政策事例研究 vol.5 - 地域共生社会①

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2024.09.17

★本記事のポイント★
1 地域共生社会とは、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会。 2 血縁、地縁、社縁といったつながりが弱まっていることを背景に、「社会的孤立」などの課題が表面化。 3 無縁社会において人と人とのつながりの再構築を図る方策を考察する。

 今回から、現在取り組まれている地域共生社会の実現に向けて乗り越えるべき課題などについて考察したいと思います。今回は、無縁社会におけるつながりの再構築に焦点を当てたいと思います。

 

1.地域共生社会とは

 平成28年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では、子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」を実現するとされています。
 地域共生社会とは、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を指すとされています。
 このような地域共生社会が求められる理由は、「高齢化の中で人口減少が進行している日本では、福祉ニーズも多様化・複雑化しています 。人口減による担い手の不足や、血縁、地縁、社縁といったつながりが弱まっている現状を踏まえ、人と人、人と社会がつながり支え合う取組が生まれやすいような環境を整える新たなアプローチが求められています」という論述から読み取れるでしょう

 

2.社会的孤立

 かつては、血縁、地縁、社縁といったつながりによって人々の生活を支え合っていたと思います。しかし、このようなつながりが弱まっていることを背景に、「社会的孤立」や「制度の狭間」(公的支援制度が活用できない)などの課題が表面化しています。
 特に、今後、中高年齢者の単身世帯の増加に伴い、「社会的孤立」は大きな問題とされるでしょう。
 国立社会保障・人口問題研究所が令和6年4月12日に公表した「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和 6(2024)年推計-」は、次のような推計をしています。

① 平均世帯人員は、「世帯の単独化」が一層進むことにより、2020 年の 2.21 人から減少を続け、2033 年に初めて2人を割り込んで 1.99 人に、2050 年には 1.92 人となる。 ② 2050 年には単独世帯が 44.3%、2,330 万世帯になる。 ③ 65 歳以上の高齢世帯数のピークは 2045 年、75 歳以上の世帯はいったん減少した後再度増加する。 ④ 2050 年の男性高齢単独世帯の 6 割は未婚、近親者のいない高齢単独世帯が急増する。
2020~50 年の間に 65 歳以上男性の独居率は 16.4%→26.1%、女性は 23.6%→29.3%となり、特に男性の単独世帯化が大きく進む。
2020~50 年の間に、高齢単独世帯に占める未婚者の割合は、男性 33.7%→59.7%、女性は 11.9%→30.2%となり、近親者のいない高齢単独世帯が急増する。

 <考察>
 この推計どおりなら、近親者のいない高齢単独世帯が増加し、家族による支え合いが難しくなるでしょう。
 この点について、「高齢単身者、壮年未婚者、そして、ひとり親世帯は、所得や就労、さらに老後のすまいなどの面で不安を抱えているケースが多く、しかも家族による支え合いの機能が低いという点で、生活上大きなリスクを抱えている」とする論述もあります。また、「社会的孤立」と経済的困窮はつながっているとの指摘もあります
 このような「社会的孤立」を防ぐためには、人と人とのつながりを再構築する必要があります。また、単身世帯にとっては地域コミュニティが「社会とつながる場」となると同時に、公的サービスでは付与されない支援を地域コミュニティから受けられる可能性があり、地域コミュニティとのつながりが重要となります

 

3.無縁社会におけるつながり

 血縁、地縁、社縁といったつながりが弱まった無縁社会において人と人とのつながりの再構築を図る次のような活動があるとされていますが、自治体としては、どのような支援をすればよいか検討しましょう。

 今回、取材したNPOのような地域に根ざした取り組みは各地で始まっている。孤立する高齢者を見守る活動、誰もが気軽に立ち寄れるカフェを設ける活動、お祭りなどの地域のイベントを守っていく活動……。
 ひとつひとつは、とてもささいな取り組みのようにも思える。しかし、私たちには、そのことこそが、"結縁"社会への萌芽ではないか、と思えるのだ。それこそが、深刻な無縁社会の拡がりの中で感じられる希望でもある。
 たとえ、ひとつひとつは小さな取り組みであっても、地域ごとに、そうした取り組みが連携しネットワークを作っていけば、無縁社会を支えていく新たな「地域力」となっていくのではないか。そして、新しい「つながる場所」の存在が、ネットワークで結ばれることで、無縁社会を乗りこえる大きな力を生んでいくに違いない、と思えるのだ

 <考察>
 自治体としては、こうした活動を促す条件整備を行うことが考えられます。
 この点については、成功モデルなどの情報提供、資金支援、経営ノウハウの提供や共有化、利用されていない公的資産の無償あるいは低額での貸与、人的ネットワークの構築などを通じて、NPO法人を育成・支援することをあげる論述があります
 また、自治体が主体的に「つながる場所」を設置することも有効な支援です。例えば、静岡市は、高齢者等をその居住する地域の集会場その他の場所に通わせ、レクリエーション、体操、健康指導その他高齢者等の生きがいの創出又は高齢者等の孤立感の解消に資するサービスを提供する事業(S型デイサービス事業)を実施しています
 いずれにしても、住民と自治体の協働により「つながる場所」を運営することが重要だと思います。  

 

1 厚生労働省の地域共生社会ポータルサイト参照。 2 山崎史郎『人口減少と社会保障』(中央公論新社、2017年)20頁。 3 稲月正「本書の目的と基本的視座」奥田知志ほか『生活困窮者への伴走型支援』(明石書店、2014年)16頁以下参照。 4 藤森克彦『単身急増社会の衝撃』(日本経済新聞出版社、2010年)324頁参照。 5 NHKスペシャル取材班『無縁社会』(文藝春秋、2012年)339頁以下。 6 藤森・前掲書318頁参照。 7 静岡市S型デイサービス事業実施要綱参照。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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