議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第52回 報酬カットは当事者の勝手なのか?
地方自治
2021.07.22
議会局「軍師」論のススメ
第52回 報酬カットは当事者の勝手なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年7月号)
新型コロナウイルス感染拡大に伴う地域経済低迷を受けて、議員報酬等を独自に減額する議会が増えてきた。今号では当事者判断による報酬等の減額(以下「報酬カット」)について、任命職の視点から考えてみたい。
■報酬カットに報酬審は不要か
特別職には一般職の人事院勧告に相当する制度がないので、報酬額が世間の給与水準と必ずしも連動しない。そのため多くの自治体では、諮問機関としての特別職報酬等審議会(以下「報酬審」)を設置し、答申に基づいて報酬を改定している。国が設置を求めた1964(昭和39)年当時の主眼は、議会による恣意的な報酬増額を防止する点にあったことは事実である。
だが、1968(昭和43)年の自治省行政局長通知では、報酬審委員選任の公平性、客観的資料の例示、住民意見の反映、答申内容と異なる改定への戒めなど、報酬改定プロセスの透明性や客観性の確保と答申の尊重を明確に求めている。
その趣旨からは、報酬カットの場合に諮問をしようとしない現状には疑問が生じる。現実には、定期答申直後にその内容を無視するかの如く報酬カットした例もあるが、その際も当該報酬審委員を務める有識者からは、「根拠なく当事者が報酬カットするならば、報酬審の存在意義などない」との苦言を呈されたことがある。
報酬カットの場合も、その妥当性について報酬審の答申を経る必要性があるのではないだろうか。
■寄附禁止の趣旨は何か
公職選挙法上は、199条の2によって公職の候補者等(以下「候補者」)の寄附行為は禁止されている。その趣旨は、寄附は候補者による地盤培養行為であり、買収に結びつきやすいからだとされている。
したがって、議員報酬を受け取ってから自主返納すると違法となるため、報酬カットしようとする場合は、支給時に減額する特例条例の制定によることが一般的であり、形式上は違法とまでは言えない。
だが、減額による効果は寄附と事実上同じで、現職議員にとっては次期選挙を視野に入れた有権者へのアピールとなり得るため、新人の立候補予定者にとっては不公平感があり、事実上の脱法行為と受け止められるのではないだろうか。
■未来の議会への懸念
別の観点からは、議員自身に起因しなくとも報酬カットすることが常態化すると、いわゆる「議員のなり手不足問題」に波及することも予想される。
たとえば、現職議員の専業比率が低ければ、議員や議会に対する報酬カットの影響は、今は限定的であろう。だが、長期的には議員のなり手を減らしかねないという面からは、将来の議事機関の存立に関して大きなダメージとなり得るだろう。
■課題を俯瞰する重要性
市民の気持ちに寄り添う姿勢は、もちろん重要である。だが、立法趣旨を無視する正当理由にはなり得ず、また、現在だけでなく将来をも見据えた判断が必要だろう。
法では4年とされる議長任期を事実上1、2年にする運用をしている議会が大多数であることと同様、全国的に行われていることであっても、必ずしも正しいとは限らない。
局職員にも、任命職だからこそ公選職とは違った視点で、議会を取り巻く課題を俯瞰することが求められているのではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。