地方自治第178条①)。あるいは、議会が5分の4の特別多数決で自主解散をできるのみである(地方公共団体の議会の解散に関する特例法第2条①②)。いわゆる「阿久根市長暴走」においても、竹原信一市長は抵抗する議会を解散できなかった。また、東京都議会冒頭解散を公約に掲げて当選した小池百合子知事も、議会解散はできなかった。自治体では解散権濫用制限法理が制度化されている。自治体に比べて、国政は低劣な状態にあることが明らかであろう。

 戦後日本において、解散権が「首相の専権事項」とされたのは、あくまで、自民党派閥システムや中選挙区制のもとで、首相個人の政治指導力がある程度縛られてきた「強い与党・強い派閥・弱い首相」への、カウンターバランスの慣行に過ぎない。しかし、小選挙区制・内閣機能強化によって、首相・政権・官邸の権力が著しく高まった今日においてまで、解散権濫用制限をしないのは、バランスを失している。

議会招(召)権濫用制限法理

 「阿久根市長暴走」においては、市長は議会を招集せず、専決権を濫用することを繰り返した。専制君主が自由主義・立憲主義的に異論を唱える議会を疎ましく思い、議会を召(招)集しないのは有り得る。絶対権力者と議会は相性が悪い。

 戦後日本では、4分の1以上の議員の請求によって、首長に議会招集を請求できた(地方自治法第101条③④)。しかし、首長が招集しない想定外の事態の手当が、法制化されておらず、阿久根市議会が招集されない状態が続いた。そこで、議員請求に対して首長が議会を招集しない場合には、議長が議会を招集できるように、2012年に制度改正がなされた(地方自治法第101条改正後⑤⑥)。

 議会不招集は、議会懲罰解散と同様、為政者の恣意的専制の表れである。権力者は、自己都合で議会を招集し、自己都合で解散・不招集をしたがる。それゆえに、濫用を防止し、義務的定例会や通年議会のように、首長の判断によらずに議会を開催することが重要なのである。

 この点も、国政は低劣である。議員の4分の1以上の請求があった場合には、内閣は国会(臨時会)の召集を決定しなければならない(憲法第53条)。しかし、その期日が憲法上定められていないので、第2次安倍内閣は不召集を続けた。もちろん、憲法に定められた常会は、年1回は開催されるが、それでは臨時会の召集請求はできないのと同じである。そして、首相の解散権濫用が為されれば、いつまで経っても国会は開催されない。もちろん、総選挙後には30日以内に特別会が開催され(憲法第54条)、召集された特別会で内閣は総辞職しなければならないが(憲法第70条)、特別会冒頭で総辞職直前に内閣が解散権を濫用すれば、永遠に国会は開催されない。

二重の小選挙区制の弊害

 以上のように、自治制度の方が国政制度より優れているが、政治運用では、自治体政治でも濫用は可能である。それが首長政党である。首長が、自らの息の掛かった議員を首長政党として組織し、議会の(相対)多数を占めることで、実質的に専権的な自治運営が可能になる。その起源は橋下徹・大阪府政である。「維新の会」勢力として、大阪「府市合(ふしあ)わせ」に繋がった。この波及形態が、小池百合子・東京都政における「都民ファーストの会」である。都議会選挙で首長政党によって勝利し、一強都政を生み出した。

 制度によって政治を押さえきることはできない。しかし、制度がそれを助長するか否かの差異はある。実は、都道府県議会では小選挙区(1人区)が多いことが、相対的に首長政党の助長を促している。逆に、政令指定都市は行政区別の中選挙区制のため、首長政党の伸長は相対的に抑えられる。橋下徹・大阪市長の下でも、大阪市会では「維新の会」は府議会・都議会ほどの占有はできない。さらに、一般の市区町村では全域一区の超大選挙区であるため、首長政党による権力掌握はほぼ不可能である。市区町村選挙区制度の都道府県議会は、数多くの1人区を内包することによって、首長支配を助長しやすいのである(注1)

注1 但し、中選挙区制が中心で1人区の少ない都議会でも、首長政党の優位を作ることはできたので、必ずしも制度は万能ではない。とはいえ、2人区が多いことは首長政党に有利に作用した。

 さらに、この弊害は、小選挙区制を基本とする衆議院に向かって逆流現象を起こす。小選挙区制は、大政党に有利であり、為政者の「選挙独裁」を助長しやすい制度である。小選挙区制は、理屈上は圧倒的な一党支配制をも生み出す。なぜならば、現職与党候補が有権者分布の中央部分を掌握してしまえば、対立候補は分散する周辺部分にいくら働き掛けても当選可能性はないからである。小選挙区制が、全国的な二大政党制を自動的に生み出すなどというのは、全くの机上の空論である。

 現実に起こるのは、選挙区ごとの一党支配体制(または二党対立体制)である。これは、特定地域に地盤を持つ政党の割拠を可能とする。全国的に広く薄く支持を集める政党の候補者は当選しにくいが、特定地域(選挙区)で狭く厚く支持を集める地域政党は有利である。地域政党は、都道府県知事という権力者の支援を得た首長政党になるときに、強力な地盤(「領地」)を持つ。知事という「割拠領主」が、自らの「領地」に留まりながら、国政における地域政党として国政に影響を与えることを可能にしたのが、衆議院小選挙区制の作用である。こうして、一部の首長の専権政治が、国政に逆流し得る。また、首長政党を母胎とする地域政党の割拠によって、全国的二大政党制は成立しない。

おわりに

 総務省に設置された「地方議会・議員に関する研究会」は、17年7月に『報告書』をとりまとめた。それによれば、都道府県議会選挙に比例代表制を導入することを、「純粋に学術的な見地に立ち」提唱している。その意味で、現実性・実現性は乏しいかもしれない。

 上記のような、首長政党を通じた特定首長の割拠的な地域政党の国政への逆流という現状を是正するには、本来は国政での小選挙区制を廃止すべきである。しかし、現行制度で既得権益を享受している多数党が存在する限り、現実的ではない。ならば、都道府県議会選挙を比例代表制とすることで、首長政党が圧倒的にならないようにすることが、一つの対策となることを含意する。

 

 

Profile
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。

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