月刊「ガバナンス」特集記事
著者に訊く!コミュニティ自治の未来図 共創に向けた地域人財づくりへ/大杉 覚
地方自治
2021.08.10
既刊紹介
コミュニティ自治の未来図 共創に向けた地域人財づくりへ
大杉 覚/著
(発行年月: 2021年7月/販売価格: 2,420円(税込み)
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虫の目、鳥の目で見たりすると、コミュニティは違う見方ができるのではないか
リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『コミュニティ自治の未来図』─共創に向けた地域人財づくりへ 東京都立大学法学部教授 大杉 覚]
本誌連載「自治体のダウンスケーリング戦略」をベースに加筆・再構成したコミュニティ自治の在り方を展望する書。人口減・高齢化が進む中、都市部を含めて課題となっているコミュニティ自治の「躍動する未来図」を考えることを提案する。「ダウンスケーリング」(虫の目)の観点から中間支援、地域担当職員制度、地域カルテ・計画、コミュニティ財政などを論じるが、あくまで見取り図であって、「具体の実践のなかで魂を込めていく工夫が必要」と強調する。
本書では、これらに「未来志向」という時間的要素を戦略に加えること、そしてコミュニティに「巻き込む」のではなく、「ナッジ」(軽く肘でつつく)が必要だと説く。
著者の大杉覚さんは、多くのコミュニティ自治に関わり、「ナッジ」してきた行政学者。「巻き込もうとしても巻き込めていない。だからこそ巻き込まないといけない、となおさら引っ張りこもうとして、よけい抵抗され逃げてしまうことがあった」と話す。
紙背からは、簡単に答えを導くのではなく、多様な角度から自ら考える必要性がじわじわと伝わってくる。
「たとえば新型コロナによる新しい日常、行動変容の中で、コミュニティの見方、捉え方が変わってきた。都市部ではずっとコミュニティ意識の希薄化が言われ、農山村部では人口減少・高齢化で担い手がいなくなり、つながりは強いが、その強さが逆に人を押し出してしまうこともあった。また東日本大震災が起きると、今度は『絆』という、かなり強く縛り付けるようなコミュニティの発想が出てきてしまう。その時々で、近視眼的にコミュニティの在り方を考えてしまいがちだが、コミュニティはいろんなレベルで考えられる。ちょっと違う次元、まさに虫の目で見たり、あるいは鳥の目で見たりすると、違う見方ができるのではないか」と本書の狙いを話す。
いま危惧しているのは、第32次地制調が答申で出したプラットフォームづくりだという。「どこもが同じように、○╳協議会をつくればいいという展開になってしまうのは非常に危険だ。私は大学の授業でも答えは言わない。私の発言は一つの意見に過ぎなくて、学生にはそれと照らし合わせて自分で考えてもらう。『事例どおりに、横展開してくれ』なんてことも一切言わない。『巻き込む』と同じくらい『横展開』という言葉は使うべきではないと思っている」。
最後に「誰一人取り残されない」コミュニティ形成に言及。「ビジネスでは『農福連携』など、これまで取り残されてしまっている障害がある人たちを含めた動きが出ている。これはコミュニティでこそやらなければいけないことではないか」と力を込めて話す。(鉄)