
【特別対談】《前編》「女性活躍」の基盤となる「女性の健幸(Well-being)」の最大化に向けて
NEW地方自治
2026.05.27
目次
「女性活躍」の基盤となる「女性の健幸(Well-being)」の最大化に向けて
―「女性が輝く社会」や「女性の健幸」を阻むアンコンシャスバイアス解消のヒント―
少子高齢化や人口減少が進み、企業や地域などにおいて女性ならではの視点が注目される中、女性活躍推進と女性の「健幸(Well-being)」が重要な政策テーマとなっている。そこで、男女共同参画担当等の大臣を務めた上川衆議院議員と筑波大学大学院の久野教授に、政策推進とアカデミアの立場から、女性の活躍推進と健幸の向上に向けた取り組みの経緯と現状、直面している課題、今後のあり方などについて語り合っていただいた。

左:上川陽子(かみかわ・ようこ) 衆議院議員、自由民主党女性活躍推進特別委員会委員長。内閣府特命担当大臣・法務大臣・外務大臣などを歴任
右:久野譜也(くの・しんや) 筑波大学大学院教授・内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」プログラムディレクター
「女性が輝く社会の実現」のための政策を提言
久野 自由民主党の女性活躍推進特別委員会委員長(コラム❷参照)、ヘルス&コミュニティ(H&C)議員連盟2・0の会長(コラム❸参照)を務めている上川先生に女性活躍、女性の健康をテーマに対談させていただきます。先生は少子化対策・男女共同参画担当の大臣を務めるなど、女性の問題に長年取り組まれてきました。まずは、女性活躍推進の取組経緯についてお聞かせください。
上川 女性活躍というキーワードが生まれるきっかけをつくったのは、2013年に設置した自民党の女性活力特別委員会でした。その委員長を務め、「女性が輝く社会の実現」のための政策を提言しました。その柱は、①女性が世界で輝くために、②地域で女性が輝くために、③女性活躍のフロンティア、④女性の活躍のための社会基盤整備でした。
提言の第一のポイントは、企業や組織でキャリアを持って働いている女性とそうではない女性を分断しないことでした。仕事に専念している女性、仕事とのバランスを取って子育てしている女性、地域社会で活動している女性など、様々な価値観の女性が活躍すべきという問題意識を持って女性活躍について考えました。つまり、女性のキャリアについて焦点を当てると同時に、ボランティア活動を行うなど地域で役割を果たしている女性の存在も前提にして議論を進めたのです。
久野 家事に誇りをもって専念している女性もいますしね。
上川 そういう女性の中にも、地域や生活の中での目線を活かして、商品やサービスの開発でスタートアップして経済社会で活躍する動きもありました。ですから、女性が持っているキャパシティを最大限ディベロップしてもらうための様々な制度づくりを一つの柱にしました。それから、組織の中で積み上げてきたキャリアを、女性とか男性で括らないで、ライフスタイルの中で変化があった場合でもそのキャリアを継続できるよう、あるいは能力をディベロップできるような形にしていくことも考えながら、女性活躍を広げていくために何を行わなければならないのかを議論し、提言しました。
政府が毎年策定する「女性活躍・男女共同参画の重点方針」の通称で、経済財政運営の基本指針である「骨太の方針」の男女共同参画版として位置づけられており、各省庁が翌年度の予算要望(概算要求)に反映させるべき最優先事項をまとめている。
「女性版骨太の方針2025」(2025年6月策定)では、「仕事と健康課題の両立の支援」や「性差を考慮した生涯にわたる健康への支援」などが記載された。
6月には「女性版骨太の方針2026」が策定され、内閣府HPで公開予定。

上川陽子衆議院議員
女性の声を地道につなげ今の政策がある
久野 女性活力特別委員会の提言のほか、これまでどのような活動を展開してきたのでしょうか。
上川 遡りますが、私は自民党立党50年の前年の04年に党の女性局長に就任しました。女性の国会議員、地方議員は少なく、自民党は特に少なかったのですが、女性部という全国組織がありました。選挙時の候補者の応援団的な組織ですが、幅広い層の女性が参加していたにもかかわらず、政策ポリシーへ声がなかなか届きにくい面がありました。それで政策審議委員という新しい制度ができ、地域社会のいろいろな声を集めて政策につなぎ、政治に参加してもらう女性活動に切り替えました。その際の一つの方向性として少子化というテーマをセットし、1年かけて全国の女性部の皆さんを対象に、7711人のアンケートを行いました。
久野 対象は女性ですか。
上川 女性だけです。女性が生まれてから亡くなるまでの人生のステージにおいてどのような課題があるかの声を集め、その解決に向けて政策提言することを企画しました。そして50周年の記念イベントとして自民党でシンポジウムを行い、女性の参加者に発言してもらいました。
久野 当時、どのような提案をなさったのでしょうか。
上川 少子化対策について、「子どもHAPPYプロジェクト」と名づけて提案し、子どもたちを取り巻く政策の芽を育てる活動を進めました。そのベースは、女性に単に声を出してもらうだけでなく、政策立案の芽につなげることでした。この少子化対策のプロジェクトが評価され、私は07年に第1次安倍改造内閣で内閣府特命担当大臣に任命されました。
高階恵美子衆議院議員が座長を務め、出産や育児だけでなく女性のライフステージに応じた健康支援や、働く女性のヘルスケア支援策を包括的に検討するのが主な目的。上川議員は女性活躍推進特別委員会のトップとして、女性と健康PT を含む複数のPTを統括している。「女性の健康週間」(毎年3月1日~8日)直後の3月9日・16日に会議が開催され、有識者や関係省庁から女性の健康に関する現在の取り組みや課題についてのヒアリング、女性の生涯にわたる健康課題を幅広くカバーする支援策の具体化に向けての議論などが実施された。

