政策トレンドをよむ 第4回 地方自治体における外国人材受入―外国人材に選ばれるために

地方自治

2023.08.03

目次

    ※2023年6月時点の内容です。
    政策トレンドをよむ 第4回 地方自治体における外国人材受入―外国人材に選ばれるために
    EY新日本有限責任監査法人CCaSS事業部プリンシパル

    中務貴之
    『月刊 地方財務』2023年7月号

     第4次産業革命下において、わが国だけでなく国際的にも人材獲得競争が激化する中で、高度な知識・技能を有する外国人材を受け入れて経済の生産性やイノベーションを加速させていくことは避けられない状況となっている。また、国内の多くの地域では、人口減少や高齢化が進行しており、地域経済を支える人手不足が深刻化している。地域経済維持・発展に向けて、地方自治体をはじめとするさまざまなプレイヤーが協力しながら、地域の実情に応じて、地域人材に関するさまざまな工夫・取組を実施しているところである。

     政府では、国内企業のニーズに応じた外国人材が長期にわたりわが国で活躍できるよう、外国人留学生の呼び込みから就職に至るまで一貫した対応を行うとともに、地域社会の重要な構成員として、国籍等にかかわらず外国人が暮らしやすい地域社会をつくっていくためにさまざまな取組を推進している。

     直近では、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」において、本年5月中間報告書がとりまとめられたところである。外国人との共生社会の実現のためにも、人権に配慮しつつ、わが国の産業及び経済並びに地域社会を共に支える一員として外国人の適正な受入を図ることにより、日本で働く外国人が能力を最大限に発揮できる多様性に富んだ活力ある社会を実現するとともに、わが国の深刻な人手不足の緩和にも寄与するという観点で、技能実習制度と特定技能制度が直面するさまざまな課題を解決した上で、国際的にも理解が得られる制度を目指している。最終的には、本年秋に具体的な制度設計について意見をとりまとめることとなっている。

     外国人材受入について考えるにあたり重要な観点は、人材本人のキャリアや人権的配慮は勿論のこと、当該人材の母国、更には受入企業、生活する地域社会との関係についても広く考える必要があるとこれまでさまざまな識者や調査レポートでも述べられているところである。制度の問題は色々あるものの、基本的には以下がポイントとして挙げられる。

    ●日本を選んでいただくためにも正しい情報提供による理解の促進(現地国等ではいまだに来日までの情報や働くこと等に関する情報が正しく伝わっていないこともある)

    ●日本語教育や日本で働くにあたっての基礎から職種技能に関する教育の実施(一定のレベルを維持しないまま送り出されている現状が一部存在する)

    ●受入企業や地域と本人の相互理解の促進(マッチング段階、実際に働き・生活する段階)

    ●定住・帰国など将来的な進路を想定した関係性向上

     特に、人材獲得競争が激化している中で、「日本が選ばれる」ためにも、単に給与面の待遇だけの話ではなく、一連のキャリアパスにおいて、外国人材本人にとって長い目でみた際に日本に来ることが魅力あるものになっているかどうかが非常に重要になる。

     地域および地域企業での外国人材受入を考えるにあたっては、①送り出しに関わるステークホルダーがどのような思想を持って一連のプロセス・基準を定めて当該人材に関わっているのか、②受入企業とのマッチングプロセスが単に人手不足を埋めるためのものになっていないか、③域内企業の受入後の状況はどうか(外国人材本人だけでなく、受入側の既存従業員の心理面も含めた負担等の状況、生活に係る地域住民との関係)、が大きなポイントとなっており、そのための支援体制構築(手間・コスト)は重要な観点と考えられる。

     業界によっては、業界団体や関連団体が支援を実施しているものや、支援にあたってそもそも外国人受入に関する考え方を明確にうたっている(しっかりと情報を開示しているような)民間企業もあるため、このような情報を入手しつつ適切に選び、然るべき支援体制を整えるということが必要であろう。先進的な外国人受入の取組を行っている地域・自治体では、さまざまなネットワークを構築したりしながら、多様な情報の中で前述のような観点の認識の下で実施・協力体制を築いているといえる。

     日本の文化や安全・安心な生活環境、それを支えるヒトとしての魅力がわが国にはあり、加えて、日本企業の技術やノウハウ、仕事に対する考え方・マナー、労働環境などの改善に向けた意識の高さなど、給与待遇面以外でも誇れるものは多い。他国と比較した際の日本、さらには各地域での共生の強み(働く、生活する)を意識して、関係するさまざまな関係者らと議論・協力しながら進めていくことが求められる。

     

    〔参考文献〕
    ・出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議中間報告書(令和5年5月)」
    https://www.moj.go.jp/isa/content/001395635.pdf
    ・ほか政府委託調査等


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    持続可能な社会のための科学技術・イノベーション | EY Japan
    多様な人材の活躍推進(DEI、外国人材の受け入れ・共生、新たな学び方・働き方) | EY Japan

     

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