自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[100]「311変える会」の緊急院内集会~災害時に機能する法制度改正を~
NEW地方自治
2025.02.26
※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
緊急院内集会
2024年6月4日朝、岩手を拠点に活動しているグループ、「3.11から未来の災害復興制度を提案する会」(以下、「311変える会」)は、衆議院第二議員会館において、【緊急院内集会「一人ひとりを大事にし、だれも取り残さない被災者支援制度を求める」能登半島地震の現状と課題から】を開催し、超党派の国会議員に法改正の要望を行った。当日は、与野党の国会議員が18人も参加した。
「311変える会」は、劣悪な避難所環境等の原因に、法制度の不備があることを訴えている。たとえば、「災害救助法に福祉が規定されておらず、配慮が必要な人ほど厳しい環境におかれる」「平時は民間が担い手なのに、災害時は慣れない自治体が担い手になる」「社会保障のプロが被災者支援で活動することになっていない」のが現状だ。
大災害時には、被災者が困りごとを自ら訴えることは難しい。行政などが相談所を作って待っているだけでは不十分だ。そこで、支援者がアウトリーチ活動により被災者を訪問して課題を把握し、関係する機関と連携して支援を行う「災害ケースマネジメント」を制度的に広めようと活動している。残念ながら、能登半島地震の被災地では、自治体に災害ケースマネジメントを想定した計画が無かった。このため訪問支援を実現するまでに2か月かかっている。
「311変える会」は、主に以下の法制度改正を求めている。
(1)個人の尊厳を災害対策の目的にし、福祉を災害救助法に位置付ける
(2)民間と連携した被災者支援を基本とする
(3)社会保障関係法に被災者支援を位置付け平時から人材育成を行う
私も100%、強く同意している。
命と尊厳を守る防災政策とは
当日、「311変える会」から、いま、必要な防災政策について話してほしいという依頼を受けたので、冒頭に、7分間のプレゼンをさせていただいた。最初に、能登半島地震の教訓をはじめ、地震防災の被害を最小化する政策の全体像を示した。
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院内集会では、筆者も登壇しプレゼンした。
このうち、本稿では住宅耐震化、要配慮者支援、被災者支援センターについて紹介したい。
住宅耐震化について
地震防災において特に重要なのは、住宅の耐震化である。この問題を避けて、他の対策をいくら充実させても災害直後の被害は少なくならない。
奥能登地方では住宅の未耐震化率が5割を超えていて、大きな被害をもたらす原因となった。耐震化推進は難しいと言われるが、高知県の未耐震化率は13%である。特に黒潮町は設計費30万円、改修工事費125万円までは自己負担がない。このため、耐震改修を希望する人は誰でも改修工事ができる。毎年、150件のペースで耐震化が進んでいる。
現状、ほとんどの自治体の耐震化助成には2分の1から3分の1の自己負担がある。自助のできる経済力のある人はさらに公助を得て耐震改修できるのに、自助のできない低所得者は置き去りにされている。これが公正と言えるだろうか。
福祉的に考えると困窮度に応じて公的支援がなされなければならない。高齢で所得が少ないなら、黒潮町のように一定額までは全て公助で行うべきである。それが、地震災害から命、まちを守る根本対策だ。
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要配慮者支援
75歳を超えると要医療、要介護の人が増えてくる。その75歳以上の人口は阪神淡路大震災が発生した30年前には700万人強であったが、今では2千万人を超え、約3倍に増加した。日常生活の厳しい要介護(要支援)認定者数だけで700万人にも上る。この方々は日常生活がとても厳しい。
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出典:日常生活圏域ニーズ調査モデル事業・結果報告書
平成22(2010)年10月厚生労働省老健局
日常生活で支援が必要ということは、災害時の避難、避難生活はより支援が重要であり、これが滞ると命にかかわる。しかし、現実には災害時には日常よりも支援が弱くなっていないだろうか。
そこで避難支援が適切に行われるためには、いつ、どこに、誰と、どうやって、避難するかを決めて訓練する「個別避難計画」の作成が市区町村の努力義務とされたのである。また、避難生活支援においては、福祉支援が必要な人には、施設であれ、在宅であれ福祉BCPにより災害後の福祉支援が継続される。また、福祉支援の有無にかかわらず、支援が必要な方には災害ケースマネジメントの手法を取り入れて継続的に自立支援を行う。
このように、制度的な建付けができたところではあるが、能登半島地震においては十分な成果を上げているとは言えない。
5月23日に石川県が公表した関連死の状況を表3のような記述がある。これが、日本の災害現場のリアルである。
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被災者支援センター
今年4月3日に台湾・花蓮県で大地震が発生した。このとき、3時間後にはテントや間仕切りでプライバシーに配慮した避難所が開設されたという。そして、暖かい食事が被災者だけでなく支援者にも届けられている。私も能登半島地震の被災地の避難所との違いに驚きを隠せなかった。
避難所を支える物資の多くは、行政が備蓄しているのではなく民間の慈善団体等が寄付で賄っているという。そして、災害前から官民の連携で避難所開設、物資手配の計画、訓練がなされ、その成果が出ていると聞く。
日本では、この役割を自治体が主体となって果たすが、避難所を本格的に運用したり、物資の手配には全く不慣れであり、しかも備蓄は極めて乏しいのが実情である。被災者支援を十分に行うには、自治体と民間の協働をベースにした制度設計が必要だ。たとえば、物資の備蓄は民間の物流拠点中心にし、災害時には事業者のロジスティクスを活用する。分散備蓄、集中運用をすることで、備蓄物資全体のロスを押さえながら、迅速な支援につなげていくのが今後の方向性ではないだろうか。
被災者支援についても、民間の福祉関係者がアウトリーチ活動を担い、課題発見、必要な支援につなげられる拠点及び、活動費用が必要だ。「311変える会」が訴える法改正が実現できるように、多くの方のご協力もぜひお願いしたい。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。