月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2023年10月号 特集1:持続可能な地域交通を考える 特集2: 「気にしすぎ」から抜け出そう
地方自治
2023.09.27
目次
●特集1:持続可能な地域交通を考える──「暮らしの足」のこれから
地域における交通は、日々の買い物や通勤通学、通院など人々の暮らしに必要な「足」である。過疎化や人口減少などにより経営が悪化した鉄道やバス、タクシー事業者が撤退し、地域の"足"を失った「交通難民」は長らく地域の課題となってきた。近年、災害が多発する中で、輸送形態の変更や廃止などが起きている。一方で、デジタル技術を活用した交通サービスも進展し、自動運転技術やAIを活用したオンデマンド交通は実証実験から実装段階に入りつつある。果たして、「暮らしの足」をこれからも維持できるのか、考えてみたい。
■beyondコロナにおける地域交通のかたち──運転者不足を乗り越え「おでかけウェルカム社会」を実現しよう
加藤博和
地域公共交通プロデューサー
名古屋大学大学院環境学研究科教授
改正地域交通法の23年10月1日施行に伴い、より幅の広い地域交通政策を実現するための道具立てが充実する。自治体には、今後交通事業者との協働は不可欠で、さらに地域全体で大きな動きをつくりだすことが求められる。利用する人も支える人もいきいきと地域で暮らせる「おでかけウェルカム社会」にすることが、beyondコロナの地域交通の必要条件だ。
■地域公共交通のいまとこれから──交通政策をめぐる諸制度の趣旨と変遷を踏まえて/大井尚司
地域住民の生活や、経済活動を支えるうえで、移動の問題は避けて通れない問題である。しかし、自動車での移動が常態化する中、地域の公共交通はすでに「公共」交通になっていない状態にあり、それを支える担い手が担いきれない状態になっていることが追い打ちをかけている。もはや地域公共交通は「あって当たり前」ではなく「あってありがたい」存在であり、「いつか利用するから」と保険のようにお金を払っておけば残せる(残る)ものではすでになくなっている。
■地域公共交通の災害復旧と災害時における運用/吉田 樹
「平時」でも確保維持に課題を抱える「暮らしの足」を災害時やその後も持続的に確保するためには、何が必要か。鉄路での復旧を果たしたJR只見線の事例と、災害時における地域公共交通の運用指針を定めた青森県八戸市の取り組みから検討する。
■地域公共交通×デジタル──ITを活用した地域交通のこれから/伊藤昌毅
ITはうまく活かせば地域交通の高度化や高効率化をもたらすだろうが、特に自治体という立場においては、いきなりIT化された交通を求めるのではなく、交通の課題を分析し施策を立案、実行、評価するプロセス全体をITによって高度化しながら、結果的に高度な交通サービスが生み出される土壌を長期的な視点で作ることが重要になるだろう。そのためには、共通基盤としての交通オープンデータ整備と自治体の業務におけるデータ活用が重要な柱となる。
■持続的な地域公共交通の未来──支える税制と日本版シュタットベルケの可能性/諸富 徹
人口減少に向かう地域にとって公共交通は、その生き残りがますます重要性を帯びるようになる。世界各国は、様々な工夫によって地域公共交通を支える財源調達の仕組みを工夫している。第1の方法は、交通目的の課税を導入することである。第2は、ドイツのように「シュタットベルケ」(都市公社)の仕組みを用いて、内部補助により公共交通を支える方法である。
●特集2:「気にしすぎ」から抜け出そう
身の回りの人や仕事で関わる人たちから寄せられるさまざまな声や視線、各種メディアが発信する報道、ネットやSNS上に漂う数多の言葉や画像・映像。こうした情報のシャワーを浴びながら、私たちは日々暮らしています。その中で、人のちょっとした言葉に心がざわついたり、異なる情報の間で振り回されたりした経験は誰しもあるのではないでしょうか。それは、もしかすると「気にしすぎ」なのでは? ─今号では、日常生活や仕事の中で自分の軸をしっかりと持ち、気にしすぎて疲れてしまわないための心構えや方法について考えます。
■「気にしすぎる」のではなく積極的に「気にかけてみる」
──キャリアデザインに必要な二つの視点/柴田朋子
自分が何をどのくらい考え感じて生きているのかふりかえってみると、「自分のために純粋に生きている」時間が案外少ないことがわかる。かけがえのない人生を「気にしすぎ」で消耗しているなんてモッタイナイ。ぜひ、「気にしすぎ」ではなく、積極的に「気にかけて」みよう。そこから「どうすればいい?」を考えるための一歩が始まるのだから。
■周りの目に振り回されない三つのポイント/片田智也
人の目や評価が気になるのは決しておかしなことではないし、程度の差こそあれ、誰でも多少なり気にはしているものだ。とはいえ、気にしすぎて仕事に集中できないのは本末転倒である。そもそも、他人が何を思うかはコントロールできない。ここで紹介する、周りの目に振り回されない三つのポイントを参考に、自分にできることに打ち込んでほしい。
■「自分軸」をもって働くということ/石川尚子
「自分軸」は自己中心的とは全く違う。「自分軸」をもつ人は、他者にも大切な価値観があることをわかっていて、それを尊重できる。そして、全員が同意する価値観などないと自覚し、すべての人から評価を得ようとすることを手放している。コントロールできないことよりも、自己探究の習慣をもち、自分の目的に焦点をあてることをおすすめしたい。
●キャリアサポート連載
■管理職って面白い! コンフリクト・マネジメント/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
声なき声にどう応えるか/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/中嶋千絵
■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識/高嶋直人
■そうだったのか!!目からウロコのクレーム対応のワンヒント/関根健夫
■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ
/大石貴司(関東学院大学地域創生実践研究所)
■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規
■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/伊保郁花
