
政策課題への一考察
自治体情報部門の「政策部門」化を阻む構造 ―「電算室」はなぜ変われなかったのか|政策課題への一考察 第121回
NEW地方自治
2026.06.03
目次
出典書籍:『月刊 地方財務』2026年5月号
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【政策課題への一考察 第121回】
自治体情報部門の「政策部門」化を阻む構造
―「電算室」はなぜ変われなかったのか
沖縄県浦添市CIO補佐官
冨岡 周泰
※2026年4月時点の内容です。
1 はじめに
地方自治体の情報部門に企画能力を具備した「政策部門」への転換を求める声は、20年以上前から繰り返されてきた。2003年の「電子自治体推進指針」(以下「2003年指針」)の時代から既に企画立案能力が必要とされ、2007年の「新電子自治体推進指針」(以下「2007年新指針」)は「従来、情報担当部門の主たる業務は電算システムの管理であった」と総括し、企画立案能力の必要性を改めて明示した。以来、2014年の「電子自治体の取組みを加速するための10の指針」(以下「10指針」)を含め、国は繰り返し地方自治体の情報部門の役割拡大・再定義を求めてきた。
現在、自治体DX推進計画への対応、基幹業務システムの標準化とガバメントクラウドへの移行、サイバーセキュリティへの対処、情報システム経費の構造的増大と、情報部門が対処すべき課題は拡大の一途をたどり、役割拡大が一層求められている。本稿では政策文書の系譜を手がかりに、転換が進まなかった構造的要因を分析し、対処の方向性を考察する。
2 政策文書で読み解く情報部門に求められる能力
政策文書を時系列に読むと、情報部門に求められる能力の幅が一貫して広がってきたことが読み取れる。
最も基礎的なのはシステム管理能力である。庁内LAN・LGWAN接続・住基ネット運用といったインフラの構築・運用に必要な能力であり、「2007年新指針」が「従来、情報担当部門の主たる業務は電算システムの管理であった」と振り返ったとおり、長くこれが情報部門の中心的な役割であった。
これに重なる形で早くから求められたのが政策企画・調整能力である。「2003年指針」は「行政ニーズを政策に的確に反映していくための企画立案・調整能力」や「情報システムの品質、コスト、セキュリティ等に関する適切な評価能力」を必要と明記していた。「2007年新指針」は同じ趣旨をさらに具体化し、「今後は業務担当部門が達成しようとする政策目標を理解し、その目標達成に資するシステム化を支援していくことのできる人材」「住民のニーズや現場で業務に携わる職員のニーズを的確に政策に反映していくための企画力、他部局や外部機関との調整や外部委託先企業の調達や管理が適切にできる能力」を求めた。
図1 情報部門に求められる能力(2007年指針以降)

出典:筆者作成
さらに「2007年新指針」は調達マネジメントを正面から掲げた。レガシーシステムのブラックボックス化やベンダロックインの構造的問題に踏み込み、SLA(ITサービス提供事業者と地方自治体との間で、提供するサービスの品質やレベル(稼働率、応答速度など)を数値化し、合意するサービス品質保証(SLA)の締結)の締結・仕様書の明確化・ライフサイクルコスト評価・オープン化・マルチベンダ化の推進等を通じた「発注能力の向上」を求めた。
2014年の「10指針」は、これを自治体クラウド導入という具体的な文脈で展開し、カスタマイズ抑制、中間標準レイアウトの活用、複数自治体間での共同調達・運用マネジメントなど、自団体の内部管理を超えた能力を必要とした。また、「10指針」は指針4において「情報システムの管理運用だけでなく、企画立案能力を有する人材育成を行う」ことを求めている。
このように地方自治体の情報部門に求められる能力は年々拡大傾向にあり、官房部門(財政・人事・企画)の専権機能であった全庁的な施策の企画立案・調整に準じた機能を果たす方向へ変化してきた。しかし、20年にわたりさまざまな段階で求められてきた能力が多くの地方自治体で十分に実現されていないのが実態である。
3 転換を阻む3つの要因
(1)専門性が蓄積されない人事構造
人事ローテーションのもとでは、最低で配属から2~3年後、システムの全体像が見えてきた頃に担当者が異動し、後任はゼロから学び直す。ベンダは同一担当者が継続し、かつ複数自治体の知見を組織的に蓄積するため、知見の非対称性は開く一方である。
公正取引委員会の調査(2022年)によれば官公庁の情報システム調達の98.9パーセントで既存ベンダとの再契約が行われ、約半数が「既存ベンダしか機能詳細を把握できなかった」ことを理由に挙げた。仕様書作成や要件定義といった業務がベンダ任せとなった結果、情報部門には「予算確保・契約・ベンダとの連絡調整」が残った。このため、「何を実現すべきか」という構想力は育ちにくい。
またベンダ提案を精査する能力も不足し、提案をそのまま受け入れてしまうリスクも生じている。本来自治体DXとは行政課題の解決に向けた取組であるが、精査能力の不足がベンダ主導の「プロダクトアウト」的な取組に矮小化させるリスクをはらんでいる。
(2)「官房部門」としての権限の不在
財政課には予算査定、人事課には人事権がある。企画課も総合計画の策定・調整を通じて全庁施策を束ねる。情報部門が横断的調整の権限を持たなければ、BPRを伴わないままシステムだけが導入され、投資効果を最大化できない。権限なき調整は「お願いベース」にとどまらざるを得ない。
(3)脆弱な組織体制
過去、EA(エンタープライズアーキテクチャ)等全体最適化に係る取組の推進では、全庁に対してITガバナンスを構築できた地方自治体と、そうではない地方自治体があり、後者の多くの地方自治体では体制が総じて脆弱であった。
またシステム運用をベンダに委託すれば、本来は職員が政策立案に注力できるはずである。しかし実際には、外部委託の拡大と同時に情報部門の定員は削減された。総務省「自治体DX・情報化推進概要(令和6年度)」によれば全自治体の10パーセントでDX推進担当課室・情報政策担当課室の職員数は1人以下であり、脆弱の体制で契約管理やセキュリティ対応に追われる。
