自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

防災スペシャリスト養成研修と林春男先生│自治体の防災マネジメント 第120回

NEW地方自治

2026.10.14

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月刊ガバナンス 2026年3月号

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特集:東日本大震災15年
──これまで、そして、これから
編著者名:ぎょうせい/編
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※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2026年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

「防災スペシャリスト養成研修」企画検討会

 どうしても、言い残しておかなければならないことがある。それは、内閣府「防災スペシャリスト養成研修」企画検討会の初代座長である林春男先生の功績である。

 当時、林先生は京都大学防災研究所教授であり、国内外の防災事情に非常に詳しい理論家でありながら実践を非常に重視されていた。また、私たちのような自治体職員や国家公務員、研究機関職員などに、博士号を取得できるように積極的に支援されていた。私もその1人である。

 2013年、最初の企画検討会メンバーは防災関係の大学研究者6人、自治体職員2人、国の研究機関1人、民間の防災団体代表1人で、すべて実践志向の人であった。

 当時のプログラムを見ると、有明の丘基幹的広域防災拠点施設において、幹部コース2日間、防災中堅コース4日間、防災一般コース4日間、相互コース10日間と長期のものとなっている。時間が長いといえど、膨大な項目があるため、どれも短時間の座学、演習で学ぶものとなっている。幅広いが内容が薄くなるため、大学等の防災教育ならともかく、実際の災害現場で役立つかどうかは疑わしいところもあった。

 私たち行政の実務家は、被害が大きくなれば応急対策でできることは限度があり、重要なのは住宅耐震化、延焼防止対策や要援護者の避難行動等により被害を軽減することであると主張した。それを実現するための、各自治体の防災対策向上につながる研修を唱えた。

 しかし、林先生の視点はまったく違っていた。それは、災害現場での活動を標準化することにより、自治体職員が具体的にどのような災害対応をするかを見える化するものであった。防災スペシャリスト養成研修のテキストがいわば教科書となり、全国の自治体の災害対応業務が標準化されることを目指すべきだとおっしゃる。これにより、自治体間、政府と自治体との災害時の応援受援がしやすくなる。

 東日本大震災後の災害対応を見ると、やはり応急対策の標準化と応援受援のシステム化、それを担う人材育成が重要であることがわかる。そして、これは、そんなに簡単なことではない、と改めて思い知らされている。

防災スペシャリスト養成研修の概要

 昨年度から検討会座長は新潟大学の田村圭子教授に引き継がれている。2月4日、研修のホームページは全面的にリニューアルされ、とてもわかりやすくなった。研修の全体像は、図1のとおりである。

図1 研修の内容
研修HPの画像
出典:内閣府防災スペシャリスト養成研修HP(https://bousai-sp.go.jp/)

 全国の自治体職員が有明の丘に来るのは、時間的、財政的負担が大きいことから、eラーニングの充実にも努めている(図2)。また、災害現場でもすぐに業務内容・手順を確認できるように、7項目の災害対応が動画、PDFで紹介されている。

図2 eラーニングコンテンツ
コンテンツの画像
出典:内閣府防災スペシャリスト養成研修HP(https://bousai-sp.go.jp/)

 例えば、7項目のうち「1避難所開設・運営」をクリックすると、図3のようにWP(Work Package)が示されている。

図3 WPごとの業務説明動画
一覧の画像
出典:内閣府防災スペシャリスト養成研修HP(https://bousai-sp.go.jp/)

 WPとは、各テーマで学ぶべき知識を階層化し、担当する業務を明確化したもので、さまざまな役割の人が、階層ごとに何をすべきかがわかるように、業務内容と分量を考慮して整理したものだ。

 実に有益なページになっているので、自治体の防災担当職員のみならず、ぜひとも多くの方にご覧いただきたい。

防災教育チャレンジプラン

 先生に最初にお目にかかったのは2004年度の内閣府「防災教育チャレンジプラン」実行委員会の場である。私が防災と関係ない職場に異動しても、ずっと防災活動を続けてこられたのは、この実行委員を続けさせてもらえたからであり、深く感謝している。

 この頃、防災教育の普及啓発で取り組まれたのは、全国の優良事例を表彰することが中心であった。しかし、チャレンジプランにおいては、表彰のよさを残しつつ、チャレンジの要素を加えたのが特色である。昨年度から兵庫県立大学の木村玲欧教授が委員長を引き継がれている。

 まず、防災教育に取り組みたい学校、地域、団体・企業は前年度当初に防災教育のプランを立てて、モデル事業に応募する。その中から、実行委員会が採点し、審査会でモデル団体を選定する。モデル団体には最大30万円を助成する。

 その後、中間報告会でそれまでの活動内容や課題についてプレゼンし、実行委員らによる助言、評価を受ける。そして、最終報告会で大賞、優秀賞などが授与される。

 このように、チャレンジプランは単なる表彰ではなく、モデル団体のチャレンジに伴走支援している点に特徴がある。2025年度の防災教育大賞は、栃木県立矢板高等学校 農業技術部畜産班~地域と連携した家畜動物の避難システムの構築~である。重要なわりに、意外に忘れられてしまいがちな家畜避難に、高校生が取り組んだ素晴らしい事例である。

再び林春男先生のこと

 2014年10月、懇親会の場で先生に「来年度から大学教員になるので、そのときは博士論文を書きたいと思います」と話した。

 先生は「これまでどんな査読論文を書いたの?」と聞かれたので、「防災基本条例、木造住宅の耐震化、福祉施設のBCPで、それぞれ重要ですがバラバラです」と答えた。すると先生は、その場で論文構成表をさらさらと紙ナプキンに書かれて「これをもとに、12月までに博士論文を持ってきなさい」とおっしゃった。

 「いや、いくら何でもそれは……」と申し上げたが、「大丈夫、鍵屋なら書ける」とおっしゃるので、チャレンジすることにした。そこから呻吟・苦吟の日々が始まる。

 論文がある程度できて、全国町村会館に宿泊されていた先生をお尋ねしたとき、「うん、これで良い。最後は鍵屋の防災への思いを存分に書いてくれ」と励ましてくださった。12月の冷たい雨の夜だったが、感激のあまり、目を腫らしつつ歩いたことを、今でも思い出す。

 学恩とはこのようなことなのか、と。

 

著者プロフィール

跡見学園女子大学教授
鍵屋 一 かぎや・はじめ


1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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