
寺本英仁の地域の“逸材”を探して
寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第10回|離島の役場事情 町職員が守る空の旅【奥尻空港(北海道奥尻町)】
NEW地方自治
2026.01.06
この記事は3分くらいで読めます。
出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年1月号 【WEB限定連載】
◆離島の食文化と役場事情
2025年8月から北海道奥尻町のアドバイザーに就任した。奥尻町は北海道南西部の日本海に浮かぶ外海孤島で、人口約2000人が住む。複雑な海岸線を持つこの島は食材の宝庫で、ウニなどの海産物や、「おくしり和牛」、また、潮風に吹かれて育ったブドウが独特の風味を生み出す奥尻ワインと、まさにA級グルメの島と言っても過言ではない。今回は、そんな奥尻町の役場で空港管理を担当する津山千尋係長をご紹介しよう。

北海道奥尻町職員の津山千尋さん。
この島ではまず、食材の豊かさに感動させられるのだが、次に驚かされたのは役場職員の多岐にわたる仕事ぶりだ。離島という特殊環境により、そうせざるを得ないのだろうが、高校も病院も町立で、車の整備工場も町が直営をしているのだ。
◆町職員がつなぐ空路と島の未来
今回紹介する津山さんの職場である空港も、役場がJALから委託を受け、飛行機の運営業務を行っている。この事例は全国でも珍しい。役場職員が手荷物検査や空港デスクを担当していて、側から見るとJALの職員と見分けがつかないのだが、彼らはれっきとした奥尻町役場職員なのである。


奥尻空港。JALから委託を受け、町役場が運営を行っている。

空港で働くのも役場職員だ。
空の安全を守る空港業務は、役場の人事異動ですぐにできるものではない。もちろん必要な知識と技術は、JALなどが主催する研修会で習得の機会があるが、日々の仕事は再三の注意を払って行わなければならない。僕はこの1年間に5回、奥尻に向かったが、そのうち2回は天候不良のため欠航になった。離島ならではの状況で、簡単な就航ではない。
津山さんに話を聞くと、毎回のフライトすべてで条件が異なるので、その度にブリーフィングとデブリーフィングを繰り返し、日々のデータを集積して安全な運行に努めているそうだ。その緊張感は、僕には想像がつかない。だが、この空港があるからこそ僕は奥尻町に行くことができるし、奥尻町民にとっては函館や札幌に行くための貴重な交通手段になっているのである。

入念なブリーフィングが安全運航には欠かせない。
北海道江差町出身の津山さんは、大学時代に学芸員の資格を取得し、たまたま奥尻町に学芸員の募集があって受験をしたそうだ。「まさか、役場職員になって空港で仕事をするとは思ってもみなかった」と語っていたが、今ではベテランの域に達して、後輩の指導にも尽力している。物静かで実直な雰囲気を醸し出す津山さんだが、仕事では言うべきことを言い、後輩の意見も聞き入れる。そんな柔軟な姿勢を、インタビューを通じて感じた。
今ではしっかり島の住民としてなじみ、2人の子どもの成長を見守っている。来春には息子さんが中学を卒業して、進学のため巣立っていくそうだ。離島特有の事情で親子が別れなければならないのだろうが、この空港がある限り親子の絆はつながれるだろうと、インタビューをしながら僕はセンチメンタルな気持ちになった。
現在、奥尻町ではホテルの建設に力を入れている。もちろん、島に沢山の観光客が訪れてくれることも目的の1つだろうが、人口が減っていく中で、住民と奥尻、函館・札幌をつなぐ架け橋である空港を残すために、町は新しいホテルの建設を考えているのではないかと僕は思った。
この美しい島が持続していくために、津山さんをはじめ、多くの奥尻町役場職員が奮闘している。彼らの今後の展開が、とても楽しみだ。

空港が人々のつながりを結んでいる。
著者プロフィール
寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役
1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。
★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

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