自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

防災スペシャリスト養成研修と応援受援の実態│自治体の防災マネジメント 第119回

NEW地方自治

2026.09.09

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※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2026年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

防災スペシャリスト養成研修

 どうしても言い残しておかなければならないことがある。それが、内閣府「防災スペシャリスト養成研修」における五百旗頭真先生の功績である。先生は政治学者として歴代総理の指南役を務められ、2011年の東日本大震災後は東日本大震災復興構想会議議長を務められた。そこでは「創造的復興」を掲げ、政府の復興方針に大きな影響を与えられた。

 先生には2回お目にかかったことがある。1回目は、12年12月13日の「自治体災害対策全国会議」である。先生はコーディネータを務められ、私もパネリストとして登壇した。

 その場で私は、今後の自治体防災力強化のために「スーパー防災職員の育成」「自治体スクラムの組織化」が必要であることを主張した。先生は「自治体職員の人材育成は大変に重要なことであり、実現のために政府に働きかけたい」とおっしゃってくださった。そしてなんと、翌13年度から内閣府による「防災スペシャリスト養成研修」が始まった。

 先生に再びお会いしたのは、23年1月20日の「21世紀減災社会シンポジウム」である。その場で先生に「防災スペシャリスト養成研修」実現のお礼と、その経緯をうかがった。先生は「東日本大震災復興構想会議の事務局を務める財務省の方に相談したところ、『どのくらい必要ですか』と聞かれたので、『大体1億円程度じゃないだろうか』、と答えた。そうしたら、『わかりました、年1億円、10年で10億円つけましょう』と言ってくれたんです」と話し、別れ際に「これからも国民のためにがんばりましょう」とおっしゃってくださった。

 先生は24年3月6日に急逝された。二度とお会いできない悲しみは深いが、大きな仕事と言葉をいただいたことに心から御礼申し上げたい。

応援受援の地域研修

 防災スペシャリスト養成研修は、ありがたいことに現在も継続されている。当初は東京での集中研修のみだったが、地方の職員の参加が難しいこともあり、希望する都道府県で地域研修を行うことになった。

 私は25年、研修コーディネータとして、高知県での受援計画をテーマにした研修に参加した。奇しくも、先生に伝えたもう1つの観点、「自治体スクラムの組織化」である。東日本大震災では自治体間の任意の応援受援で始まり、その後、16年の熊本地震を経て自治体間の対口支援が制度化。その人材として総務省「応急対策職員派遣制度」が実現した。現在は災害マネジメント総括支援員(GADM)が約800人、支援員が約1300人、登録されている。

 高知研修では、GADMの大阪府吹田市職員・柴野将行氏が石川県輪島市への応援現場について話され、同じくGADMの吹田市職員・有吉恭子氏と輪島市職員・中本健太氏が受援状況を話してくださった。

事例から学ぶ応援の実態と課題

 柴野氏は、能登半島地震発生後、12回、90日にわたって応援活動をされた。最初は乗用車での車中泊をしながらの活動だったという。冒頭に「支援は必ず来るが、それまでいかに粘るか」「その後、いかに支援者に働いてもらうか」が重要であり、受援計画はその要になると指摘をされた。

 災害対応全体の俯瞰としては「地方都市等における地震対応のガイドライン」の17項目とチェックリスト(図1)を示し、今後の見通しを論じた。

図1 災害対応チェックリストの一部(初日)
チェックリストの一部

(17項目)
①災害対策本部の組織・運営 ②通信の確保 ③被害情報の収集 ④災害情報の伝達 ⑤応援の受入れ ⑥広報活動 ⑦救助・救急活動 ⑧避難所等、被災者の生活対策 ⑨特別な配慮が必要な人への対策 ⑩物資等の輸送、供給対策 ⑪ボランティアとの協働活動 ⑫公共インフラ被害の応急処置等 ⑬建物、宅地等の応急危険度判定 ⑭被害認定調査、罹災証明の発行 ⑮仮設住宅 ⑯生活再建支援 ⑰廃棄物処理

