弁護士は、中小M&Aにかかわるべきだ! 『弁護士のための 実践 中小企業M&A ―支援のあり方・契約書作成・法務DD・PMIまで』
ぎょうせいの本
2024.10.23
ご案内書籍
こんなことありませんか?
・ 中小企業のM&Aの業務に関心があるが、これまで主に一般民事事件しか取り扱ってこなかっため、具体的にどのような業務を行うのかわからない。
・ 顧問先などから、自社をM&Aにより譲渡する際の事前の準備事項について相談されたが、何を準備すればよいのかわからない。
・ 顧問先から他社をM&Aにより取得する際の一連の手続について相談されたが、どのような手続を経るのかわからない。
・ 法務DDの依頼を受けたが、DDの進め方やDD報告書の書き方がわからない。
このたび、弊社から東京弁護士会至誠会編『弁護士のための実践中小企業M&A』を刊行いたしました。
本書には、弁護士が中小M&Aにかかわるにあたっての「契約書作成」や「法務デュー・ディリジェンス」、成約後の「PMI」まで、さまざまな実務上の留意点を解説しております。
まずは、「弁護士ってM&Aにかかわる必要があるの?」「どのようにかかわったらよいの?」といった疑問に応えるために、本書『第1章 中小M&Aとは 2弁護士による支援』(48頁から51頁)を紹介します。
2 弁護士による支援
中小M&Aに限らないが、M&Aを円滑に進めるにはM&Aの相手方となる企業の探索だけでなく、法律、会計、税務をはじめ、各分野の専門知識が不可欠である。特に、M&Aのスキームの選択、選択したスキームの実行においては、各種法律の検討やDDにおける法務リスクの洗い出し、これを反映した契約書の作成、取締役会や株主総会の対応が不可欠であり、この観点から、M&Aにおいては弁護士による支援が不可欠といってよい。 詳しくは第2章で述べるので、ここでは簡単に触れておく。
(1) 譲渡側(売り手)への支援
どの段階から弁護士が関与するかにもよるが、準備段階からクロージング、さらにはクロージング後の各段階で弁護士の役割は大きいといえる。
ア 準備段階
顧問弁護士などであれば、M&Aに関する初期相談の段階から関与することも多いと思われる。どのようなスキームが考えられるか、譲渡対象となる資産の洗い出し、資金繰りの見通し、譲受側候補の探索の方法など、具体的な手続の流れを組み立てていく作業には法的知識の裏付けが必要である。
また、M&Aの実施に際しては株主総会決議など会社法上の手続が必要となるところ、例えば一部の株主の所在が不明であったり、そもそも株主名簿が整備されておらず、株主の数自体が不分明であったりするなど、M&Aを進めるうえで支障となる事項を発見、対応することも重要な役割である。
なお、債務超過の企業の場合など、事業譲渡などの手続と破産、民事再生、会社更生等の倒産手続を組み合わせることもある。例えば、ある企業が運営する事業の中で、継続可能な事業のみを譲り渡し、残りの事業は破産手続を利用して清算する場合である。このような場合はより高度な専門性が要求されるため、弁護士が必須である。
イ 仲介契約・ FA 契約の締結
上記1(2)で述べたように、報酬体系をはじめ、契約書のチェックが重要な段階であり、弁護士の専門性が発揮できる局面である。
ウ バリュエーション
どちらかというと公認会計士などの専門分野であるイメージが強いが、評価の対象となる事実関係の把握において弁護士が関与することが正確な評価につながり、ひいては中小M&Aの手続全体を円滑に進めることに資する。
エ マッチング
仲介者・FAに依頼できる案件では弁護士が関与しない部分も多いが、具体的な譲渡先候補の属性や条件等を踏まえたうえでの採用し得る法的スキームの検討には弁護士の関与が必須といってよい。また、費用等の関係で仲介者・FAに依頼できないような場合もあり、このような場合は売り手側経営者と弁護士とが一緒になって譲受側候補の探索を行うこともある。
