議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第56回 コロナ禍はイノベーションを議会にもたらすか?

地方自治

2021.09.23

議会局「軍師」論のススメ
第56回 コロナ禍はイノベーションを議会にもたらすか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2020年11月号

 コロナ禍によって、日常の行動様式が劇的に変化し、新たな常識が定着してきた。議会も例外ではなく、平時ならあり得なかった議会運営が普通に行われている。今月号では、コロナ禍がもたらした「新しい議会様式」について考えてみたい。

■一般質問に全議員出席が必要か

 大津市議会では3密回避のため、4月以降の本会議(採決時を除く)は定足数を満たす半数出席としている。旧来の常識ではあり得なかったが、少なくとも議員個人として行う一般質問については、議長、質問議員、答弁者のみでも実施可能であり、定足数以上の議員を議場に留める制度上の必要性はない。

 確かに昔は議会中継や録画などなく、議場に参集して質疑応答を聞いておかなければ、議員間の情報共有ができなかっただろう。だが、現在では事後でも情報共有できる環境にあることに鑑みると、実質的にも参集の必要性は乏しいだろう。

 また、議員が首長に行政課題を質す機会は必要だろうが、「本会議」は一堂に会しての議論が展開される「会議」の場であるべきで、二者間の質疑応答の場としては、手法と目的が乖離していないだろうか。

■コロナ禍による非常識の実現

 2017年に札幌市で開催された「議会技術研究フォーラム2017」において、「議会の常識は真理なのか?」との演題で基調報告をした。その中で「一般質問を、本会議で行うと定足数の縛りを受けるが、一般質問協議会のような形式であれば、出席義務を課さないこともできる。質問議員以外は控室等で傍聴しながら議案審議に備えたほうが、合理的ではないか」との指摘をした(講演詳細は北海道自治研究№589参照)。

 当時、このような主張をしたのは、感染症対策のためではなかったが、法定外の議員の個人的活動である一般質問と、法定の委員会での議案審議との比較において、優先順位が逆転していると感じていたからだ。

 報告後、メインスピーカーの神原勝・北海道大学名誉教授からは、肯定的なコメントが寄せられたが、参加者の多くから共感が得られたとは思えなかった。やはり、参加者からは非常識な発想だと受け止められたからだろう。だが、コロナ禍という外圧を受けて、多くの議会が本会議を半数出席で行ったが、それによる市民にとっての不利益などない。

■議会にイノベーションを

 過去から絶対的な常識とされてきたことが、決して普遍的な真理とは限らないことが、図らずもコロナ禍によって証明された。

 真理の探究には常識を疑い、その破壊を厭わない哲学的姿勢が求められよう。もちろん全ての常識を疑い、そもそも論を展開することは現実には不可能であり、疑う常識とスルーする常識の峻別が大前提となる。見分けるためには常識を相対化し、普遍性に欠けると直感したものを疑うことが近道だと思っている。

 いずれにしても、旧来からのやり方を改めても、それで必要十分だったという事例は他にもあったはずだ。その意味でコロナ禍は、議事機関の本質に溯って議会を再考し、改革する契機に転化し得るだろう。

 議会は自己完結できる機関であるがゆえに、内部視点の思考に傾きがちであるが、イノベーションには外部からの、市民視点での俯瞰が必要である。その観点からも、コロナ禍という災いが転じて、イノベーションという福が、議会にもたらされるよう尽力したい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第57回「議員のなり手不足対策の方向性はどうあるべきか?」は2021年10月14日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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