自治体DXナビ

J-LIS編集部

自治体DXナビ|変えようという雰囲気と変えられる土壌づくり(前編)

NEW地方自治

2025.12.05

≪ 前の記事 連載一覧へ
時計のアイコン

この記事は4分くらいで読めます。

「自治体DXナビ」は「月刊 J-LIS」で連載中です。
本誌はこちらからチェック!

月刊 J-LIS年間購読

ご購読なら年間購読がお薦め!

月刊 J-LIS(年間購読)
編著者名:ぎょうせい/編
詳細はこちら ≫


この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2025年4月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

自治体DXナビ
変えようという雰囲気と変えられる土壌づくり(前編)

静岡県伊豆市 CIO補佐官 中村 祥子

御縁から始まったCIO補佐官

 はじめまして。2022年7月より静岡県伊豆市のCIO補佐官に就任しています。私と伊豆市役所との関わりは本当に御縁としか言いようがない状況から始まったのでした。

 2022年2月、出勤することがほとんどなくマンション一室での仕事に飽き飽きしていた私は、新しい働き方として、東京と静岡県伊豆市の二拠点生活を開始しました。ちなみに、私が伊豆市を選んだ理由は、東京から程よい距離で、自然も温泉もあり、10年来の知人が近くに住んでいたからという至極単純な理由からでした。

 伊豆市での生活を始めて間もなくすると、その知人から1件の依頼がありました。「伊豆市でマイクロソフトに勤めている人なんて珍しいから、今度、伊豆市民向け勉強会に登壇して何か話してよ」。突然の依頼で何を話そうか迷ったものの、その当時、担当のお客様にもよく話すことのあった「DX」をテーマに話をさせていただくことにしました。まさか、それがきっかけで、市長・副市長にもお話させていただく機会をいただき、ちょうどCIO補佐官の登用を考えていた伊豆市からCIO補佐官就任のご提案をいただくとは、その時は思ってもいなかったのでした。

伊豆市におけるDXの取り組み

 思いがけない御縁からCIO補佐官になったものの、やるからには伊豆市に貢献していきたいと、そこからは試行錯誤の日々が始まりました。

 まず、伊豆市のCIO補佐官になって一番はじめに実施したのはDXの必要性を理解してもらうためのマインド研修でした。伊豆市は、現在人口3万人弱で、約20年の間に人口が1万人減少しており、出生数の減少、少子高齢化も進んでいます。つまり、市役所職員の数も今後減少が見込まれているということです。業務が回っている今のうちに職員全員が意識して生産性向上施策に取り組んでいく必要があり、優先度の高い考え方として「投下労働量を減らしていくこと」を各職員への取り組み目標に掲げました(図-1)

図-1 伊豆市DX研修資料
研究資料の説明図

 ただ、いきなり「今まで3日で実施したものを2日で終わるようにしましょう」と言ったところでできるわけではないので、「手間取っているな」「意外と時間取られているな」と思う業務を、まずは各課で挙げていただきました。挙げていただいた業務の中から、改善するとインパクトが大きそうな業務を抜き出し、各課の方にヒアリング。いつ、誰が、どのタイミングで何を実施しているのかじっくり聞きながら、聞いた内容を一緒に業務フローへと書き出していきました。

 ヒアリング当初は、業務改善ポイントとして、いま手間取っている個所をシステム化することばかりが取り上げられていましたが、実際に業務フローに書き出して俯瞰してみてみると、なくせる業務や抜本的なシステム化案が出てきました。この当時、まだkintoneなどのノーコードツールを導入する前だったので、RPAやOCRを使用した業務改善は、すべてデジタル戦略スタッフがシステム設計から開発まで全般を担って実施していました。

 秋が深まる頃、次年度予算に向けて話をするようになってきました。ここで私がどうしても次年度予算に組み込みたかったのが、市役所の庁内無線化とPC入替えです。PCが有線LANケーブルに接続されて持ち運びができないために、会議は資料を常に人数分印刷し、議事録の元ネタは常にノートへメモ、そして会議が終わると議事録を作成という、改善の余地しかない働き方をしており、これが会議分発生すると思うと、面白いくらい投下労働量が減らせるポイントだと考えていました。また、PC入替えによりオンライン会議も容易にできるようになれば、移動時間の削減も期待できるため、次年度予算には絶対組み込めるだろうと思っていました。12月中旬にデジタル戦略スタッフメンバーから「補佐官、NGくらいましたー!」という報告を聞くまでは。