これら要因が未解決のまま、本稿の「1 はじめに」で触れた環境変化、DX関連施策の多様化、セキュリティ要請の高度化、ネットワーク構成の複雑化、円安・人件費高騰等による情報システム経費の構造的増大が重なり、情報部門に求められる役割は一層増している。
4 制約のもとでの現実的対応
以上の構造的要因は、人事制度・定員管理・権限配分という情報部門単独では変えがたい制度に根差す。以下は制約を一挙に解消する処方箋ではなく、制約を認識した上での現実的な対応策を4つに整理する。
第一に、業務所管部門への「プッシュ型」支援の強化である。国のDX施策が多様化するなか、予防接種のデジタル化のように業務所管部門が主体的に対応すべき取組も増えている。情報部門が「ITの相談窓口」にとどまらず、調達プロセスの助言やベンダ提案の妥当性検証を含むBPRと一体の伴走支援を行い、業務所管部門・ベンダ間の情報の非対称性を緩和することが重要である。
第二に、官房としての戦略的調整機能の確立である。財政制約が厳しさを増す地方自治体において、情報システム経費の増大に対し庁内・議会への導入効果の適切な説明が不可欠であり、限られた予算の戦略的配分が重要となる。
予算要求前の段階でIT投資の審査を制度化し、システム稼働後にはセキュリティポリシーとの整合性を検証する。加えて、予算要求段階で補足したシステムの運用及び利用状況を把握し、利用率等が低迷しシステム導入段階の目的が達成されていない場合は、必要に応じて改善施策を提案することが望ましい。
この継続的な関与が全庁システムの状況把握と調整機能確立に向けた足がかりとなる。DX推進計画を基本計画と実施計画に分離した柔軟な体系とすることも有効である。
情報システム経費の一括計上は統制力を高めるが、業務所管部門の当事者意識が弱まるリスクもあり、導入費用は一括計上し運用経費は業務所管部門が要求するなど、インセンティブの整合が必要である。
第三に、デジタル人材の育成・確保である。情報部門の中核には技術と行政の双方を理解する「橋渡し型」人材が不可欠であり、在籍期間を他部門より長く確保する人事上の配慮が必要である。全庁的なデジタルリテラシーの底上げも欠かせない。高度な専門人材がすぐに確保できない場合は、総務省の地域情報化アドバイザー制や外部専門人材との連携も選択肢となり得る。
第四に、全庁的なITガバナンスの確立である。セキュリティ要請の高度化とシステム利用の拡大を踏まえ、投資対効果の可視化やセキュリティポリシーとの整合性検証を継続的に運用することが、情報部門の全庁的な存在感を高める基盤となる。
重要なのは、これら4機能の間に依存関係がある点である。プッシュ型支援と戦略的調整は、人材育成とITガバナンスという土台なしには機能しない。デジタル人材の厚みがあってこそプッシュ型支援は実効性を持ち、ITガバナンスを通じた全庁のシステム状況の把握があってこそ調整が可能になる。この関係を以下の図2に示す。
図2 必要機能間の関係

出典:筆者作成
5 おわりに
「情報管理部門」から「情報政策部門」への転換は、20年来の課題である。その核心は技術の問題ではなく、人事制度・定員管理・権限配分という組織マネジメントの問題にある。「DX人材を確保せよ」と号令をかけるだけでは状況は変わらない。根本的な転換には、専門職制度の導入、定員管理における情報部門の戦略的位置づけの見直し、予算審査権限等の制度的裏付けの付与といった、組織全体での制度設計の変革が不可欠である。
しかしながら、単独の地方自治体で対処すること自体に限界があることも事実である。総務省研究会が取りまとめた「スマート自治体研究会」で提言されたように、情報システムの一層の共同運用だけではなく、将来的には広域でのデジタル人材の育成・確保が必要になろう。この点は、今年1月に発足した第34次地方制度調査会での議論に期待したい。
〔参考文献〕
・総務省「電子自治体推進指針」(2003年8月)
https://warp.ndl.go.jp/web/20041213101016/http://www.soumu.go.jp/kokusai/pdf/0308_a.pdf
・総務省「新電子自治体推進指針」(2007年3月)
https://www.bunkan.jp/images/report/2007/07112_2.pdf
・総務省「電子自治体の取組みを加速するための10の指針」(2014年3月)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000281450.pdf
・総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第5.1版】」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001053409.pdf
・総務省「自治体DX・情報化推進概要~令和6年度地方公共団体における行政情報化の推進状況調査の取りまとめ結果~」(2025年12月)
https://www.soumu.go.jp/main_content/001048571.pdf
・公正取引委員会「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」(2022年2月)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/feb/220208_system/220208_report.pdf
・一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書2025」(2025年4月)
https://juas.or.jp/library/research_rpt/it_trend/
*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。
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