本から学ぶ 財政課心得帖
NON STYLE井上裕介さんに学ぶ―しんどいときこそ前向きに
キャリア
2019.04.19
目次
第4回 予算編成追い込み しんどいときこそ前向きに
今月の本『スーパー・ポジティヴ・シンキング』井上裕介 著
9月号からこの連載を始めて以来、ここまで割と堅めの本を紹介させていただきました。地方財政の総合実務誌を標榜されている「地方財務」の誌上で、財政課職員の皆さんのお役に立つことを目指して本を選んでいるので、どうしてもそういうラインナップになります。
しかし、堅い本ばかり読んでいると疲れてしまいます。
それに、年が押し詰まってくると、予算編成も難しい局面に差し掛かり、知らず知らずのうちにカリカリしてしまいがちです。
疲れが抜けないまま、追い詰められた気持ちで予算要求書を眺めていると、どうしても暗くなってきます。そうして、なんだか要求課がうらめしくなってきます。
「あれほど、財政状況が厳しいと伝えたのに、こんなに要求してきて……」
「いっそ一度破綻させてしまって、現状を思い知らせた方がいいんじゃないか」
という感じです。
これでは、未来に向けた前向きな予算編成はできそうもありません。気持ちはよくわかりますが、しんどいときこそ明るく立ち向かいたいものです。
そこで、今回お勧めする本は、井上裕介さんの『スーパー・ポジティヴ・シンキング』です。
井上さんは、お笑いコンビNON STYLEのツッコミ担当の方で、立ち位置は向かって右側です。副題は、「日本一嫌われている芸能人が毎日笑顔でいる理由」というちょっと自虐的なものになっています。
確かに予算編成も大変ですが、嫌われる芸人としての道を歩まれている井上さんの日々はもっとヘビーなのでは? そこを笑顔で過ごされている秘訣を知って、明るく元気に予算編成を進めていきましょう。
学びポイントその1‥成功する姿をくっきりイメージする
井上さんは、大きな舞台に立つときも緊張することがないと言います。一世一代の大勝負だったM-1グランプリのときも、平常心で臨めたそうです。井上さんは、「失敗したらどうしよう」と考えるのではなく、「ここでウケたら、明日からモテるんちゃうん?」と前向きにとらえることで、テンションが上がるのだそうです。
予算編成作業中は、重い空気に包まれがちです。時間外勤務が増えて、自分の時間が取りづらくなりますし、ちゃんと予算が組み上がるのか、先が見えなくなります。そんなときこそ、明るい春をイメージしましょう。井上さんを見習って、うまくいったらどんなに素晴らしいだろうと思えば、大変な仕事も元気に取り組めそうです。
住民や所管課からの要求に応えながら、負担の先送りにもならない予算を組めたら素敵ですよね。
一番厳しい時期を乗り越えれば、ゴールは目の前です。
学びポイントその2‥「サボってない」という気持ちが自信になる
予算編成は、ある種孤独な仕事です。もちろん、課内に相談できる人がいるでしょうし、要求課に質問することもできるでしょう。しかし、それぞれの担当者が自分の判断で決定を下していかないと次につながりません。
この判断で正しかったのか、要求課の意図はくみ取れているかなど、考え出したらキリがありません。
こんなふうにくよくよしそうなとき井上さんは、何をするにも意思を持って行動し、「サボってない」と思い込めれば、それが自信につながると言います。
予算編成の上で、本当の意味で正しい判断が下せたかどうかは、長い年月を経ないとわかりません。しかし、いろいろなところにアンテナを張って情報を仕入れ、要求課の意見もしっかり聞いた、と思えれば、それが自信になります。自信が持てれば、気持ちも軽くなります。
学びポイントその3‥まずは「周囲から期待してもらう」
井上さんは、殻を破るためには、「周囲の人に期待してもらう」ことが重要であり、期待されるためには、「成長しているヤツ」になる必要があると言います。そして、成長しようと思ったら、新しいことをどんどんやっていかなければならないと主張します。
去年までの担当がやっていたことを踏み越えてはいけないというルールはありません。財政課の仕事は、基本的に内向きにならざるを得ませんが、その中でも新しい取り組みはいくらでもできるはずです。そうした姿を見て、周りの人の期待が高まれば、今度は自身がその期待に応えようとする循環が回ります。
一歩を踏み出すのは勇気がいりますが、案外誰かが支えてくれるものです。
学びポイントその4‥「愛される工夫」をする
副題に、「日本一嫌われている芸能人」とのフレーズがありますが、これは芸人さんにとっては一つの勲章。ただし、井上さんは周りの人には嫌われていないようですし、「愛される工夫」を惜しみなくされています。その工夫は、ちょっとした気配りだったり、挨拶やお礼の仕方だったりといった細かなものですが、それだけに続けていくためには意識していなければできません。
財政課には、「嫌われてナンボ」という風潮があるかもしれません。予算要求にすべて応えていたら予算が組めないので、スパッと行かなければならないことも少なくないからです。しかし、だからこそ、「愛される工夫」が必要かもしれません。予算が切られても、人としては愛せるという関係が作れていれば、所管課も納得しやすいですし、普段からいろいろな情報がもらえそうです。
学びポイントその5‥考え方次第で、毎日は楽しくなる
井上さんは、「悪口を言われても、それは受け止め方次第であり、自分がどう思うかですべての物事は違って見える」と言います。テレビでは散々突っ込まれ、SNSは炎上し、雑誌では酷いことを書かれ、とはたから見るとなかなか厳しそうに見える日々ですが、井上さんは楽しんでおられるようです。
12月は、財政課にとって非常につらい時期です。役職が上がれば上がるほど、心理的な負担も増してくると思います。ここで、「受け止め方」です。「キツイ、しんどい、先が見えない」と思ってしまうと、ますます深みにはまってしまいます。そうではなく、井上さん流に、前向きに、ポジティブにとらえてしまったら、物事の見え方がガラッと変わってくるかもしれません。
以上、井上さんの「スーパー・ポジティヴ・シンキング」の秘訣の一端を、財政課の仕事に当てはめてみました。
もちろん、お笑いの世界と地方公務員の仕事を同列にとらえることはできません。仕組みもルールもやり方も全く違います。しかし、誰かを笑顔にすること、そのためにいい仕事をして自分も楽しむこと、という目指すところの根本は共通している気がします。
井上さんを見習って、前向きにいきましょう。
【今月の本】
『スーパー・ポジティヴ・シンキング』 井上裕介 著
(ヨシモトブックス、2013年、定価:1,143円+税)