身の丈にあった施策を

 12月中旬、市役所に赴いたタイミングで、通らなかった予算内容を見せてもらいました。予算内訳として添付されていた企業からの見積には、無線化設置対象の優先度としては低い出張所や保育所なども含まれており、大量購入による値引き率は高いものの、かなり無駄が多い内容に。財源に余裕のない現状において、これでは身の丈にあっていない設備投資なので、無線化対象の建物を主要建物に限定し、PC入替え対象者も全面的に見直しを実施してもらいました。あわせて、今回の投資により変わる働き方と、それにより得られる効果を試算した内容を、見積添付資料に追加して再度予算審議に臨んでもらいました。結果、なんとか2023年度の予算に庁内無線化とPC入替えを組み込む了承を得ることに成功したのでした。

 一見、良さそうに見えるインフラ全域の変革ですが、注意が必要です。インフラのように使用開始後にメンテナンスを伴う場合、実装後の体力も意識しておく必要があります。「一度に全域に導入すると割引率が高いですよ」と言われても、あまり使用しないところにまで体力や費用をかけるのは無駄です。それであれば、自分たちが対応しきれる範囲にとどめた方が、余裕ができるので精神的にも良いです。また、今回の無線化の話でいくと、使用人数や頻度が少ないのであれば建物を無線化対応しなくても、ポケットWi-Fiなどを代替手段として考えることが可能です。

 2023年に庁舎無線化とPC入替えを実施したことにより、伊豆市は働き方がずいぶん変わってきました。会議のための資料印刷作業がなくなり、会議スケジュールに議事録とその会議資料が添付されることで欠席者へのフォローもほとんど必要なくなり、今まで議事録作成等に使っていた時間は、自分の作業時間にすることができるようになりました。

 ほかにも、紙で運用していたことで電子化できることがあるのではないか? という業務見直しも、若い職員を中心に行われるようになり、グループウェアを活用した課内供覧等の資料共有も電子化されていきました。

ノーコード宣言シティーへの参画

 「『自分たちで業務を変えていこう』という雰囲気づくりが一部でもできてきたら、変えられる土壌づくりも必要だよね」と考えていた矢先、一般社団法人ノーコード推進協会(以下「NCPA」という。)が「ノーコード宣言シティー」というプログラムを始めることを耳にしました(図-2)。このプログラムは、宣言する自治体においてメリットはあっても、デメリットはないと感じた私は、さっそく市長・副市長にも提案し、第一次宣言自治体に名を連ねたのでした。

図-2 ノーコード宣言シティープログラムの内容
プログラムの内容

 そして、まず伊豆市で取り組むノーコードツールとしては、2023年度の計画に差し込んだ「kintone」について全庁でチャレンジしていくのでした。

Profile

中村 祥子 なかむら・しょうこ
2000年に現株式会社日立ソリューションズに入社し、プリセールスやプロジェクトマネジメントなど幅広い経験を積み、2019年に日本マイクロソフト株式会社へ転職。カスタマーサクセスマネージャーとしてデジタル変革を推進する中、2022年より東京と伊豆を拠点とする生活を始め、副業として伊豆市CIO補佐官を務める。2024年独立後は、企業規模を問わずDX 支援やアドバイザー業務、研修講師として活躍し、その経験を自治体DXの推進にも活かしている。

 

この記事は、前・後編の「前編」です。
後編が気になる方は、「月刊 J-LIS」2025年5月号をご購読ください!

月刊 J−LIS 2025年5月号

月刊 J-LIS 5月号
特集:踏み出そう、観光DXへの第一歩
編著者名:ぎょうせい/編
詳細はこちら ≫

「自治体DXナビ」は「月刊 J-LIS」で連載中です。
本誌はこちらからチェック!

月刊 J-LIS年間購読

ご購読なら年間購読がお薦め!

月刊 J-LIS(年間購読)
編著者名:ぎょうせい/編
詳細はこちら ≫

 

≪ 前の記事 連載一覧へ

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

J-LIS編集部

J-LIS編集部

地方公共団体情報システム機構/編 毎月1日発売 情報化の促進と情報通信技術の利用水準の向上のために必要な最新情報や運用事例の紹介などを多数収録。

閉じる