
【特別対談】《後編》「女性活躍」の基盤となる「女性の健幸(Well-being)」の最大化に向けて
NEW地方自治
2026.06.05
目次
「女性活躍」の基盤となる「女性の健幸(Well-being)」の最大化に向けて②
―「女性が輝く社会」や「女性の健幸」を阻むアンコンシャスバイアス解消のヒント―
女性活躍推進と女性の「健幸(Well-being)」向上の取組経緯と現状について、政策推進とアカデミアの立場から語り合った前編の対談に続く後編。男女の役割分担に関する固定観念や価値観を変える段階にあることを前提に、両氏に女性活躍推進の取り組みの今後のあり方などについて提言いただいた。その中では、「女性の健幸」が「女性活躍」の基盤になるという認識が共有され、若い世代の声や思いを反映しながら政策を展開する必要性が強調された。

左:上川陽子(かみかわ・ようこ) 衆議院議員、自由民主党女性活躍推進特別委員会委員長。内閣府特命担当大臣・法務大臣・外務大臣などを歴任
右:久野譜也(くの・しんや) 筑波大学大学院教授・内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」プログラムディレクター
教育から男女の分断が始まる!?社会変容を生む若い世代がカギ
久野 女性活躍推進の背景には、人手不足や産業的な問題があり、それらが追い風となって社会制度は変わりつつあります。一方で、制度はあるものの、例えば、健康面や生産性にも影響を与える生理休暇がほとんど取得されていないといった調査結果があるなど様々な課題があり、国民の意識や価値観を変える段階に来ていることを、内閣府SIP(*1)の調査や現場から感じています。そこで、今後取り組まなければならない課題についてお話しください。
上川 法務大臣のとき、刑務所における食生活について調べたことがあります。すると、例えば女子少年院では多くの子どもは料理ができない。ある書籍によると、食事の様子を描かせると両親がおらず、食卓の中で一人で小さな存在として描かれている場合が多いと言います。実際にヒアリングをすると、食生活が脆弱でした。しかし、生きることとは、食べることです。女子少年院や刑務所では、その知識がない人が多く、男子ではそれ以上で、心配です。
以前は、女性が料理をするという世界観、あるいは固定観念がありました。しかし、女性の社会進出により、食生活の状況が変わりつつあると感じます。男女ともに働いているので料理する時間がなく、総菜やレンジで温めるだけの食材をコンビニエンスストアなどで買ってきて簡単に済ませるケースが増えてきています。そのような家庭で子どもが育つと、食事や生きるために必要な生活の技や知恵そのものが伝承されないような気がします。
そのため、女性のみならず、男性も料理のスキルを身につけなければなりません。自立した生活に必要な基本的な知識や技巧の習得は、小学生からの積み重ねが大事で、連続性が欠かせないと思います。
久野 私は昭和世代なので、小学校では家庭科を習いましたが、中学校では女子が家庭科で男子は技術でした。当時は、教育から男女を分断していたのだと改めて感じます。
上川 小・中学校からの教育の積み重ねで、自然にアンコンシャスバイアス(*2)が根づき、固定的な男女の役割分担につながるわけです。
久野 自民党の「ヘルス&コミュニティ(H&C)議員連盟2.0」でも発表しましたが、SIPの取り組みの中で、玉川学園の高校生にアンコンシャスバイアスとして感じていることをキャッチ・コピーにしてもらいました。そこでは、「女の子だから結婚や出産を見据えて進路選択をしてね」「家事は女子がやるもの、男子は座っていればいい」などが挙げられていました(コラム❶参照)。
上川 今でも、そのような意識があるということですね。
久野 議連での発表後、感想を聞くと、政治は学生が関われる世界ではないと思っていたけれど、発言の場がセットされ、話を聞いてもらい、コメントをもらったことで、活動がより積極的になった、と話していました。やはり経験が大事ですね。
*1 府省の垣根を超え産学官が連携する国家的研究開発事業。先端技術の開発に留まらず、規制改革や標準化を含めた社会実装まで推進するのが目的。