久野譜也教授
多様な女性の価値観を分断しない
久野 少子化対策、男女共同参画、食育、青少年育成の特命担当大臣でしたね。
上川 その中で、少子化対策と男女共同参画はかなり強いつながりがあり、自称こども家庭庁とラベリングして、いつもドアオープンしていますといって誰でも入れるようにしました。安倍内閣に続いて福田内閣になりましたが、私は再任されて少子化対策や男女共同参画などの政策を継続しました。そのときの私の問題意識は、先ほどお話しした女性を分断しないことでした。専業主婦で子育てや介護を行っている女性とキャリアの女性との間の意識に少しギャップがあったからです。分断しないように意識したのが、仕事と生活の調和、ワーク・ライフ・バランスでした。「ワーク・ライフ・バランス憲章及び行動指針」を策定し、150ぐらいのKPI、例えば育児休業の取得の有無などのメルクマールをつくりました。また、男性は仕事に追われて家事や育児に関わらないという性別役割分業の世界から、男性が女性の取り組んでいることの中に入り、女性も男性の取り組みの中に入っていく、というキャリアディベロップメント的な世界への転換を図り、そして、女性の労働力率が結婚や出産で仕事を辞めるために下がる「M字カーブ」をなるべく台形にしていく、すなわち離職しないで済む取り組みも進めてきました。
地域のつながりと健康長寿社会を目指し2025 年に本格再始動した議員連盟で、SWC(スマートウエルネスシティ)首長研究会などと連携している。2025 年4月22日の第2回会合では、つくばウエルネスリサーチの塚尾晶子副社長が登壇。子育て女性及び若齢・中年・高齢期それぞれの女性特有の健康課題と就労との関係について、少子化や人手不足といった観点から話題提供し、その対策として内閣府SIP の一環で推進する「マムアップパーク」の狙いや成果などを紹介した。
避難所・防災訓練現場は性別役割など社会の縮図
久野 具体的には、どのようなことに取り組んだのでしょうか。
上川 政策を進めるには地域が大事で、国主導のルールをつくりすぎると地域はついてこなくなります。私は、地域で活動している人に頑張ってもらえることを常に意識しています。政策立案は行動とセットにしなければ前進しません。中央で決まったルールをディストリビュートするときもオペレーションするときも、地方や地域の人たちがそのルールに共感しなければ実現しないので、全国を回って地域の声に耳を傾けました。
その中で気づいたことは、災害時や防災でリーダーシップをとるのは男性で、食事の世話や炊き出しなどは女性が担うというステレオタイプがいまだに根強いということでした。避難先でも防災訓練の現場でも、性別役割分業が生じていたのです。
久野 確かにそう感じますね。
上川 そのようにアサインされているわけです。
久野 それはある意味、アンコンシャスバイアス(*)ですね。
上川 力仕事は男性で、料理は女性といったアンコンシャスバイアスが社会に根づいています。しかし、道具を使えば女性でも重い物を動かせますし、料理の好きな男性もいます。そういう中で子どもは育つので、日常的に目にする社会から直していかなければならないと感じました。いくらポリシーでアンコンシャスバイアスがあるといっても少しも変わらないので、意識してアクションオリエンテッドで解消していかなければならないと強く感じています。
久野 どうやって解消していけばいいのでしょうか。
上川 あらゆるステージで取り組む必要があります。特に災害現場や防災は象徴的なステージだと思います。避難生活は、被災による死傷だけでなく、災害関連死の危険があり、命と健康に直結します。
例えば、周囲を気にしてトイレを我慢するために水を飲まないという高齢者がかなりいますが、血栓ができて肺塞栓症で亡くなる可能性が指摘されています。ですから、我慢しなくてもいいようにトイレの環境整備を行う、オープンなところではなかなか眠れないので寝る場所はクローズにする、抱っこ紐の中で授乳しなくてもいいように授乳室をつくる、といったことは、男性には思いつかない可能性が高く、女性の目線が欠かせませんし、専業主婦的な役割を男性に広げていくことも大事だと思います。性別役割分業が生じている災害時の避難所や防災訓練の現場は、日本社会の縮図だといってもいいでしょう。
そこでのアンコンシャスバイアス解消の一歩として、女性局長のときに女性活躍推進本部で提言を出し、キーワードを「男女共同参画」から「共同参画」にしました。
久野 「男女」を外したのですね。
上川 「男女共同参画」は女性が男性の働き方の中に入るようなイメージが強いので、女性目線の生活レベルに男性も入って、ワーク・ライフ・バランスを実現する思いを込めて、「共同参画」にしました。
久野 女性活躍推進の歩みを感慨深く聞かせていただきました。その中で、災害時の避難所や防災訓練における性別役割分業の解消は、アンコンシャスバイアスの解消を考える上で大きなヒントになりました。その辺りの視点も踏まえ、続く後半では、内閣府SIPも含め、女性活躍推進の現状と今後について語り合います。
【後編に続く】
*日本語で「無意識の思い込み」などと表現される。性別、年齢、職業などに対し、過去の経験や環境から知らず知らずのうちに偏った見方をしてしまう思考の偏り。
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