■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/久保田健太郎
■地域の“逸材”を探して/寺本英仁
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
品川萬里・福島県郡山市長
次の100年を見据え、子どもを第一に考えたまちづくりを
品川萬里・福島県郡山市長(78)。SDGsなどに積極的に取り組み、「気候変動は欧米諸国では最重要課題。気候変動をあらゆる政治・行政の原点にしなければいけない時代だと思う」と力を込めて語る。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
お福の密談は家康の日本経営構想──源頼朝たち転生者(十)
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「有機農業の里」を次につなぐ【汚染処理水放流(9)有機米】
原発事故、続く模索43
「有機農業の里」として知られる福島県喜多方市の熱塩加納地区。メルトダウン事故を起こした東京電力福島第1原発から100㎞以上離れているのに風評被害にさらされた。若い農業者が専業化を諦めるなど、深い傷痕を残したのだ。米価の低迷もなかなか改善せず、食米の生産だけでは生計が立てられなくなっている。苦労して確立した有機農業はどうなっていくのか。
□自治体政策最前線──地域からのイノベーション
政策法務の強化・推進
──積極的な政策の実現に向けて政策法務の推進体制を強化(東京都江戸川区)
東京都江戸川区は、政策法務の推進体制を強化するため、弁護士資格を有する常勤の法務専門職を複数採用するとともに、区政全般の法務を統括する法務課を設置。不服審査・訴訟への対応や庁内各課からの法律相談に応じる法務に加え、政策立案段階で法適合性を検証する立法法務と法的課題を庁内へフィードバックして運用改善を図る評価法務にも取り組んでいる。事前に法的リスクを軽減し、独自の政策を積極的に展開するのがねらいだ。
●Governance Focus
□豪雨災害を契機にJRが廃線を提案──津軽線・蟹田-三厩間、地元2町で分かれる方向性/葉上太郎 JR津軽線は青森県の津軽半島を一直線に北へ走る。青森駅を出発して、津軽海峡の終着・三厩駅に至る55・8㎞の路線だ。しかし、2022年8月の豪雨で被災して寸断。JR東日本はこれを契機として、北半分に当たる蟹田-三廐間(8駅)の28・8㎞をバスなどに転換したい考えだ。JR各社は過疎地で被災した赤字路線を次々と廃線にしており、津軽線もその一例になるのか。地元2町は鉄路存続、転換容認と方向性が分かれている。
●Governance Topics
□人口減少社会の地域について議論──令和臨調と市区町村長連合(Mayors連合)の意見交換会
経済、労働、学識など民間有志による政策提言組織「令和国民会議」(令和臨調)は、8月30日に活動趣旨に賛同する基礎自治体首長有志による「市区町村長連合(Mayors連合)」と初めて意見交換をした。参加した各自治体の首長らから、人口減少社会に直面する課題が共有された。
□12自治体も参加し、妊産婦の健康ケアと健幸度向上のプロジェクトを開始──内閣府SIP「ママもまんなか」子育て支援プロジェクト
筑波大学等は8月28日、都内で内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の一環として取り組む「『ママもまんなか』子育て支援プロジェクト」について記者発表した。当日は参加自治体の首長やアンバサダーも駆けつけ、意気込みを語った。
□4年ぶりの対面開催で、自治・地域の未来について多面的に議論──第37回自治体学会川崎大会
市民・自治体職員・研究者のネットワークである自治体学会は8月25・26日の2日間、川崎市で第37回自治体学会川崎大会を開催した。25日には第36回の全国自治体政策研究交流会議も実施。今回はコロナ禍でのオンラインを経て4年ぶりの対面開催。「神奈川・川崎から問う自治・地域の未来」を統一テーマに、直接顔を合わせて議論し、交流を深めた。
□「議員を選挙で選ぶために」なり手不足、報酬・定数を議論──北上市議会フォーラム
岩手県北上市議会(定数26人)は8月27日に、「北上市議会フォーラム~議員を選挙で選ぼ!!~」を開催した。同市議会が行ってきた、議員報酬や定数、なり手不足問題への議会の検証報告や市民を交えてのパネルディスカッションが行われ、今後の議会のあり方を探った。
□地方議会で活躍する女性議員を増やすためには──第5回地域政策塾シンポジウム
長野県飯綱町の元町議らで組織する「地域政策塾21」(寺島渉代表)は、8月12日に地域政策塾シンポジウムを開催した。今回のテーマは、「女性が活躍できる地域社会を!!―地方議会に多くの女性議員を送ろう―」。長野県内で活躍する女性議員らが登壇し、地方議会に女性議員を増やすための方策を議論した。
●連載
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/澄川誠治(k-Biz)
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□地方議会シンカ論/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所)
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□From the Cinema その映画から世界が見える
『国葬の日』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『聞いてはいけない スルーしていい職場言葉』山本直人]
●カラーグラビア
□つぶやく地図/芥川 仁
海に生きる自負とやり場のないつぶやき──茨城県北茨城市平潟町
□技の手ざわり/大西暢夫
伝統の墨作りを支える唯一人の墨型彫刻師
──【奈良墨職人】長野墨延さん・睦さん/【墨型彫刻師】中村雅峯さん(奈良市)
□わがまちDiary──風景・人・暮らし
蔵王連峰の恵みのもと四季の移り変わりを身近に体感できるまち(宮城県蔵王町)
【特別企画】 ■伝統の技を織り込んだシビックプライド香るホールの再生──三重県鈴鹿市
■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
※表紙写真は「蔵王山の火口湖『御釜』」
*ザ・キーノートは休みます。