徴収の智慧
徴収の智慧 第29話 金融機関調査(その1)
地方自治
2019.08.23
徴収の智慧
第29話 金融機関調査(その1)
滞納整理は段階的・漸進的に
もとより滞納整理は、納期限までに自主納税しない(又は履行の請求に応じない)納税義務者に対して行うものであるが、繰上徴収に該当するような例外的事例を別にすれば、自主納税を促すべく督促・催告を経て、滞納処分又は納税緩和措置へと段階的・漸進的に進めていく事務である。税務事務は大量・反復事務であるし、投入できる人的資源には限りがあるから、いずれの地方団体においても、督促・催告によって、まずは滞納の総量を圧縮することに力が注がれることになる。しかし、このいわゆる通信催告は、初期滞納や少額滞納にはそれなりに効果的であるものの、繰り返し行うことによりその効果が逓減していく宿命から逃れることはできない。ここに滞納整理の手段として通信催告の限界がある。
ところが、このような通信催告の特徴ないしは限界に無頓着な地方団体があるのではないか。つまり、税収への影響(の大小)を考慮せずに、あらゆる滞納事案につき、おしなべて通信催告を繰り返し、財産調査や処分など次の段階の事務になかなか移行しなかったり、「最終催告書」又は「差押事前警告書」などの名称を冠した催告書を乱発したりして滞納整理が前に進まない状態(いわば足踏み状態)が続いているのではないだろうか。限られた時間、限られた人員で、最大の効果を上げようとするのであれば、自ずと優先順位やメリハリをつけた滞納整理を工夫しなければならないのに、これでは「望んでいること」と「実際にやっていること」との平仄(ひょうそく)が合っていないと言わざるを得ない。
質的整理と量的整理
通信催告によって滞納の総量を圧縮するとともに、次なる事務である財産調査と処分(納税緩和措置と滞納処分)の対象事案を絞り込む必要がある。なぜなら財産調査にしても、処分にしても、それぞれにそれなりのノウハウと労力を必要とするから、催告によって総量を圧縮しておかなければ、とても処理しきれないからである。こうして対象事案を絞り込んだら、次は財産調査の対象を、深度のある調査が必要な事案と、表見財産の調査を以て足りる事案とに分類して、効率の良い調査をする必要がある。高額事案であっても個々に見てみれば、それほど深度のある調査を要しない事案も見受けられるが、処理困難事案であるかどうかは、実際に着手してみなければ分からない。一般的に言えば、税収への影響の大きさを考慮して高額事案を優先すべきであり、これを質的整理の対象事案と位置づけ、それ以外の事案を量的整理の対象事案と位置づけることができるであろう。もとより、高額事案中の処理困難事案が最も綿密で深度のある調査を必要とすることは確かであるが、事案解決のためにかける労力と、解決までの早さから言えば、高額事案ではあるが比較的容易に財産を発見することができるものの処理を優先することが合理的である。前述のとおり、処理困難事案には深度のある調査が必要であるから、それなりの手間暇がかかる。税収の早期確保という観点からは、質的整理の対象事案のうち、高額事案を最優先とし、その次に(高額な)処理困難事案に取り組むのが合理的である。
税収の早期確保と差押財産としての預金
税収の早期確保については、財政上の要請から滞納整理全体を通じて貫かれなければならないから、それは財産調査の次に来る差押えにおいても言えることである。その意味では、換価が容易な財産(国税徴収法基本通達第47条関係17?)である債権の差押えが最も適している。かかる観点からすれば、近時、多くの地方団体で、差押財産のうち債権の占める割合が高くなってきているのには合理的な理由がある。中でも預金・給料・生命保険の割合が高く、とりわけ預金については、ATMの普及によって金融機関の店舗は言うに及ばす、コンビニ、デパート、鉄道駅そのほか様々な場所で入出金・振込の操作が可能であることから、口座を設けて財布代わりに日常的に使っている人も多い。それだけに、比較的調査が容易で、確実な取立てが期待できる預金が、地方税の滞納整理における差押えの対象財産として大きな割合を占めるようになってきているのも頷ける。次回では金融機関調査に関わるいくつかの課題について触れてみたい。