時事問題の税法学 第33回 職業と見識とモラル

NEW地方自治

2019.08.26

時事問題の税法学 第33回

職業と見識とモラル
『税』2018年7月号

譲渡所得課税

 本誌連載中の「税法基本判例を再読する」の2018年5月号でも紹介したが(最判昭和50年5月27日)、離婚に際して夫が妻に財産分与をした場合には、妻に、例えば贈与税などが課税されるのではなく、夫に対して譲渡所得が課税されることになる。この判例にまつわる有名な話がある。

 時はバブル経済の頃であるが、銀行員の男性が長年連れ添った妻と離婚する際に、東京都新宿区内の自宅を妻に財産分与した。離婚の原因は、当時の報道では、「オフィスラブの果て」とされていたが、いまなら「社内不倫」ということだろう。妻は引き続き子ども2人と自宅に住むことを離婚の条件としたようで、妻は直ちに所有権移転の登記を済ませた。

 ところが、男性は、職場の上司から課税されることを聞かされ驚愕する。試算によれば、およそ2億2000万円もの所得税の負担となった。そのため男性は、錯誤を理由に登記無効を提訴したが、1審、控訴審とも男性の主張は斥けられた。ところが、最高裁は温情を示し、高裁に差し戻した。最終的に差し戻し控訴審で男性の主張は容認された。この最高裁平成元年9月14日の温情判決には、非難が集中したが、それはさておき、興味深いのは、男性の主張を斥けた当初の控訴審東京高裁昭和62年12月23日判決の判断である。判旨では、財産分与が譲渡所得課税の対象となる前述の最高裁判決は確定した判断であると言及したことである。つまり税務の常識という認識である。妻側が、夫は銀行員として仕事柄、税務の知識があると暗に反論していたから、裁判所も同調したかもしれない。事実、課税を指摘した上司は認識していた。となるとすれば、本誌の読者は税務に関する知識が豊富であり、課税側の論理を意識した行動を要求される可能性がある。

所得税法違反

 地方税務職員の違法行為を、職務と意識の見地から糾弾した大阪地裁平成30年5月6日判決は、残念というよりいささか情けない。競馬の払戻金を申告せず約6200万円を脱税したとして、所得税法違反罪に問われた大阪府下の自治体職員に対して、懲役6月・執行猶予2年、罰金1200万円の有罪判決が言い渡された(争点のひとつに事件の端緒になった銀行口座の調査方法の違法性があるが本稿では触れない)。

 被告と呼ばれたこの地方税務職員は、平成24年と平成26年に、JRAのWIN5(5レースすべての1着を当てる馬券)を的中させ、1レースで約2億3000万円を獲得するなどし、あわせて約4億3000万円の払戻金を手にした。しかし、平成24年分及び平成26年分の所得税確定申告では、この馬券の払戻金収入を所得から除外しことから、所得税法違反の疑いで大阪地検に告発された。

 裁判所は、被告に対して、「馬券の高額配当の払戻しを受けてから具体的な税額を計算するなどし、所得税の納税義務があることを確定的に認識しながら、2か年分にわたり、虚偽の過少申告を行っている……申告時においては、市役所で課税担当部門に所属するなど、納税者の模範となるべき行動が求められる立場にいたにもかかわらず、多額の税金を免れたものであって、厳しい非難は免れない」と言及した。それもそのはずである。被告は、税務部門の課長という要職にあった。

 この事件は、銀行口座にJRAから多額の入金があったことから発覚した(それ故銀行口座の調査方法も争点となった)。確かに、窓口で馬券を購入すれば匿名性が高いことから、課税は露見しない。課税の公平という見地からすれば不公平感はあるだろう。しかしながら、いわゆる馬券事件について最高裁平成27年3月10日判決が出るまでもなく、高額な馬券払戻金脱税は、競馬ファンならずとも話題になっていた。職業倫理を問う前に認識不足といわざるを得ない。

 本稿を書いているとき、「仮想通貨長者、国税がマーク…申告漏れ許さず 国税当局が仮想通貨の取引で多額の利益を得た投資家らの情報収集を進めている」(読売新聞6月6日)という記事が眼に付いた。次は仮想通貨である。

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