【特別企画】JTBの地域交流事業 地域・旅行者・社会の「三方よし」目指す
地方自治
2023.09.01
旅行業界最大手㈱JTBの企業イメージが大きく変わりつつある。これまでは旅行業のスキルを生かし、“地方創生”という言葉が一般的に使われる以前から、各地域の行政や関係団体と共同して地域の活性化事業に取り組んできた。そして現在はこれまでの取組みで得たノウハウを生かし、「交流創造事業」(※)をドメインとする企業として、新たな交流の創造で地方の課題解決に貢献する「地域交流事業」を推進。本特別企画では、「観光」を軸に「交流による持続可能な地域づくり」をプロデュースしようとする同社の新たな取組みの方向を担当役員に聞いた。
(※)「交流創造事業」は(株)JTBの登録商標です。
地方創生を目指し立ち上げた「地域交流事業」
――近年、自治体は交流人口や関係人口の増加に取り組んでいますが、御社はどう見ていますか。
檜垣 交流人口や関係人口と言われるようになったのは、国の人口減少が話題となり、各地域・自治体でも、人口減少を補うような、地域経済を活性化させる観光・交流施策を現実味を帯びた対策として推進されてきたからだと思います。そうしたなかJTBは、2006年に「地方創生に資する地域交流事業」を立ち上げました。目的は地域の皆様と連携し、魅力を高め、旅の目的地となる地域が元気になることです。
かねてから私たちは地域に眠っている資源を「タカラ」と呼んできましたが、地域に密着して各地の「タカラ」を再発見し世に出そう、日本の「チカラ」にしようという意気込みで始めたのです。
JTBは創業112年目を迎えますが、もともとは外国からのお客様を増やし、外貨獲得を目的とした「外客誘致論」を実現するために創られた会社です。そのDNAは脈々と受け継がれ、世界の方々に日本の魅力を知っていただきたいという出発点から今も変わりません。
地域・旅行者・社会が満足「三方よし」のツーリズム目指す
――「地域交流事業」では「三方よし」を掲げています。
檜垣 JTBは地方創生の一翼を担い、「観光」「ツーリズム」をキーワードに地域を元気にする活動をしています。その実現に向け地域と旅行者、社会の皆がWin–Winとなる考え方、「三方よし」(図1参照)を掲げています。これは単にお客様が来れば地域が賑わうからいい、という考え方ではありません。「三方よし」でなければ持続可能な事業や社会は創造できないと考えるからです。
――自治体とどう連携するのですか。
檜垣 JTBは各地域に専門能力を有する「観光開発プロデューサー」(図2参照)を置き、自治体の皆様と共に地域交流事業を進めています。観光開発プロデューサーは担当地域の基本情報を基に、戦略立案等に的確な提案ができます。自治体と共同の調査を実施してまず課題を抽出し、合意形成を進める中で、現状分析や戦略立案、コンテンツ開発やプロモーション、PDCAの検証までソリューションを提供し、持続可能な地域づくりの実現に伴走します。
――御社全体のノウハウと総合力は、地域づくりにどう生きますか。
檜垣 JTBの最大の強みは旅行事業にて、産・官・学それぞれのお客様との接点があり、課題の共有やソリューションの提案もし、実際のオペレーションも行っていることです。
現在、企業で3万5000社、学校や団体は85万人を旅先にご案内していますので、私どもは地域と学校、地域と企業を結びつける「つなぐ役割」(図3参照)を担えます。そのコンサルティングも含め、戦略提案からプロジェクトの実施まで、地域の皆様とも持続的なパートナーとしてご一緒できる利点があります。
地域と連携する地域交創プロジェクト
――御社が注力する「アドベンチャーツーリズム」(AT)について教えていただけますか。
檜垣 地域交流事業の取組みのひとつにATがあります。ATは「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3つのうち2つ以上が該当する旅行形態と定義されますが、その土地の自然や文化を楽しみながら高付加価値的な体験をしてもらうことが基本です。2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」にも明記され、まさに私たちが取り組んできた活動が花開く段階に入ってきたと期待しているところです。
9月には「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」(ATWS)という、ATの世界大会が北海道で行われます。現在、行政機関、経済団体、企業等でつくる実行委員会(会長/鈴木直道・北海道知事)が準備を進めていますが、私どももお手伝いをしています。この開催を機に皆さんにATを知ってもらいたいと思います。同時期に私どもは、国内の魅力を再発見するキャンペーン「日本の旬」を開催しますが、今期のテーマは「アドベンチャーツーリズム」としています。ATWSの開催を皮切りに全国114のコンテンツで各地へのインバウンド誘客活性化を後押しする考えです。
――地域DXへの取組みについてもお伺いできますか。
檜垣 地域DXは持続可能な地域づくりに向けた重要な取組みです。わかりやすい例として「チケットHUB」(電子チケット)が挙げられます。 熊本県小国町の鍋ヶ滝公園は美しい滝が人気で、1日に3000人が訪れて交通渋滞を引き起こし住民の方々が迷惑したという事情から、チケットHUBで予約時間制に移行させて渋滞緩和を実現しました。課題が解決されたことで地域の方々にも喜んでいただき、観光への理解も進みました。まさに「三方よし」ですが、単なる課題解決で終わらないよう、「どの時間帯が多いのか」「どこから来ているのか」等の来訪者データを把握・分析ができれば新たな提案につながります。そこが地域DXの特性ですし、その力を地域の変革に結びつけていきたいと思います。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
檜垣 私どもは「JTB地域交創プロジェクト」を始めています。「交創」とは「交流を創造する」ことですが、これは主体的に地域の皆様と連携し、交流の力によって地域課題を解決するプロジェクトです。これからもその取組みのなかで、自治体の皆様のパートナーとして「三方よし」を実現し、持続可能な社会をともにつくり出したいと思っています。
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