政策事例研究 vol.2 - 異次元の少子化対策②
キャリア
2024.09.02
★本記事のポイント★
1 有配偶者の世帯で希望する数のこどもを持てない理由としては、子育てにお金がかかることと男性の家事・育児関連時間の低さがある。 2 男性の育児参画を促進するため働き方改革の取組みが行われてきた。 3 男性の育児休業取得を促進させる施策を考察する。
前回に引き続き、少子化対策に関する課題などについて考察したいと思います。今回は、男性の育児参画に焦点を当てたいと思います。
1.少子化の背景と乗り越えるべき課題 - 男性の育児参画
こども未来戦略(異次元の少子化対策①参照)では、こども・子育て政策を抜本的に強化していく上で乗り越えるべき課題の②子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境があることに関して、「女性(妻)の就業継続や第2子以降の出生割合は、夫の家事・育児時間が長いほど高い傾向にあるが、日本の夫の家事・育児関連時間は2時間程度と国際的に見ても低水準である。また、こどもがいる共働きの夫婦について平日の帰宅時間は女性よりも男性の方が遅い傾向にあり、保育所の迎え、夕食、入浴、就寝などの育児負担が女性に集中する「ワンオペ」になっている傾向もある」「一方で、男性について見ると、正社員の男性について育児休業制度を利用しなかった理由を尋ねた調査では、「収入を減らしたくなかった(39.9%)」が最も多かったが、「育児休業制度を取得しづらい職場の雰囲気、育児休業取得への職場の無理解(22.5%)」、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった(22.0%)」なども多く、制度はあっても利用しづらい職場環境が存在していることがうかがわれる」と指摘しています1。
有配偶者の世帯で希望する数のこどもを持てない理由としては、子育てにお金がかかることと男性の家事・育児関連時間の低さがあります。これまで育児休業制度は、女性が仕事と育児を両立するためには役立ちましたが、女性に育児負担が集中することにもつながりました。男女とも育児に参画しない限りは、希望する数のこどもを持てないことになります。
このことを図式化すれば、次のようなものでしょう。
この点、同戦略が「少子化には我が国のこれまでの社会構造や人々の意識に根差した要因が関わっているため、家庭内において育児負担が女性に集中している「ワンオペ」の実態を変え、夫婦が相互に協力しながら子育てし、それを職場が応援し、地域社会全体で支援する社会を作らなければならない」としているのは2、問題の本質を捉えた指摘だと思います。
2.働き方改革
政府は、これまでも働き方改革に取り組み、平成29年には、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定) を決定し、長時間労働をはじめとする我が国の雇用慣行における諸問題に対して、改革実現の道筋を示しました。また、平成30年には、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が制定され、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置が講じられました。なお、この法律により、「雇用対策法」が「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法) に改正され、労働施策総合推進法第10条第1項に基づき、「労働施策基本方針」(平成30年12月28日)が策定され、働き方改革の意義やその趣旨を踏まえた国の施策に関する基本的な事項等が示されています。
また、同戦略においても、男性の育児休業取得の促進や育児期を通じた柔軟な働き方の推進のため、次のような施策のメニューが提示されています3。
・男性の育児休業取得率の政府目標の引上げ ・一般事業主行動計画について数値目標の設定や育児休業取得率の開示制度の拡充 ・育児休業給付の引上げ ・育児休業を支える体制整備を行う中小企業に対する助成措置の強化 ・子育て期の有効な働き方の一つとして、テレワークも事業主の努力義務の対象に追加 ・「親と子のための選べる働き方制度(仮称)」)の創設と残業免除の拡充 ・「育児時短就業給付(仮称)」の創設
3.男性の育児休業取得の促進
次のような論述がありますが、男性の育児休業取得を促進するためには、どのような施策が必要となるか検討しましょう。
日本人は周囲の人たちの行動にことのほか敏感だ - そんなふうに感じている人も多いだろう。実際、自分の行動を「まわりの人」に合わせなくてはならないという発想は、日本の社会に深く根を張っているように見える。私は、これを「仲間の影響力」と呼んでいる。社会科学の用語を使えば、育児休業を取得しないという形で「仲間」と同じ行動を取ろうとする男性たちは、「規則性に関わる規範」に従っていると言える。
規則性に関わる規範とは、その社会で「当たり前」とされる行動、言い換えれば普通もしくは正常とみなされる振る舞い方に関する規範と考えればいい。人々がその種の規範に従うのは、それに逸脱した行動を取れば、なんらかの代償を払わされると思うからだ。その代償は、のけ者にされたり、負の烙印を押されたりするなど、社会的なものの場合もあれば、昇進の機会を失うなど、もっと具体的なものの場合もある4。
<考察>
上記のように、政府も仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を図るため働き方改革に取り組んでいますが、労働者の意識を変えるためには、この論述が指摘する職場における「規則性に関わる規範」を改める必要があると思います。
ただ、この職場における「規則性にかかわる規範」は、協調を重んじる国民性に基づくものでもあり、それを改めるのはなかなか難しく、多くの男性社員が育児休業を取得して初めて改まるのでしょう。
ところで、群馬県高崎市では、育児休業取得が昇任・昇格に影響なしと制度変更したら2023年度の男性職員の育児休業取得率が、前年度の約4倍の約83%に達したとされています5。同市では、それ以外にも上司による育休取得の働きかけの徹底、代替職員の確保などの取り組みも行われたそうです6。同市のように、管理職が男性の育児休業取得を積極的に勧めることは、男性の育児休業取得を促進するために有効な施策だと思います。
1 同戦略6頁。 2 同戦略9頁。 3 同戦略25頁以下。 4 メアリー・C・ブリントン著 池村千秋訳『縛られる日本人』(中央公論新社、2022年)88頁 5 読売新聞オンライン2024年3月10日。 6 高崎新聞 2023年6月16日。
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