*2 日本語で「無意識の思い込み」などと表現される。性別、年齢、職業などに対し、過去の経験や環境から知らず知らずのうちに偏った見方をしてしまう思考の偏り。健康に対する当事者の自律的な取り組みや、行政や企業等における社会制度の開発・普及・定着等にも悪影響を与えるとされる。
──現役高校生によるSIP『みんなの違和館』
内閣府SIPの課題の一環として、社会をより良くするための活動を行う「世の中ちょっと良くする部」が発足している。その部内プロジェクトに参加する玉川学園の中高生は、自身が抱いた違和感を次世代に引き継がないという強い決意のもと、日常の「違和感」を可視化する展示を企画した。本展示は3月18 日、品川区で開催されたSIPシンポジウムと併催された。「女の子だから結婚や出産を見据えて進路選択をしてね」「痩せてるのが正義でしょ!」といった具体的な「違和感」のメッセージが展示され、多くの来場者の注目を集めた。

上川陽子衆議院議員
防災は男女の役割分担を見直す絶好の機会
上川 様々な分野で女性活躍の芽は育っていると感じていますが、まだ一部の動きなので、女性が活躍できるチャンスと場をもっと広げなければならないと考えています。それも総論としてではなく、具体論に落とし込んでいく必要があります。
例えば、災害現場や避難所において、女性が責任ある立場に立ってリーダーシップを取ることを考えてみてもいいのではないでしょうか。被災後の避難所では、トイレ問題をはじめ、男性だけでは配慮が行き届かない問題があります。ですから、避難所や防災訓練において、台所係ではない部分でも女性がリーダーシップを取れれば、防災を通じて地域社会の意識も変わっていくでしょう。
この考え方は、ウーマン・ピース&セキュリティ(WPS=女性・平和・安全保障)そのものと言えます。海外では「紛争」が課題ですが、日本では「セキュア(安全)」の観点で女性を関連づけ、プレゼンスを打ち出すことが大切だと考えています。
久野 アンコンシャスバイアスを改めるには、男性が変わらなければならないと思います。同時に、女性も一歩踏み出して歩み寄れば、相互理解が深まり、女性活躍社会が自立的に前進するものと期待しています。
内閣府SIPで、職域における女性の健幸課題を改善する取り組みに着手しています。経産省も女性特有の健康課題による経済損失が年間3.4兆円に上るという試算を出していますが、男性比率が高い役員や管理職の不理解、アンタッチャブル感等により、女性のための制度等が導入されにくい、活用されないという現状が把握されました。そこでSIPでは、これらを解消する介入パッケージの開発・導入を進めています(コラム❷参照)。
上川 変わるきっかけを政策的につくっていくことが必要です。男女共同参画に取り組んでから20年経ちますが、依然としてアンコンシャスバイアスが残っていることに難しさを感じます。災害時には助け合いが不可欠ですから、防災訓練は男女の役割分担というアンコンシャスバイアスを女性活躍の目線で見直す絶好の機会になると思います。
久野 防災訓練は例年、各地で行われていますが、女性の視点を入れた防災訓練はあまり行われていないのではないでしょうか。防災対策から始めて、女性活躍を地域に広げていくことが肝要だということですね。
──12の自治体(地域)と職域で展開中のMOM UP PARK
内閣府が主導する国家的研究開発事業「内閣府SIP」。久野教授は第3期課題のうち「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」のプログラムディレクターを務めている。その中で展開中の「MOM UP PARK」は、妊娠・子育て期女性を中心に、うごく・学ぶ・つながる機会を提供し、科学的根拠に基づいて健康とWell-being向上を支援する取り組み。2025年度「第19回キッズデザイン賞」受賞。母子保健施策等を補完する新しい伴走支援モデルとして、全国市町村等の幅広い参加を呼びかけている。
現在、職場における女性の健幸課題を改善する介入パッケージの導入・開発を進めている。

久野譜也教授
健康づくりは「成長戦略」の基盤という理解がこれからは必要
