自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[53]令和2年7月豪雨災害──高齢者・障がい者等の被災者支援
地方自治
2021.06.02
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[53]令和2年7月豪雨災害──高齢者・障がい者等の被災者支援
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2020年8月号)
令和2年7月豪雨災害と被災者支援
7月3日以来の九州地方などを襲った豪雨災害で被災された皆様に、心からのお見舞いを申し上げます。被害が拡がらず、一刻も早く復興されますよう心から祈念いたします。被害は7月16日現在、死者76人に上る(総務省消防庁調べ)。
特に残念なのは、熊本県球磨村の特別養護老人ホームで14人が亡くなったことだ。メディアからは避難勧告等のタイミングや住民への伝達等について課題があったのではないか、というニュアンスの報道がなされている。だが、施設職員も自治体も責めないでいただきたい。そういう場所に立地を認めた制度が根本原因だからだ。深夜から未明という時間帯、予測を超えた雨量(7時間で600㎜!)のため、施設や自治体が十分な対応ができなかった可能性はあるが、今は検証の時期ではない。災害が発生してしまえば、事前の対策がどうだったかなど考えている場合ではない。まして、行政批判して被災自治体の時間を奪うべきではない。被災者はもとより自治体、防災関係団体は、次の被害を最小限度にとどめるため、全力を尽くさなければならないからだ。
懸命に救助活動、避難所等での支援を続ける被災自治体を支援する観点からの報道を強く願う。
また、被災自治体、関係団体の方には、大変な状況ではあるが、従来の対策とともに高齢者・障がい者等の支援のため、以下の対策にも早急に取り組まれることを願っている。
コロナ禍での避難生活
緊急避難する避難場所と避難生活を営む避難所を分けて考えたい。
避難場所は災害から緊急に命を守る場所であって、ある程度の3密はやむを得ない。むしろ、避難しない方が危険だ。もし、コロナ感染を恐れるあまり避難が遅れたとしたら、極めて残念だ。
一方、コロナ禍は避難所のあり方を大きく改善する機会である。避難所については、体育館で雑魚寝から始まる避難生活を避けなければならない。被災直後は多人数もやむを得ないかもしれないが、できるだけホテル、旅館、学校の教室等を活用し、少人数・個別空間での避難生活を目指す必要がある。
その際、避難所の受付で健康チェックリスト(表1参照)を使って、新型コロナウイルス感染者、濃厚接触者、要介護者、乳幼児等をゾーン分けして、相互に接触しないように努めていただきたい。
福祉避難所の開設
福祉施設も大変な中ではあるが、余力のある施設は事前指定の有無にかかわらず、また自治体からの要請を待たずに、福祉避難所として高齢者・障がい者等を受け入れていただきたい。自治体も躊躇なく事後指定することが大切だ。福祉避難所に指定されることで、様々な支援が受けられる。
特に、福祉避難所では、24時間体制になるので介護、看護人材が足りなくなる。これまでの経験では、福祉施設職員は使命感が強く、災害発生当初にがんばりすぎて1週間以上経ち、すっかり疲れてから応援要請をする事例が多い。福祉避難所は、本来業務も長期戦になるので、早め早めに、また多め多めに交代要員を確保することが重要だ。応援者も、福祉施設からの要請がないと行きにくい。
「助けてください」と声を上げる力を受援力というが、当初の段階から受援力を発揮するのが望ましい。また、近年の高齢社会では、非常に多くの高齢者が避難してきて、その物資が不足する。早い段階で仲間の法人、会社、自治体に支援物資の要請をすることが大切だ。
「地域支え合いセンター」の早期設置
近年は避難所が混雑していたり、プライバシーが守られにくかったりするため、車中泊を選ぶ人が増えている。また、1階が浸水して、2階で生活している被災者も多く、とても心配だ。昨年の東日本台風災害では、自宅が水に浸かって下着がすべて濡れ、洗濯機も使えずに何日も同じ下着を使っていた事例を聞いている。車中泊を含む在宅避難者の安否確認、ケアを早めに行う必要がある。
避難所の食事、物資について、その避難所にいる人への支援と勘違いしている人もいるが、避難所は地域全体の避難生活を支える拠点である。在宅の被災者でも支援物資を受け取ることができる。このようなことが、隅々にまで伝わるように、自治体職員、議員はもとより、地域のリーダーや消防団などからも明確に伝えていただきたい。
そのためには、社会福祉協議会が福祉関係者を中心に在宅支援を行う「地域支え合いセンター」の設置を提案する。このセンターは、東日本大震災、熊本地震以降の災害で、主に仮設住宅入居者支援の見守り、相談支援のために設置されてきた。これを早期に立ち上げることで、生活支援や再建に関する重要情報を在宅避難者らに伝え、見守り支援により災害関連死を防止する拠点となる。実際に、熊本地震では災害発生後、1か月以内に亡くなった人がとても多い(図1参照)。
これまでの災害で「地域支え合いセンター」業務を担った人が、リモート、または現地でその経験をお伝えすることで支援いただきたい。
【参考】わかりやすいお役立ち資料
・『新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック』
健康チェックリストや感染者、濃厚接触者、要介護者、妊産婦・乳幼児など被災者の状況に応じて、学校の教室を活用したゾーニングレイアウト案を参考にしてください。(「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」の専門委員会「避難生活改善に関する専門委員会」作成)http://jvoad.jp/wp-content/uploads/2020/06/5a06198f7ed43dc4d5d3d57f86dc6032.pdf
・『水害にあったときに~浸水被害からの生活再建の手引き~』
日常生活を取り戻そうと考え始めたときに有効です。イラストが多く、保険の請求、浸水した家屋の泥出し・乾燥などのポイントがとても分かりやすい。(「震災がつなぐ全国ネットワーク」作成)https://blog.canpan.info/shintsuna/archive/1420
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。