前橋市:固定資産税における航空写真AI解析クラウド実証(特集:自治体における先進的なAIの取り組み)

地方自治

2021.11.15

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2021年11月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

前橋市:固定資産税における航空写真AI解析クラウド実証
(特集:自治体における先進的なAIの取り組み)

前橋市未来創造部情報政策課長 岡田寿史

月刊「J-LIS」2021年11月号

1 はじめに

 固定資産税業務では、公共測量として撮影した航空写真や公図から課税客体を把握し、実地調査を行っています。課税客体把握の手法としては主に2つあり、1つは職員が目視で航空写真の比較を行うもので、もう1つが業者への委託です。

 まず、職員が航空写真の比較を行う場合では人数の制約により、単年度では市内全域を比較することができず、地区を絞り数年にかけて調査を行っている状況であり、また職員のノウハウの継承が難しく職員によって判別に差異が生じることもしばしばあり、均一の精度を保つことが困難でした。一方、業者への委託では、最新の航空写真と数年前の航空写真を比較して、高低差からおおよその差分の抽出が可能ですが変化を明確に示すには至らず、最終的には人による目視比較を経るため、実地調査の終了までには時間がかかるといった課題があります。このように、いずれの手法においても航空写真を基に最終的には人が判別するため、省力(時間)化には限界があります。

 そこで、本事業では家屋の異動識別ソリューションをクラウド上に構築(実証1)し、対象領域抽出AIと異動識別AIの改善を図ることで、2時期の航空写真等のインプットデータ(以下「航空写真等」という。)から家屋の経年変化を自動で識別(実証2)します。また並行して、家屋以外の地物種別の課税客体の領域抽出(実証3)も行うなど、これらの複数の航空写真AI解析ソリューションを構築するために4市共同で実証実験を行いました(図-1)。

図-1 事業概要図

 さらに、実証実験の共同提案団体である愛知県豊橋市を幹事団体とした、愛知県岡崎市・群馬県前橋市・群馬県高崎市・群馬県伊勢崎市の5市による、2020年度自治体行政スマートプロジェクトと連携した取り組みとすることで、多くの団体のデータを持ち寄ることによる汎用的に活用できるAIの効率的な開発と、多くの団体担当者の視点から得られる業務プロセス改善を組み合わせ、相乗効果を生み出すねらいもありました。

2 航空写真AI解析ソリューションの概要

 実証実験で構築した航空写真AI解析ソリューションは2つのサービスで構成されます(図-2)。1つは、最新と過去分の2時期の航空写真等から家屋の異動識別結果を提供するサービスで、もう1つが最新の1時期の航空写真等のみを利用した課税台帳との突合用データを提供するサービスです。

図-2 航空写真AI解析ソリューションの概要

 家屋異動識別サービスは、2時期の航空写真等を対象領域抽出AIと異動識別AIの2つのAIを使うことで、2時期で新築や滅失があったような家屋を差分として識別できます。例えば、基本的に新築や滅失があれば登記の届出がされていて、課税台帳にも反映がされていますが、未反映の家屋や本来課税対象なのにもかかわらず未届の物置やカーポートの発見にもつながります。

 課税台帳突合サービスでは、自治体から提供される1時期の航空写真等を対象領域抽出AIを用いて、土地利用状況や家屋を識別します。識別した結果を航空写真等と同時期の課税台帳やGIS上のデータと突合することで、課税誤りの発見や課税台帳上で異なる種別のままとなっているような土地の発見につながります。例えば課税台帳上では地目が「田」となっているにもかかわらず、航空写真で見ると「駐車場」と対象領域抽出AIが識別した結果を比較することで、本来は駐車場、地目でいうと雑種地で課税しなければいけなかったような土地の発見ができます。

3 航空写真AI解析ソリューションの全体像と実証実験でのポイント

 実証実験で作成したAI解析ソリューションの全体像を、業務プロセス関係図とデータフロー上で表現すると6つの工程に分けられます(図-3)。

図-3 業務プロセス関係図とデータフロー

 1つ目は自治体から提供する航空写真等をAI解析できるように画像処理を行う工程です。この工程で作成するデータが、時空間的に歪みなく平坦であることや、突合対象データと時空間的に整合がとれていることが、実証実験を成功させる最大のポイントであったことが、本事業を振り返って気づかされた点でした。また、4市の航空写真等で実証実験を行ったメリットを実感できた工程でもあります。

 2つ目は画像処理したデータをインプットとし、対象領域抽出AIが土地・家屋を抽出する工程です。3つ目は、画像処理したデータと対象領域抽出の結果から異動識別AIのインプットデータを生成する工程です。この工程で作成するデータも、突合対象データとの目的整合性がとれている状態にすることが、ポイントの2番目でした。