久野 私どもは、「H&C議連」と連携し、インセンティブ制度やウォーカブルなまちづくりなどの健康づくりを進めてきましたが、その後、SIPの取り組みの中で、20代や30代の女性の体力がかなり落ちていることや、運動不足や「やせ」の問題があること、子育てママに体力がなく、メンタルが悪化しやすいといった調査結果を得ました。しかし、これらは「医療モデル」では解決しません。「生活モデル」や、医療の前段階も含め、多くの人に受け入れられやすい社会技術を開発・定着させ、若い女性が抱える健幸(Well-being)の課題解決を政策的に取り組みたいという思いがあります。
上川 課題解決の政策を進める際、明確な目標を定めて効率的に目標達成が図れる具体策を講じることが大事です。そして、成果を積み重ねて社会の変容を促す必要があるでしょう。また、様々な視点で政策を組み立てないと、固定観念を打破するフレッシュな発想が入ってこなくなります。その発想を持っているのが若い世代であり、その思いを引き出して反映することが、社会を変容させる力になる気がします。
社会の意識を変えることは、従来通りの一つのアプローチだけでは難しいでしょう。様々な視点からアプローチし、様々な人たちが総合的に関わって初めて社会は変わるのです。そのようなことを「H&C議連」で展開することも、必要かもしれないと感じました。
久野 本当にそう思います。
上川 女性と健康の問題に関しては最終的に法律をつくることを目標にしています。予防的な提言がなされるのなら、若い人たちに声や意見を寄せてもらい、それを踏まえて政策展開したいと思います。
実は、女性活躍特別委員会をお引き受けしたのは、社会の仕組みに女性についての横串をさしたいという思いからでした。現在、「女性と健康」「女性と政治」「女性とWPS」「女性と成長戦略」の4つに取り組んでいますが、「成長戦略」の17項目にもすべて女性の横串をさすつもりです。政策の推進に大事なことは、新たなミッションを入れることです。先ほどお話しした防災訓練での女性の視点は新しい切り口になると感じますので、まずはそこから取り組んで女性活躍の場が広がっていけばと期待しています。
久野 健康政策の領域ではこれまで、医療費・介護費等の社会保障費の適正化が一つの目標でしたが、健康づくりで健康寿命が伸びても、社会保障費はトータルで上昇してしまうという批判があり、そのようなエビデンスも実際あります。しかし健康づくりは、社会保障費適正化だけがゴールではありません。それは、あくまで副次的効果に過ぎません。健康づくりによってWell-beingが向上するというエビデンスもあるので、Well-being向上こそが重要で、それに貢献すべきです。健康づくりで健康寿命が伸び、80歳、90歳でも元気でいられれば、今は人手不足なので、働く期間が伸び、その間は収入があるため、年金支給を少し遅らせる利点も期待できます。生きがいを持ち、旅行を楽しんだり、趣味や孫に投資するなど、お金も使ってもらえます。つまり、成長戦略的な意味で考えると、健幸になりながら、経済的な好影響が期待できるわけです。この考え方は、すべての世代に当てはまるはずです。
このような哲学が広く理解され、女性活躍の基盤となる女性の健康課題の改善に資する政策が展開されればと願っています。
【了】
特別プログラム「20分のホント」がスタート!!
意外にむずかしい健康リテラシー向上の支援コンテンツを開発・提供
「予算ゼロ事業」「連携協定」等で即導入可
内閣府SIP「MOM UP PARK」では、育児・家事・仕事に忙しい母親層の健康リテラシー向上を支援する自治体向けの特別プログラム「20分のホント」を新たに開始。健康、子育て、メンタルケア、プレコンセプションケアなど、ライフコースに着目した「1回20分」の楽しみながら学べる無料オンライン講座で、専門職がわかりやすく解説。パートナーや支援者にも役立つ内容となっている。
同プログラムは、ハイリスク対応中心になりがちな保健行政を支える伴走型支援DXのうち、とくに健康リテラシー向上支援ツールとして開発されたもの。自治体側の負担は最小限で、既存事業と組み合わせれば、効率的に子育て世代の健康リテラシー向上が図れるとして期待されている。
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