事例とQ&Aで理解する内部通報・行政通報の実務
第2回 これって公益通報?-②
地方自治
2022.11.29
1.公益通報できる人は誰?
通報者は誰かという点ですが、労働者(労働基準法9条)、派遣労働者、退職者(退職後あるいは役務提供終了後1年以内の者)、法人の役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事等)が公益通報者となります。なお、法人の役員については、調査是正措置(善良な管理者と同一の注意をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置)を講じた上で、通報されたものを保護対象としています。
改正された公益通報者保護法によって、労働者のみならず、退職者や役員からの内部通報や行政通報も想定しながら、通報対応を行う必要があります。特に、内部通報窓口(内部の役職員等からの通報)や行政通報(行政機関の側から見ると、外部の労働者等からの通報)の受付の実務運用についても、明確な対応方針や通報対応ルートを策定しておくことが求められます。
2.不正の目的による通報は保護されない?
公益通報に該当するには、「不正の目的」でないことが求められています(2条1項本文)。具体的に条文を確認すると、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」と規定しています。条文上、直接、「公益目的であること」を求めていない点に留意する必要があります。
「不正の利益を得る目的」としては、例えば、通報を手段として金品等を授受したり、ゆすりたかったりするなどの不正の利益を得る目的で通報する場合が想定されます。また、「他人に損害を加える目的」では、通報を通じて事業者や被通報者(行為者)の信用を失墜させるなどの有形無形の損害を加える目的が想定されます。一般的に、社会通念から見て、違法性の高い通報が「不正の目的」に当たると考えられます。
とはいえ、不正の目的があるか否かに関しては、あくまで主観的な要素に留まりますので、その判断も困難であることが多いといえます。したがって、明らかなケースを除いて、実務上、一方的に「不正の目的」であると断定して、これを理由に通報受付を拒否したり、調査等を行わないなどといった対応は、その後のリスクを回避する観点から控えたほうが良いでしょう。
3.例えば、所得税法や政治資金規正法違反を通報することは公益通報に当たるか?
役務提供先等の不正行為や違法行為について、通報の対象となる法令違反(特定の法律に違反する犯罪行為等)を示さなければなりません(通報対象事実といいます)。法律上、通報対象事実は、一定の対象となる法律に違反する犯罪行為または最終的に刑罰(刑事罰、過料)につながる行為であることが求められます。
公益通報者保護法では、我が国で施行されているすべての法律に関する違法行為を通報すれば保護すると規定してはいません。つまり、公益通報者保護法を含む国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律に限定し、さらに、こうした対象法律のうち、罰則(刑事罰、過料)の規定があるものに限っています。したがって、対象法律の違反行為の中でも、最終的に罰則(刑事罰、過料)の対象となる違反事実が通報対象事実となります。
要するに、公益通報者保護法の対象でない法律の違反行為を通報しても、その通報者はこの法律による保護の対象になりませんし、対象となる法律に該当しても罰則(刑事罰、過料)には当たらない場合、保護の対象にならないことになります。もちろん、公益通報者保護法で保護されない場合であっても、他の法律(例えば、労働基準法の申告制度等)により保護される場合があります。
このように、通報対象事実に当たるか否かについては、公益通報者保護法で保護されるかどうか重要な要件です。公益通報の対象になる法律としては、別表(2条関係)で規定されていますが、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、日本農林規格等に関する法律(JAS法)、大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)の他、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」(平成17年政令第146号)(「八号政令」といいます))で定める法律が該当します。2022(令和4)年10月1日現在、対象法律は495本です。通報者はこの法律で保護を受けるためには、この対象法律に該当するかどうか、確認しておく必要があるわけです。なお、公益通報者保護法も通報対象となる法律の一つです。
なお、公益通報者保護法でカバーされる対象法律は、八号政令の改正(公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令の一部を改正する政令)によって変更しますので、定期的に消費者庁のホームページで確認しておく必要があります(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/subject/)。このサイトを活用して、例えば、所得税法や政治資金規正法は対象法律に当たるか否か、皆さんで検索してみてください。
ところで、通報対象事実の具体例としては、職場内において他人のものを盗んだり、金品を横領するといった犯罪行為の他にも、暴行・脅迫・侮辱等(犯罪行為)に当たるハラスメントが行われる(刑法)、腐敗したり変敗した食品や安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売する(食品衛生法)、権利の移転を目的としない仮装の有価証券の売買(相場操縦行為等)をする(金融商品取引法)、許可を得ることなく産業廃棄物の処分をする(廃棄物処理法)などといった例が挙げられます。なお、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントは男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法に規定されてはいますが、いずれの法律も犯罪行為もしくは過料対象行為、または最終的に刑罰もしくは過料につながる法令違反行為とされていませんので、公益通報には該当しません(犯罪行為に該当する場合は、刑法違反により公益通報に該当します)。
例えば、対象法律に定められた勧告を受けたものの、改善措置を講じない場合(勧告違反)や対象法律において別途、省令等により定められた基準に違反する場合(基準違反)、所管大臣等の指示に従わない場合(指示違反)、改善の命令を受けたが改善措置を講じない場合(命令違反)などは通報対象事実に当たるでしょうか。この点、基準違反や指示違反のように、対象法律において何らかの処分違反が犯罪行為となる場合であって、処分を行う理由となる事実であり、直接罰則が課されていない事実も、通報対象事実に含まれます。
4.どこに通報できるのか?
通報先については、法律上、3つの通報先(内部(公益)通報、行政通報、外部通報)を定めており、それぞれ通報先ごとに保護要件が異なっています。3つの通報先には特に順序や優先順位が定められているわけではなく、通報者自身の都合により通報先を選択することが可能ですが、それぞれの通報先によって異なる保護要件を充足しなければ保護されません。保護要件の詳細は、次回以降に説明したいと思います。
内部(公益)通報については、公益通報者保護法と同法の指針によって、事業者は内部通報に対して適切に対応するために、内部(公益)通報窓口の設置、受付、調査、是正措置等の必要な体制の整備を求められています(11条)。ただし、中小事業者(従業員数300人以下)は努力義務となっています。事業者内の内部(公益)通報窓口(内部窓口)や担当者、事業者が契約する法律事務所(外部窓口)などが通報先として挙げられますし、職場の管理職や上司も通報先に該当します。
次に、行政通報については、通報対象事実に関して、勧告や命令できる権限のある行政機関が通報先になります。実際に、どの行政機関に通報するか分かりづらいといえます。そこで、消費者庁のホームページに「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」システム(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/search_system/)が用意されています。このシステムの検索窓に、通報に関連するキーワードを入力(例えば、「虐待」「介護」「廃棄物」等)すると、該当するデータ(対象法律)の一覧が列挙されます。その中から、該当する対象法律をピックアップし、クリックすると、法律名、法律の概要、通報対象のキーワード、通報(相談)先となる行政機関、具体的な通報(相談)先の連絡先等が掲出されるようになっています。
なお、検索しても具体的な通報先が分からない場合もありますので、消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)に問い合わせることもできます(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/contact/)。
仮に、通報しようとした行政機関が適切でなかった場合には、その行政機関は適切な通報先(行政機関)を通報者に対して、紹介(教示)することが求められています(14条)。
【参照】拙著『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~』91頁以下