オ 交 渉
M&Aのスキームの選択や当該スキームに係る諸条件を検討する場面であり、弁護士の法的知識が必須といってよい。
カ 基本合意の締結
合意書の作成、検討は極めて重要であるが、同時に、その後の進行も踏まえた法的な観点からの分析が必要であり、弁護士の関与が必須である。
キ D D
DDは主として譲受側が行うことが多いが、譲受側からの要請事項を整理し、わかりやすい形で譲渡側の経営者等に伝える役目を弁護士が担うことが多い。このように弁護士が関与することで、DDの対象となる資料の提供や探索が容易になり、円滑な進行に資する。
ク 最終契約の締結
上記1(8)のとおり、M&Aの流れにおける最重要段階であり、基本合意を踏まえた内容の検討、DDの結果判明した事項の反映、クロージングを見据えた諸手続の整理など、弁護士の関与が最も求められる段階である。
ケ クロージングおよびクロージング後
上記1(9)のとおり、事業譲渡の完遂に向けた各種手続が予定されており、具体的な個々の手続において弁護士が助言することが求められている。
(2) 譲受側(買い手側)への支援
譲受側における弁護士の支援も、基本的には(1)の譲渡側と類似するが、譲渡側と比較して、譲受側の弁護士がより労力をかけて深く関与するのがDDである。譲受側にとっては、譲渡側企業が抱える法的なリスクに少なからず影響を受けるため、DDにおいて法的なリスクの有無を調査することは極めて重要である。
ここで大きな法的リスクが判明した場合には、その時点でM&Aが中止となることもあるし、逆に、十分に調査・検証ができていない法的リスクがある場合、クロージング後に大きな問題となる可能性がある。その意味で、M&Aの成否を分けるといっても過言ではなく、譲受側としても最も費用と労力をかけるポイントでもある。
法務DDの対象となるのは株式・会社組織、重要な契約、資産および負債、人事・労務、訴訟・紛争、許認可・コンプライアンス・環境問題等の分野であり、具体的な資料としては、定款、株主名簿、組織図、各種契約、資産、賃金台帳、出退勤記録、訴訟資料など多種多様な資料である。よほど小規模な企業であってもある程度のボリュームになることから、譲受側の弁護士は相応の労力と時間をかけてDDを行うのが通常である。
そして、法的なリスクが判明した場合、かかるリスクに対してどのように対処することができるのかを分析・評価できるのも弁護士である。
また、そうしたリスクを踏まえての表明保証条項の整備など、基本合意および最終契約への弁護士の関与も重要性が高い。
(3) 仲介者・FAとしての支援
上記(1)(2)はいずれも弁護士としての譲渡側・譲受側それぞれの立場における支援内容を解説したが、弁護士が仲介者・FAを兼務することも可能であり、案件によっては弁護士がそのような関与をするほうが適切である場合も少なくない。例えば、独立した仲介者・FAに依頼するにはある程度の費用がかかるが、そのような費用が負担できない場合もある。また、経営不振、さらには債務超過の状況で、仲介者やFAに依頼する時間的余裕がないこともある。
しかし、このような場合であっても、仲介者・FAが担当する業務要素が全くなくなるわけではないので、必然的に、弁護士がこうした役割も担わざるを得ないこともある。
さらに、このように必要に迫られる場合だけでなく、規模の大小にかかわらず、弁護士が仲介者・FAも兼務することで、ワンストップかつ総合的なサービス提供が可能となる案件もあるだろう。
この意味で、弁護士がM&Aに関与する場合、単に法的な観点からの検討・助言にとどまるのではなく、仲介者・FAが担当する業務分野についても一定の知見を有しておくべきであるし、上記のとおり、弁護士自らが仲介者・FAを兼務することで、より充実したサービスの提供が可能となる。