 実際の現場では、災害対応が組織的に機能するために対口支援団体連絡系統図を作成。総括支援チームが対口支援団体の取りまとめを行うことを明確化し「GADMは提案するが、決定は輪島市が行う」という体制で、被災自治体が主体性をもって決めることを徹底したという。

 被災時の業務マネジメントのコツについては、次のようにまとめた。

☑ 災害対応とは、頭脳戦である。
(×場当たり対応、〇目標管理型災害対応)

☑ 災害対応とは、資源調整である。
(ヒト・モノ・情報・スペース/調整力)

☑ 災害対応とは、想像力である。
(像を想う、イメージする力で…)

☑ 最も重要なのは、受援力である。
全力を尽くしても、何とかなるものではない。避難所も物資も他自治体職員が応援に来る前提が必要(傍線は筆者)。

 簡潔だが、一つひとつが深く納得できるコツだ。

事例から学ぶ受援の実態~課題を知り、次に備える~

 有吉氏と中本氏は輪島市受援現場のエピソードを紹介してくださった。有吉氏は応援と研究を含め120日、輪島に通ったそうだ。特徴的なのは輪島市職員がインタビュアーを務め、事実と心情を同じ輪島市職員に訊く(半構造化インタビュー)手法の採用である。これは、同じ自治体職員として率直に気軽に話すことのできる利点があるという。

 そのほか、いくつかの事例を紹介する。応援職員のあり方が感じられるエピソードだ。

◎職員は電話対応で精いっぱい…

状況:24年1月5日、職員参集率は約3割。職員は電話に出る→付箋に書く→貼る→電話に出る→付箋に書く→貼るor放置

・捜査機関A氏「捜索の目標と根拠がほしいのですが。一覧表か何かはありませんか」

・応援B氏「まずこの付箋を整理しましょう。朝までに入力してリスト化します」

◎孤立集落解消プロジェクト

状況:約200か所の自主を含む避難所が発生し、約40か所の孤立集落があった。孤立情報を、市は表で管理、自衛隊は地図で管理、土木は道の不通状況で把握していた。

・応援C氏「孤立集落の情報を正確に把握して、迅速に対応しましょう。命に関わる人がいるかもしれませんよ」

・応援D氏「孤立集落の場所、人数、孤立要因、要配慮者の有無。各機関集まって地図に書き込みませんか」

◎え?手伝いに来てくれたんじゃないの?

状況:避難所担当の生涯学習課職員8人(当時)、輪島市行政職員287人。当時の避難所は自主避難所含め189か所、集約解消も見えていない時期。

・応援E県「自分たちが配置される避難所には、輪島市職員が最低1人いてほしい。そうでないと避難所に行くなと本庁が言っている」

・応援F県「自分たちは輪島市職員を休ませるために来ました。何でも言ってください。何でもします。輪島市ファーストでいきましょう」

◎正しいことを助言する支援と輪島市の実情のはざまで

応援G氏「段ボールベッドが早急にほしい。トイレの清掃が行き届いていないので輪島市職員の増員を。仮設住宅等の質問をされても対応に困る」

中本氏「現場は実際、対応できないことだらけ。避難所担当ばかりが責められる、と感じてしまう」

 高知の自治体職員から「応援職員にとって一番重要な心がけは何ですか」という質問が出たとき、有吉氏が「一緒に悩むことかな」と答えられたのが印象に残った。応援職員には、正論や、効率的で無機質な仕事をすることよりも、一緒に悩みながら解決する姿勢が求められる。

※ 本稿で紹介の事例等をまとめた書籍『令和6年能登半島地震──吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだ36のこと』(ぎょうせい)が26年1月に刊行された。ぜひ読んでいただきたい。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/12528

 

著者プロフィール

跡見学園女子大学教授
鍵屋 一 かぎや・はじめ


1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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