時事問題の税法学
時事問題の税法学 第37回 ネットニュース
地方自治
2019.08.29
時事問題の税法学 第37回
ネットニュース
(『税』2018年11月号)
文部科学省vs.総務省
編集者との会話で、新聞を読まなくてもニュースに精通している人は多いのではないか、と会話が弾んだ。ひとつの媒体から得るニュースの情報量から考えれば、新聞の朝刊一部に勝るものはない。しかし、広く浅いといえば語弊があるが、新聞に限らず、多くのメディアからのニュースが提示されているネットニュースの意義も評価すべきかもしれない。
そんな折、都内の私立大学教授である後輩から、ネットニュースのURLが2つ送られてきた。ひとつは、横浜市に本社がある神奈川新聞社が、9月27日午後に配信した、「ゴルフ場利用税堅持を箱根町議会、全会一致で意見書」という記事である。神奈川県箱根町議会9月定例会は26日、議員発議で上程された「ゴルフ場利用税の堅持を求める意見書」について全会一致で可決した。町内にゴルフ場は8か所あり、17年度は1億447万円の交付があった。本年度も1億1千万円の歳入を見込んでいる。意見書は首相や衆参両院議長などに提出される、という。
すでに本連載でも触れたが(本誌2016年5月号)、毎年、税制改正の審議がスタートすると、このゴルフ場利用税の廃止を要望する文部科学省や業界団体に対して、自治体財政を背景に存続を主張する総務省との攻防が始まる。
ゴルフ場利用税はゴルフ場が点在する自治体には大きな税源であるが、関東随一の温泉観光地である箱根町では、入湯税の存在も忘れられない。箱根の観光名所のひとつである大涌谷の火山活動の影響による観光客の減少で入湯税の税収が、当初見込みの6割程度に止まり、箱根町の15年度決算は赤字転落の危機と報道されたのも記憶に新しい(読売新聞2015年10月2日)。箱根町の15年度の町税収入のうち入湯税は12%に当たる約7億円を見込んでいたというから観光客の減少は痛手だった。
ゴルフ場利用税や入湯税は、もちろん地域住民であっても課税されるが直接、首長や議員の選挙に関係ない地域への訪問者が負担する割合が大きい。この2税は、いわゆる法定外税が制定される前からの税であることから、ゴルフ利用税に対する反対は強いが、納税者は粛々と負担している。
各地で進む宿泊税導入
後輩が送ってきたもうひとつのニュースは、福岡市に本社を置くテレビ西日本が同じく9月26日に報じたニュース映像・解説であった。宿泊税の導入をともに検討している、福岡市と福岡県の協議が26日、初めて行われ、議論は平行線をたどった。宿泊税をめぐる初めての協議は、福岡市の担当者が県庁を訪れ、午前10時から行われた。宿泊税の導入を盛り込んだ福岡市の条例案は14日、市議会で可決され、市は同じく導入を検討している県に対し、二重課税になるおそれがあるとして、慎重な検討を求めていた。26日の協議で県は、市の手続の進め方について、「あまりにも拙速」と不快感を示し、議論は平行線をたどった。
そういえば、10月1日から、京都市では、市内のホテルや旅館などの宿泊者に宿泊税が課税される。すでに東京都、大阪府では宿泊税が導入されているが、京都市の宿泊税は、民泊を含むすべての宿泊客からの徴収という初めての試みである。
京都では、「観光客が市内にとどまる時間が延びて波及効果を生む一方、交通インフラの混雑緩和や文化財・景観の保護強化が急務となっていた」が、宿泊税の導入により「宿泊者が減る懸念もあるが、行政サービスの対価として課税は妥当」との意見もあり、「インフラを享受する宿泊者への課税は一つの選択肢」と当局者は話している(日経新聞10月1日)。
租税の応益負担か応能負担かの議論はさておき、京都ではかつて、神社仏閣の拝観料にプラス課税するいわゆる古都税が、特別徴収義務を負わされた京都仏教会の反対で廃止に追い込まれた歴史がある。信教の自由という憲法論にも発展した経緯があった。この夏、京都は豪雨の被害に見舞われた。千年の昔、賀茂河の水、双六の賽、山法師にお嘆きになったという白河法皇の逸話が思い出される。