議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第20回 議会の「常識」は真理なのか?
地方自治
2020.08.13
議会局「軍師」論のススメ
第20回 議会の「常識」は真理なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2017年11月号)
*写真は大津市議会局提供。
9月号、10月号では、機動的な議会の意思決定を実現するため、議決に拠らずとも議長や議会運営委員会の決定で議会の意思とする事項を定めた、「大津市議会意思決定条例」について述べた。反響としては、条例そのものよりも、なぜそんな発想ができるのか、といった主旨の感想が多かった。
今号では、「常識」に囚われずに「真理」に迫る思考の視点について、具体例に即して私見を述べたい。
■一般質問は必要なのか?
まずは一般質問を例に、「常識」と「真理」のズレについて考える。マスコミでは、質問回数が議員の資質を評価する基準として報道されるなど、世間的には議員の主な仕事が一般質問と思われているようである。
だが、一般質問は、各議会が任意に会議規則(大津市議会では会議条例)で定めて行っているものに過ぎず、地方自治法で義務付けられている制度ではない。それは、一般質問が議員個人の意思表明の場でしかなく、議事機関としての権能とは無関係だからではないだろうか。議会の権能は、あくまで議員が議論した結果としての機関意思によって発揮されるものであり、法は議員の個人的活動については、必ずしも重視していないのである。
もちろん、一般質問が契機となって実現する施策もあり、その意義が全否定されるものではない。しかし、委員会よりも一般質問の会期日程が長いなど、議員の個人的活動である一般質問のほうが、議事機関としての本分である議案審議よりも重きが置かれていると思える状況の議会は多い。地方自治法の立法趣旨を踏まえると、何かおかしくはないだろうか。
このように疑問を抱くと、会期日程のあり方を根本的に変え、一般質問を縮小、あるいは廃止してでも、本会議における議員間討議を実現することや、委員会審議の日程を長く確保して議案審議を充実するといった対案が自然と発想されるようになる。
■議会(事務)局職員の姿勢
先の例は、「常識」とされていることに対して、物事の本質は何かというところまで遡って思考することの必要性を説明するために語っているに過ぎない。
だが、いずれにしてもこのような対案が議員から提案されることはないだろう。なぜなら、一般質問は議員個人として重要なアピールの場でもあるからだ。選挙で票を集めなければならない宿命にある議員から、このような提案がされることは考えにくい。そこで、局職員の議会、議員に対する姿勢が重要となる。局職員には議員からの指示待ちではなく、議員にはできない提案こそ、積極的にする姿勢が求められ、それが「常識」を変えるのである。
■真理は細部に宿る
「真理」とは、「いつどんなときも変わることがない正しい物事の筋道」とされる。そして、「常識」とされていることが「真理」だとは限らず、多くの場合、それは検証されていない。
「真理(神)は細部に宿る」と言われる。大所高所からの意見、理論も、参考にすべきではあるが、鵜呑みにすべきではない。議会を取り巻く前提条件は様々で、正解が一つであるほうが不思議だからだ。議会の実態は外から見ても、全てはわからない。現場にいる者こそが身近な疑問から「常識」を疑い、自己責任で解決策を模索するしかないのである。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。