公務員が読みたい今週の3冊
公務員が読みたい今週の1冊【著者インタビュー編】――「ネット世論の社会学」
NEWキャリア
2025.01.14
今週、何読む?
読書の習慣をつけたいと思いながら、まだ始められていない…。
日々読書を嗜んでいるが、そろそろネタ切れ…「次は何を読もうか」検討中。
そんな公務員の方はいませんか?
「公務員なら読んでおきたい」業務に役立つ必携図書や、「公務員の皆様が楽しく読める」おすすめ図書をガバナンス編集部がピックアップ。
「公務員が読みたい今週の3冊」では毎週3~4冊をご紹介。
特別編「公務員が読みたい今週の1冊」ではたっぷりの著者インタビューとともに、おすすめの1冊をじっくりとご紹介します。
「今週読みたい図書」の選定にぜひお役立てください。
「ネットの意見」は誰の意見?その正体と向き合う
「ネット世論」の社会学
データ分析が解き明かす「偏り」の正体
谷原つかさ・著
NHK出版新書/930円+税
著者プロフィール
谷原つかさ(たにはら・つかさ)
立命館大学産業社会学部准教授
1986年生まれ。専門は計量社会学、メディア・コミュニケーション論。東京大学経済学部卒業。中央官庁勤務を経て、慶應義塾大学にて博士号(社会学)を取得。関西社会学会大会奨励賞、社会情報学会論文奨励賞を受賞。著書に『〈サラリーマン〉のメディア史』(慶應義塾大学出版会)、『消費と労働の文化社会学』(共著、ナカニシヤ出版)など。
「ネットの意見」は誰の意見?その正体と向き合う
―― 著者インタビュー
ネットではこう言われている――そんな文句を耳にすることが増えた。でも実際、「ネット」とは、あるいは「ネットの言説を形づくるもの」とは、一体何なのだろうか?
本書はそうした「ネット世論」の正体を、定量的なデータ分析により解き明かしていくものだ。主に、日本のアクティブユーザー数が6700万人(23年時点)にものぼるX(旧Twitter)に焦点をあて、21年衆院選、22年参院選、23年の大阪府知事選や旧ジャニーズ性加害問題など、時事ごとのネット世論を分析。
情報の「クセ」を明らかにするとともに、読者をネット世論との向き合い方へと導いていく。
谷下さんは以下のように話す。
「ソーシャルメディア研究を始めたきっかけは21年の衆院選。ネット上ではアンチ自民党的な言説が多くみられた一方で、実際には多くの議席を獲得する結果となり、そのギャップに興味をひかれた」
普段、同様の違和感を覚えている人は多いのではないか。本書も、やはり同じ疑問を抱えていた版元の編集者から声がかかる形で、新書として出版することになったという。
「一般の方に向けて書くうえでは、統計的な考え方や用語説明をなるべく噛み砕いて表現するようにした。また、本書には多くの図表・グラフが登場するため、頭に入りやすいデザインになるよう工夫した」
その言葉どおり、統計などの予備知識がなくてもスムーズに理解でき、最後まで一気に読み進められる点が本書の特長だろう。
選挙といえば、先の衆院選での自民党大敗は記憶に新しい。そのことについて谷原さんは以下のように言及、続けて展望を示した。
「今回の選挙は、ネット世論とリアル政治の関係が転換する非常にエポックメイキングな結果となった」
「今はまさにソーシャルメディア上のコミュニケーションの変革期。これまで日本の選挙において、ネット世論はそれほど影響力をもたないとされてきた。しかし、昨今の都知事選と衆院選でその流れも変わってきたように思う。これを機にネット戦略を重視し始める政党も出てくるだろう。ネットで情報収集し、意見を投稿し、投票も行う若年者層という集団が可視化されつつある。そうした動向に気を配りながら、ネットユーザーの政治行動について実証研究を続けていけたら」
谷原さん自身、研究者になる以前は公務員として勤めていた経歴がある。その当時を振り返り、「現在の職員のほうが、ネットの言説を目にする機会は増えているはず」と指摘。そして、読者に以下のようにエールを送った。
「例えば、政策に対するネット上の意見は批判が多く目につき、職員としてしんどくなることも多いだろう。そんなとき、本書からネット世論の仕組みに触れることで、そうした意見との向き合い方のヒントにしてもらえれば」