知っておきたい危機管理術/酒井 明
危機管理術 新型コロナウィルスと危機管理
地方自治
2020.07.17
知っておきたい危機管理術 第49回 新型コロナウィルスと危機管理
東京福祉大学 酒井 明
① 猛威を振るう新型コロナウィルスにどのように対処するか。
日本全体がパニックのようになるのが一番怖い。全国一律休校、トイレットペーパー騒ぎ、マスクの不足の混乱を見ていると心配になる。致死率1~2%を考えればそんなに恐ろしい感染症ではない。特に政治や行政、それに事業の責任者がパニックを起こさないことである。「悲観的過ぎず、楽観的過ぎず、冷静に」対応することが危機管理の基本である。国や専門家は良いことも悪いこともすべての情報を流し、国民に正確な情報に基づいた心の準備とモノの準備をしてもらうことである。新型ウィルス対策は大地震対策とは異なり、時間とともに変化する。不確実な、刻刻と変わる状況下ではスピードある対応判断がもとめられる。
新型コロナウィルスは、新たに人間に感染するようになった7番目のコロナウィルスである。コロナとは「王冠」を意味するが、今までヒトに感染したのは6種類である。4種類はふつうの風邪、他は2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)と、2012年のMERS(中東呼吸器症候群)である。今回の新型コロナウィルスは90%がSARSに似ており、S亜種とL亜種があるという報告がなされている。
新型コロナウィルスはコウモリ由来とされているが、発生の経路には多くの疑問が寄せられている。台湾の研究者は、武漢ウィルス研究所の実験動物が武漢海鮮市場で売られたのではないか、コウモリのウィルスは人間には感染しない、遺伝子配列が違うため、人間によって人工的に加工されたものと主張している。人工的か自然変異か、原因が特定されていないことも、多くの人々がパニックに陥る原因だろう。
② 対策にミスはなかったか。
初期対策の遅れが感染拡大を生じさせた。感染源の中国の隠蔽体質で、武漢市、湖北省の対応が遅れたこと、WHOの非常事態宣言が、1月23日になすべきであったが、テドロス事務局長の中国への過度の忖度により1週間遅れたこと。この時においても「中国への渡航制限の理由は特に見当たらない」といったのは驚きであった。非常事態宣言を受けて、日本はようやく武漢を含む湖北省からの渡航を制限した。この時点で、米国、ロシア、台湾、ベトナム、北朝鮮は全中国からの入国を禁じている。日本が限定的に渡航制限した時点で、武漢が閉鎖されるのを感知した多くの市民が既に中国全土に移動していたのである。
③ 家庭や会社での対策をどうするか。
飛沫感染、接触感染であり、通常の空気感染は起きていない。ペットからは感染しない、食品を介しての感染はないといわれる。個人の段階では、マスク、石鹸等による手洗い、うがいが基本。混雑した場所を避ける、十分な睡眠、栄養をとり、免疫力をつけることが重要である。手にウィルスがついても口や鼻を触らなければ感染はしないことも自覚しよう。
会社においては、最悪のケースを想定する。複数班による交代勤務、テレワーク等の在宅勤務、1人がいくつかの業務をこなすクロス業務が重要。パンデミック時に40%前後の欠勤を想定し、勤務班と自宅待機班に分け、一定期間ごとに交代制をとる。勤務班から感染者が出たら、自宅待機班が代替要員となるような体制をとる。
また、どうしてもつぶせない中核事業を特定し、事業継続に必要な物的・人的資源をそこに集中する。大事なことは中核以外の業務はストップしてもよいが、中核事業は通常の20~30%の稼働率になろうが止めないという強い共通意思のもとに社員が一体になることである。
現在は、第1段階(海外発生段階)、第2段階(国内発生早期)を過ぎ、第3段階(感染拡大期、蔓延期、回復期)の段階である。中核事業がつぶれなければ最後の第4段階(小康期)には操業を急回復でき、中核以外の業務も再開できる。
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現在、新型コロナウィルスに有効なワクチンや抗ウィルス治療薬は存在しない。ワクチンは有精卵にウィルスを感染させて作るのが一般的であるが、培養したワクチンの毒性を弱め、安全性の確認検査をしなければならないため、急いでも6か月かかるといわれる。
大阪大学の森下教授のDNAワクチンの有効な開発報告、「シクレソニド」というぜんそく薬が数人の患者に有効であったという報告がある。また、日本が承認しているHIV薬の「カレトラ」や抗インフルエンザ薬の「アビガン」が新型コロナウィルスに一定の効果があるよう祈りたい。
人類は多くの死病と恐れられた感染症と戦って勝利してきた。新型コロナウィルスについても人類の叡智を結集し早期に勝利してほしい。