議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第48回 理論と実務のギャップを埋めるものは何か?

地方自治

2021.02.18

議会局「軍師」論のススメ
第48回 理論と実務のギャップを埋めるものは何か? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2020年3月号

 昨年末、非公式の場ではあったが総務省幹部と地方議会制度について、意見交換する機会に恵まれた。論点はいくつかあったが、ここでは主に地方自治法(以下「法」)第115条の2に規定する公聴会に関する議論について述べたい。

■公聴会活用を目指す意義

 地方議会への住民参画(広聴)手法としては、議会報告会(住民との意見交換を主旨とするものを総称)を実施することとの認識が定着している。住民に議会を身近に感じさせるとともに、議会の政策立案に資するケースもあり、一つの広聴手法として否定するつもりはない。

 しかし、それが議事機関として民意を聴取するための最優先されるべき手法とは思わない。それは、議会報告会は、重要だからこそ議会で審議される議案や請願等について民意を聴取することを、必ずしも目的としたものではないからだ。また、法定手法ではないため、住民意見が主たる議会活動である本会議や委員会の会議録に反映されないことも、議事機関の本質に迫る広聴手法とは言えないと考える所以である。

■使えない法定公聴会制度

 大津市では令和元年9月議会に、公民館をコミュニティーセンターに次年度から順次移行させることを主旨とする、コミュニティーセンター(以下「コミセン」)条例案が上程された。市全域で市民生活に直結する議案であるとともに、地域によって賛否両論だったため、公聴会開催が議会内部で検討された。

 公示後、公述人の公募期限までに適正期間を確保すると、9月議会の会期日程に収まらないため、11月議会の初日に冒頭採決する案が浮上した。だが、9月議会最終日に採決されないことによって、次年度当初からのコミセンへの移行準備に支障をきたすため、事実上の否決と同じとの執行機関からの意見も理由の一つとなり、公聴会の開催が見送られた経緯がある。法では公聴会を開催できるのは議案、請願等とされているため、上程されてからでなければ開催の公示はできない。公述人の公募期間を確保すると、通常の会期日程内で採決することは、実務上困難である。

 以上の主旨を伝えて、議案上程前に公聴会開催手続に着手するための法改正を、総務省幹部に要望した。

■現場ニーズを伝える必要性

 もちろん、今回、現場ニーズを伝えたからといって、すぐに法改正が実現するなどとは思っていない。事実、大津市議会では条例改正による独自広聴制度の創設について、議論されている。しかし、法定公聴会制度を日常的に活用するには、制度自体を使いやすく改正する必要性を感じており、国に現場の実務に関する理解を得なければ、抜本的解決には至らないのも事実である。

 机上の理論と現場の実務がすれ違う例は珍しくないが、市民にとっては不幸なことでしかない。今回は、たまたま総務省幹部から声をかけられたので、要望を伝える機会があったに過ぎず、私が努力して得た機会ではない。一方で総務省幹部からは、制度設計する立場から少しでも現場を知ろうとする熱意を感じた。

 対案なき批判では当事者の共感は得られない。現場の政治家である議員や実務家である局職員も、現行の法規定や制度が使えない現実を諦めるのではなく、制度設計に関わる理論家である官僚や学者に、建設的な対案を発信しようとする熱意が必要だと、改めて感じさせられた次第である。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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