 4つ目は異動識別AIで家屋の異動識別を行う工程です。5つ目は対象領域抽出AIの学習用データの作成とAIのディープラーニングを行う工程、6つ目は異動識別AIの学習用データの作成とAIのディープラーニングを行う工程で、この2つの工程については、精度向上を目的としたAIのディープラーニングを実施する際に行う工程のため、航空写真AI解析ソリューションの利用時には不要となります。

4 実証結果の概要

 従来の事務の流れと航空写真AI解析ソリューションを比較すると、対象領域抽出AIと異動識別AIを利用することで、課税台帳との突合と現地調査対象の把握に至るまでの、工期短縮と費用削減が図れることが分かりました(図-4)。

図-4 従来の事務の流れと実証内容の比較

 以下では、実証実験で構築した航空写真AI解析ソリューションの、2つのサービスで得られた主な成果を分かりやすく説明します。これは、各自治体で業務プロセスが異なるため実証実験の範囲外とした、課税台帳との突合と現地調査対象の把握の業務プロセスを、前橋市で実施した結果の紹介になります。

 家屋異動識別サービスにより得られる例(図-5)では、旧時点の航空写真に家はなく、新時点の航空写真には家ができている2つの航空写真等から得られる結果として、家屋が新たにできた箇所に色塗りとプロットがされ、識別された箇所が特定できます。またプロット部分には新築や滅失といった異動識別AIの結果も出力されるため、各自治体が保有するGISの課税済みや非課税・課税対象外といった属性を持つレイヤーと重ね合わせることで、賦課状況との整合性が確認できます。

図-5 家屋異動識別の成果

 次に、課税台帳突合サービスの土地の例(図-6)では、対象領域抽出AIが差分として識別した箇所がプロットされ、付加情報として、課税種別、課税台帳の現況地目は農地で、対象領域抽出AIは駐車場と識別したということが分かり、適正な地物での課税に修正できます。

図-6 課税台帳(土地)突合の成果

 また課税台帳突合サービスの家屋の例(図-7)では、土地と同様に対象領域抽出AIが差分として識別した箇所がプロットされ、付加情報として、課税マスタのみ(対象領域抽出AIでは未検出)や対象領域抽出AIのみが検出(課税マスタなし)、といった識別結果が分かります。課税マスタで家屋があり土地種別も宅地ですが、対象領域抽出AIでは家屋が未検出であった例では、家屋の滅失漏れと住宅用地特例の適用取消し漏れを修正する例になります。反対に、課税マスタ上では家屋がなく、家屋や物置・カーポートといった課税対象が存在する例もあります。

図-7 課税台帳(家屋)突合の成果

5 今後の課題とこれからの展望

 今回の実証実験では、4市の土地課税マスタ、土地の固定資産筆ポリゴン、家屋課税マスタ、固定資産家屋ポリゴン、家屋増築データ、家屋滅失データ、地目コード対応表を用いて、教師データ1)を作成しディープラーニングを行いましたが、航空写真AI解析ソリューションの結果が乱される原因を追究すると、教師データに含まれるバイアスとして、各データ間の時間的整合性や非課税物件の取扱い方などの差分が顕在化した例がありました。ディープラーニングを実施する際には、インプットデータ2)と教師データの精度と整合性の確保が必須であることを痛感し、また今後の課題でもあると認識しました。

1)教師データ:機械学習において、あらかじめ与えられる例題と答えについてのデータ。
2)航空写真等のインプットデータ:航空写真データ、空中三角測量データ、カメラデータで具体的には、次の公共測量成果を指す。
 ①撮影画像データ(非圧縮のTIFF形式及びJPEG形式)
 ②撮影画像データ外部標定要素
 ③撮影標定図
 ④撮影記録及び撮影コース別精度管理表
 ⑤測量成果簿

 

 最後に、航空写真AI解析ソリューションの利用者は、自治体の他に、共同で航空写真撮影を行っていて併せて本ソリューションも共同で利用したいといった団体や、異動識別の業務委託を請け負う事業者なども想定できます。いずれの事業実施形態においても、航空写真を基に最終的には人が判別する従来の手法が本ソリューションに置き換わることで、省力(時間)化が進むことを期待します(図-8)。

図-8 サービス化予定内容

 

 

Profile
岡田 寿史 おかだ・ひさし
 
1990年に前橋市役所に採用。入庁以来、情報処理の業務に従事。近年では、自治体クラウドの導入を経て、複数自治体で取り組む自治体行政スマートプロジェクトを推進している。2020年度から現職となり、デジタイゼーションを足掛かりにDXの実践に取り組んでいる。

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